第9話 会議室

ハワイ・パールハーバー軍港。

新国連・北太平洋第七艦隊の基地である、その軍港に一隻の

潜水艦が寄港した。

船体にデカデカとプリントされている、黄色い派手な花文字書体。


  ” LANCEROTTY LANCE ”


その潜水艦の艦長、リチャード・ランスロッティは管制室の隣の

会議室に通された。

「君を呼んだのは他でもない。知っての通り、空母沈没の件でだ。」

待っていたのは、北太平洋第七艦隊提督デビッド・ソロモンだった。

「捜索という依頼でよろしいのでしょうか?」

ランスロッティ艦長の質問に、すぐには返答しなかったソロモン提督は

一枚のディスクをケースから出した。

「まずは、この映像を一緒に見ようじゃないか。」

室内の照明が落とされ、プロジェクタースクリーンに動画が映し出された。

艦上からのドローンで撮影されたらしく、薄暮の海上にイージス艦カウアイの

全景が映し出された後、画面の中央部分は海上上空のある一点に向けられた。

そこには、さながら彗星のような光の尾が遠くにあるように見えた。

「君は、あのスタイラスが撃墜されたという報告を聞いたことはあるかね?」

「・・・いえ、聞いた事がありません。あれば、大ニュースなはずです。」

「この映像なんだが、”ゾンビプレーン”とスタイラスを同時に撃墜した、という

触れ込み・・というか、謳い文句らしい。今からそれを審議するところだ。」

「そう言えば、提督は現場にいらっしゃらなかったのですか?」

「いなかった。どうやら空母側が、新兵器の売り込みを兼ねた試射というメーカー

側からの依頼を単独で受けてしまった、というのが真相のようだ。」

「これは・・・規律違反だと思うのですが?」

「国連からのミッション発令期間中であるなら・・・そうなる。」

「いくら、一隻の軍艦が一つのTEAMだからと言って、法的拘束力は・・・」

「無いんだ。残念ながらな。だが、この問題は近く議会にかけられるだろう。」

画面に(艦載機の姿が一機も無い)空母フレデリック・ジェイソンの全景。

ここで、画面に字幕の説明(キャプション)が入った。


{ 最近、海上を徘徊しているゾンビプレーンに、< 船狩り >を仕掛けられる

事が多くなった。艦隊に迷惑をかける訳にはいかないので、何か効果的な撃退方法

があれば提示してほしい。 との、ご相談を受けました。 }

「・・・迷惑か。 モノは言い様だな。」

{ そこで、我々WO・PARTSは、かねてより研究開発に勤しんできた新兵器を

導入、問題解決に一役買うことが出来るならばと、ご依頼を受諾、今回の作戦決行に至った訳です。 }


映像には音が無いせいか、静かな会議室内。

突然、空母の舳先が爆発したように見えた。


{ 我々WO・PARTSが開発に成功した、”レールガン”発射の瞬間です。 }

 その数秒後、遠方の海上で閃光と爆発があった。


「ほぉ・・・ どうやら命中したらしい。」

「初めて見ました。実験として見ても、これは成功では?と思うのですが。」

「確かに、ぶっつけ本番にしては奇跡的に成功したと言えるだろう。」


画像は空母上空からの視点に切り替わり、日が落ちてすっかり暗くなった海上を

空母のサーチライトが、ある一定方向を照らし当てていた。


{ 撃墜させた後、その証拠物件となった物を放置する訳にはいきません。

我々WO・PARTSは、空母フレデリック・ジェイソン、イージス艦カウアイの

協力の下、その現場海域へ向かう事にしました。 }


「今の所、空母が沈没してしまったという要素が見当たらないのですが?」

「まぁ、見てみよう。」

サーチライトに照らされた海上の一部。そこに映し出されていたのは・・・


{ 残骸の様子から見て、やはり元旅客機のゾンビ・プレーンで、スタイラスと

思われていた機体は、無人攻撃機由来のゾンビ・プレーンと判明しました。 }


「・・・だろうな。スタイラスがこんなにあっけなく撃墜されるはずがない。」


{ 調査のため、空母は回収作業に入りました。 }

空母から太い蛇腹状のホースが数本ほど海上に投下され、残骸を吸引し始めた。


ここで、静止画像のコマ送り映像になった。

1、海上に浮かぶ、機体の残骸。

2、空母のそばに浮遊している、円盤状の部品(?)。

3、2の画像に加わる何本かの矢印。円盤状の部品(?)を指し示している。

4、空母のそばに不自然な「姿勢」で浮いている、円盤状の部品(?)。


映像は再び動画に切り替わったが、そこは一見関係無さそうな空母の甲板の上。  だが、その場所は数多くの乗組員で溢れかえっていた。

再び矢印が表示され、点滅。

どうやら、乗組員のいる甲板と海面との高低差を示しているようだった。

通常の船舶ではあり得ないくらい近く、乗組員の多くは救命ボートに乗り込む

順番を待つ間、かなりの波をかぶっている様子に見えた。

「まさか・・・これが?」

「・・・・そういう事なんだろうな。」


{ この後、空母の乗組員は全員無事救助された、との事です。 }

{ 撃墜に成功していながら、そして、一切の攻撃を受けた訳でもないのに

空母は沈没してしまいました。 }


矢印の表示は、ある一点を指し示し、クローズアップされた。

それは、”円盤状の部品”の不自然な浮き方に対し、その物体を貫くような

表示だった。


{ これは、船底にへばり付いている。と、見るほかありませんでした。 }


矢印表示のすぐ脇に、”海水の侵入”と表示。 それも一ヶ所だけではなかった。

「・・・では、改めて依頼を出すとしようか。」

 




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