第29話 未来の私

 ようやく帰っていった。さて、どうなることやら……


 「ライトちゃんは凄いですね!」


 「どういうこと、カルノアちゃん?」


 「だってあのアイザック家の長男の話をあんな簡単にスルーできるなんて!」


 やっぱりまずかったかな……大丈夫どうにかなるよね!


 「そ、そう?」


 「いつ消されてもおかしくない状態に自らなる人なんか、ライトちゃんだけですよ!」


 え……本当に? どうにかならないやつでは……


 「大丈夫だよね? 明日の朝迎えられるよね?」


 「あー。きっとライトちゃんを殺したらあの集団に報復を受けて、大変なことになるから今のところは平気じゃないですか?」


 あの集団ね……大丈夫なのか。信用できるのか怪しいラインだが。


 「きっと、きっと大丈夫ですよ、ね?」


 「そ、そうだよね。これ以上考えてもしょうがないよね?」


 「ホームルームを始める」


 あ、カミール先生。やっぱりあの人の声は清々しい。


 「今日はクラブの見学がある。それと、ライト後で来なさい」


 なにかしたっけ……


◆◇◆


 「ライト先生どうかしましたか?」


 「いや、面白い状態になってそうだな」


 カミール先生の面白いって一体……


 「盗み聞きしてたんですか?」


 「何のことだ? まぁ、良いけどな。それで、どの授業を受けるんだ?」


 「……あ! そういえば、提出できてないんですね。えーと、神話研究学と……歴史でいいですかね?」


 「なかなか良いの選ぶじゃないか。神話研究学の先生は、結構面白いぞ。まぁ、勉強する必要性はないが……」


 「カミール先生って神話研究学勉強したことありますか?」


 前に聞こうと思っていたのがやっと質問できた。


 「してない。する意味がないからな」


 「どういうことですか?」


 「……そのうちわかる」


 「そうですかぁ」


 カミール先生のそのうちとは一体。


 「さぁ、早く講堂に行ってこい」


 あれから数週間が経った。私は、普通な学園生活を楽しんでいる……はずである。友達がいないのと、あのアイなんとかに毎日絡まれることを除けば。


 今は、いつものカミール先生の講習が終わって、帰る途中だ。


 帰り道、大分視線にも慣れてきた。時々、夫と思われる人がいたりとか崇め始める人がいたりとか……それも日常になっていた。


 やっと家に着いた。今日はあの人くるかな? あ、あの人は毎日美味しいパンを持ってくるライトちゃんを崇める会のメンバーだ。来る人は、ループしてくるらしい。大体、三人くらいだろうか?


 コンコン


 ドアが鳴る。いつものパンが届いたのだろう。いや〜仮面を取っただけで毎日こんな美味しいパンを貰えるなんて異世界最高だ!


 「今行きますー」


 速くパンを受け取ろう。


 そう思ったその時。


 「ダメだ、行くな!」


 聞き覚えのある、よく透き通った綺麗な声が聞こえた。もちろんその声の持ち主はカミール先生であろう。でも、一体なぜ家にいるんだろうか? 


