ACT1 ニート勇者 堕落
返せぬ借金
キミィは髪は伸びてボサボサ、顔は無精髭がゴミの様に散りばめられ、ボロボロでピチピチのデニムに、ダボダボで至る所にシミが付いたパーカーという如何にもな出で立ちで、何故か街外れのファストフード店に居た。
大量のポテトと、シェイクが置かれた盆に手を伸ばすとシェイクの蓋を開けて、大量のポテトをそこに差し込んで一気に食す。
「ぐふ~、このあまじょっぱさが堪んねぇ」
嬉しそうに二口目を入れている時に、ふとその視線に気付く。
二つ向かいに離れた席から、齢4つ程のツインテール幼女が、こちらをじっと見つめていたのだ。
――幼女ッッ‼ しかも、ツインティル……ッッ‼
8ヵ月ぶりに自室以外の場所に出て、しかも現実幼女に出逢ったのは2年ぶりくらいだった。必然キミィの息は荒くなる。
その異変の意味に気付く事もなく、無垢な幼女はこちらにその小さな示指を突き立てると、隣の母親と思われる女性(多分年下)に尋ねかける。
「ねぇ~ママァ、あのふとったおじちゃん、しぇーくにポテトいれてるよぉ? おかしいよねぇ? 」
可愛らしい声が、そう響いた直後その幼女は母親と思わしき女性(多分年下)に抱き抱えられ姿を消した。
「しっ、見ちゃいけません」
母親に抱えられ足早にそのテーブルから去っていくその幼女を見つめながら、キミィは気持ち悪く微笑んだ。
「キミィ兄さん‼ ごめん‼ お待たせ‼ 」
その直後くらいに慌ただしくスーツ姿のアルトリウスがやって来る。
「おせぇって……アルスぅ……ふんっポテト喰う? 」
油でダクダクのポテトを見て「いや、僕は大丈夫」と笑顔で断るとアルトリウスは颯爽と彼の向かい席に座った。
「ん~? アルス、また痩せたか? ちゃんと食ってんのか? ポテト喰うか? 」
にこやかに再度断ると、アルトリウスは「それで要件って? 兄さんが僕に連絡くれるなんて珍しいね? 」と嬉しそうに語った。
「ああ……実はな」
※※※※
「なるほど……いや、でも本当にいい機会かもね? なんたって兄さんは勇者なんだから、社会にきっと僕なんかとは違って貢献できる選ばれた人なんだから。
いつまでも家に留まってる方が勿体ないよ」
そう言うと、にこにこと微笑んでいる。
「……そういや、ガウェインちゃんは元気か? いくつになる? 」
その問い掛けに、アルトリウスは笑顔に更に明るさを足して饒舌になった。
「うん、もう2つだよ。いやぁ、ランスロットが産まれてから、翌年にガウェインとモードレッドの二人がいっぺんだったからさ。大変だったけど、毎日楽しいよ」
「ちょい、写メとかないの? 」
キミィが尋ねると、アルトリウスも嬉しそうにスマホをいじりだした。
「ほら、どうだい? 二歳の誕生日の時の」
その画面には、自分の身体よりも大きそうないちごのケーキに笑顔を向けている金髪ハーフアップの幼女が映っていた。
「……ちょっと、俺のスマホに後で送っといてよ」
「勿論だよ」
山の様に在ったポテトがすっかりと姿を消した頃だった。
「あのさぁ、アルスぅ」
気怠そうに口元を油まみれにしたキミィが囁く。
「お金、貸してぇ……」
その言葉を受け取ると、アルトリウスは微笑み快く返答した。
「いいよ? いくら? 」
「とりあえず、さんまぁん……ごめんなぁ、仕事みつけたら、返すからぁ……」
アルトリウスは財布から5万紙幣を取り出すと、更に言葉を添えた。
「いつでもいいよ。返せそうな時でね」
「ありがとなぁ……しかも2万もイロつけて……」
「よし、じゃあ僕、仕事に戻るね? 兄さん何かあったらまた連絡して」
「あっ‼ 待て、アルス‼ 」
立ち上がったアルトリウスは何事かと首を傾げた。
「ほら、ここの支払い。よろしく」
※※※※
「クソがぁ‼ 一回も確変に入らんってマジかよ~~~‼ 国、規制かけ過ぎだろがぁああ‼ 」
パチンコ屋で暴れるキミィが補導されたのは、それから僅か二時間後の事だった。
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