第155話 仲間

 俺には、大切な仲間達が居る。

 その仲間達はとても強く、貧弱な俺の事を、いつも助けてくれた。


 そんな仲間達に答える為に、俺は必死に強くなろうとした。

 しかし、その度に仲間達も強くなり、守られる日々が続いて居た。


 そんな日々が長く続いた、ある時。

 俺はふと、一つの事に気付く。


 確かに俺は弱い。

 だけど、仲間が居る時、俺は実力以上の力を出す事が出来る。


 それは、自分が弱いという事柄から逃げる為の、言い訳では無い。事実、俺は仲間が居る時は、一人で居る時よりも圧倒的に強かった。


 だけど、今。

 俺はそんな仲間達と、切り離されてしまった。


 目の前には、大量の悪魔達。

 持って居る武器は、少しの投擲武器と双銃だけ。

 俺に力をくれる仲間は、もう近くには居ない。


(それでも、俺は……!)


 見据える視界の先。

 今にも倒れそうな体で、必死に戦って居る勇者。

 俺の親友、ヤマト=タケル。


(行かなくてはいけない!!)


 強く歯を食いしばり、悪魔に向かって突っ込む。

 一度でも悪魔に捕まれば、俺は何も出来ずに死ぬだろう。

 それでも、仲間を待つ事は出来ない。


 勇者が、親友である俺を待って居るのだから。


「ああああああ!」


 必ず辿り着く。

 それは、与えられた『親友役』という役割を、果たす為では無い。

 大切な仲間を……『親友』を助ける為に!


 迫り来る大量の悪魔。

 汗が滲む両手。

 絶望を振り払い、悪魔の群れへと飛び込む。


 その時だった。




「真っ直ぐに走りな」




 どこからか聞こえる、懐かしい声。

 そして、後ろから吹き抜ける優しい風。


「アンタの道は、私が切り開いてやるよ」


 瞼に涙が溢れてきて、思わず目を閉じる。

 見えなくなる悪魔達。


 だけど、止まらない。

 止まる必要など、どこにも無いのだから。


「全く、世話の掛かる子だねえ」


 瞼を擦って目を開ける。

 強風に煽られて空に舞う悪魔達。

 そして、俺の足元には……


「だけど、それで良い。それでこそミツクニさ」


 俺と共に走る、白と茶色のサイベリアン。

 全てを見通す賢猫、リンクス。


「リンクス……!!」

「何ベソベソしてんだい? みっともないねえ」

「ああ……ごめん」


 溢れて来る涙を必死に拭い、前を見る。

 完全に切り開かれた、勇者への一本道。


 俺には仲間が居る。

 仲間が居れば、俺は強くなれる。

 例え勇者では無くても。

 俺は……誰よりも強くなれるんだ!