 「あれ、カミール先生どうしたんですか? というか、なんで家にいるんですか?!」


 「それはな、ライト、お前がそのドアを開けないようにするためだ」


 「? どういうことですか? あの信者たちは私のためにいつも美味しいパンをくれるんですよ!?」


 「……はっきり言っておくがそのパンには中毒性のある薬が入っている。お前の不老不死のお陰で死にはしないが、大変な状態だ。まさか、何週間も気づかないなんてな……」


 「不老不死!? 何言ってるんですか?」


 私のトップシークレットが知られているなんて。あり得ない。


 「はぁ、心が読めるって最初にあったときに話したじゃないか」


 わ、す、れ、て、た……それじゃ全部筒抜けだったの? そんな……


 「まぁ、良い。話を戻すぞ。お前は、いつも、朝その変な信者に話しかけられるだろう?」


 「そうですけど……なにか?」


 「本当にダメだな。危機感がお前にはないのか? そんな宗教存在しないっていう事実を教えないダメか?」


 「は? ちょっとどういうことですか?! あの子たちは凄い良い子なんですよ!」


 「もういい。何もいうな。私の教え子に私から手助けするのは控えてたのだが……ここまでだとしょうがないな」


 カミール先生何言ってるんだろう……あの会員は、毎日挨拶してくれたり物くれたり食べ物くれたりする良い子たちなのに……


 「……」


 そして、カミール先生は無言でなにか魔術を使った。


 「……?! あれ? 今カミール先生詠唱しました?」


 「これで大丈夫なはずだ。今まで何してたかわかるか?」


 どういうことだ。なんかカミール先生が、凄い真剣な顔をしている。そして、怖い。まるで神話に出てくる神のような人に見られているような威圧感がある。


 今までか。えーと、確か、あの怪しい集団からパンをもらったのを食べて……


 「え!? どうなってるんですか! やっぱり完全に怪しい何かがはいってたんですか?! もらった時から怪しいと思ってたんですよ! 本当ですからね?」


 「まぁ、元に戻ったなら良いのだが……」


 コンコン。


 ドアを叩く音がする。


 「あれ、誰か来たんですかね。はーい、今行きます」


 「ライト、そこを開けるな! さっき、元に戻った瞬間にこれか!」


 カミール先生が怒鳴った。私は言った。


 「え、でも、悪いですよ。怪しい集団だとしても、居留守を使うなんて良い気分じゃ無いですし……」


 「……お前は自殺願望でもあるのか? 正気の沙汰では無いぞ」


 「で、でも!」


 「とにかく開けるな!」


 ここまで言われるのか……しょうがない。


 コンコン。


 『ライトさん。居ないのですか? もし会えないまま帰ったら私、悲しさで自殺しますよ?』


 追い討ちがきた。この言葉で私は開けようという気になりかける。いや、なった。


 そして、ドアに手をかけた。


 「「やめろ! 開けるな」」


 え、今の誰。私によく似た声が聞こえた。


 後ろを振り向くと、よく見慣れた私の姿があった。


 「えーと、あなたはどなたですかね?」


 「俺は、あんたのよく知るライト。未来から来たライト・ピタゴラスだ」


 「未来からきた……?」


 どういうことだ。未来からきた? このドアを開けさせないようにするためだけにか?


 「わからないような顔をしてるがその通りだ。俺は、あの時ドアを開け、人質にされた。そして、あのクソ野郎どもにカルノアを殺され、リムアムちゃんも殺された」


 「……そんなことが」


 「甘い考えをしてはいけない。この世界はこの世界なんだ。あの……ここまでしか話さない方がいいかな」


 「未来からきたライト、だっけ? あなたは、どこまで自分のことを知っているの?」


 「全てだ……と思う。一応、カルノアもその憎らしいあんたもそしてリムアムちゃんの正体も知ってる」


 「そう。あなたは、私を憎むかしら?」


 「憎むな。俺に何も説明しなかった。いや、出来なかったのか? 細かいことは知らないが……俺は憎む」


 「えっと、どういうことですか? 話が全くわからないのですが」


 一体いつまで話を置いていけば気が済むのだろう。何一つ言っていることがわからない。


 「未来からきたライト。あなたなら、今どうするかしら?」


 「俺だったら、戦う。あの腐った集団、研究者どもを殺すために」


 だから話がわからないのだが……未来からきた私。一体何を知っているんだろうか。


 「俺だったら、戦う。あの腐った集団、研究者どもを殺すために」


 だから話がわからないのだが……未来からきた私。一体何を知っているんだろうか。


 「それで、私はどうしたら良いのですか? 話が全く分からないのですが……」


 この二人はいったい何をどうしたいのか。私にはまったくわからない。それに深く考えなかったけど、未来からきた私ってなんだよ。口調もカミール先生みたいだし……


 「俺が思うに俺は全然危機的状況になったことがない。だから、前みたいなことが起きたんだと思う」


 知らない未来のことを話さないでほしい。というか、カミール先生に未来のことを話してもわかるのだろうか。


 「確かにそうかもしれない。完璧な方法だと思っていてが、まだまだ私も未熟だったということか……それなら、ライトには自らあの集団を倒してきてもらうか」


 カミール先生何言ってるんですか。あのライトちゃんを崇める会をライトが壊すってどうかしてますよ……いや、普通に嫌がる人はいそうだから一般的な発想なのかもしれない……


 「俺のその案がいいと思う。是非ともライトには、苦労をしてもらいたいな」


 未来から来た私!? なんてこと言ってんだ!? 


 「よし、じゃあそうしよう」


 「そうね……」


 いつの間にか物事が決まってることってあるよね……きっとどうにかなる……と思う。

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