「ああああああ!」


 リンクスの風を借りて、一気に加速する。

 既にボロボロのヤマト。そこに辿り着くまで、おおよそ五秒。

 ヤマトの後ろに居た剣士型の悪魔が、ゆっくりと大剣を空に持ち上げる。


 振り下ろされる刃。

 反応出来ないヤマト。

 その小さな体に、悪魔の凶刃が降り注ぐ。


 間に合わない。

 黒き刃はヤマトの小さな体を切り裂き、その生命を奪い取る。



 ……俺が、弱いままの俺であったのなら。



「……」


 自分の体を支える事も出来ずに、その場に崩れ落ちそうになるヤマト。

 そんな、小さな肩を。

 傷だらけの右腕が、優しく支える。


「……五秒だ」


 間に合わなかったはずの五秒は、仲間であるマクスウェルが時を止めて。

 俺は大切な親友の元に、辿り着いた。


「ミツクニ……君」


 ゆっくりとこちらに向くヤマト。


「ミツクニ君……! ミツクニ君……!!」

「ごめんな。遅くなった」


 ポロポロと涙を流して、何度も頷く勇者。

 こんなに小さな体で、沢山の仲間を守り続けた少女。

 こいつは紛れも無く、俺の勇者。

 いや、皆の勇者だ。


「立てるか?」

「うん。でも……」


 自分の力で立ちあがり、右手に持つ宝剣を見つめる。


「魔力が回復しないから、剣の力を使えないんだ」


 宝剣、天叢雲剣。

 本来であれば、大量の悪魔を一撃で拘束する力を持つのだが、現在は世界からの魔力供給が経たれて、その真価を発揮する事が出来ない。



「ごめんね。僕にもっと力があれば……」

「あるさ」


 ヤマトの言葉を、力強い言葉で遮る。


「お前には、力がある」


 そう言って、ヤマトの持つ天叢雲剣の柄を、一緒に握る。


「み、ミツクニ君?」

「刺せ」

「え?」

「いつものように、地面に」


 一瞬疑問の表情を見せたが、すぐに真剣な表情で頷くヤマト。

 言われるがまま、地面に剣を刺す。

 その瞬間。


「これは……」


 剣から走る青き閃光。

 閃光は剣から勇者ハーレムへ。

 そして、勇者ハーレムから、周りに居る沢山の仲間達へ。

 その光は『勇者の仲間達』を繋ぎ合わせた。


「ヤマト! 行くぞ!」

「うん!」


 声に合わせて、光が強く輝き始める。

 仲間達から勇者ハーレムへ。

 勇者ハーレム達から剣へ。

 そして、剣から俺を通り、勇者であるヤマトへ。

 皆の魔力が……集まる。


「ベルゼ!」


 ヤマトの肩に乗るベルゼ。


「全世界に居る悪魔の魔力を検知。標的を完全に固定」

「ヤマト!」

「ああああああああ!!!!」


 剣に魔力を込めて、思い切り叫ぶ。

 仲間と繋がって居た光は、全て剣に収束されて。

 放たれた魔力は、全世界の悪魔に繋がれて。

 大地から突き立てられた青き刃が、全ての悪魔を拘束した。


 静かになる戦場。

 動かなくなった悪魔達を見て、仲間達が安堵の表情を見せ始める。

 しかし。


「ミ、ミツクニ君……!」


 全世界の悪魔を拘束して居るヤマト。

 当然の如く、その魔力は湯水のように減って行く。


「このままじゃ、また悪魔達が……!!」


 震える手で必死に剣を抑える。

 周りに居た勇者ハーレムもそれに気付き、慌ててこちらへと走り出す。

 そんな彼女達に向かって、俺は。


「大丈夫だ」


 皆に優しく微笑みかける。

 どうやら皆は、すっかり忘れて居るようだな。

 俺は勇者の親友だぞ?


 俺の親友は、もう一人居るんだよ。


「雫!!」


 俺達の頭上から。

 大量の悪魔を飛び越えて。

 異世界勇者が舞い降りる。


「はああああああ……!」


 姫神雫。

 その身に魔力を纏わず、この世界の魔法が効かないだけの人間。

 だけど、それは間違いだった。


「ああああああ!!」


 柄の先に振り落とされる拳。

 剣に流れ落ちる雫の力。

 その力は、この世界の魔力をかき消す、この世界には無い『魔力』。


 剣から放たれて居た青き刃は、雫から流れる赤い魔力を受けて紫へと変わり。

 ヤマトの魔力が尽きると共に弾ける。


 それと同時に。

 刃を受けていた悪魔達も……弾けた。


「……これは」


 ポツリと言ったのは、ヤマト。

 剣から手を離して、ゆっくり辺りを窺う。


「もしかして、勝った……」

「待て」


 言い掛けた言葉を、俺が遮る。


「ミツクニ君?」

「お前の気持ちは分かる。だけど、それを口にしてはいけない」


 剣から手を離して、ふっと笑う。

 ゆっくりと振り返る先。

 その先に居るのは、俺の大切な仲間達。


「その言葉は、負けるフラグだからな」


 ここは、皆の大好きな異世界だ。

 異世界では、フラグ一つで世界が変わる。

 だから、今回の俺達の勝利は、皆の笑顔で代弁しようじゃないか。

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