第154話 最後の世界崩壊

 突然悪魔が世界中に満ち溢れて、キズナ遺跡に居た僕達は、強制的に戦いを始めさせられた。

 最初は皆も元気で、何とか悪魔に対抗する事が出来た。

 だけど、時間が経つにつれて体力を消耗して、少しずつ悪魔に押され始めた。


 長期戦になると判断した僕達は、仲間をいくつかのグループに分けて、交代制で戦いを始めた。

 つかの間の休憩で仲間達は何とか力を取り戻し、再び悪魔を押し返す事には成功したが、それも長くは続かなかった。


 そして、今。


 キズナ遺跡に居る者は皆満身創痍で、自分の身を守るのが精一杯。

 僕やハーレムの仲間達がそれをフォローしているのだが、長く続いて居る戦いのせいで、魔力を大きく減らし、通常の戦いは出来ずに居る。

 僕も既に大部分の魔力を失い、神器の力を上手く発動出来ない。


 紅色に染まる空。

 砕け続ける大地。

 失われて行く……緑。


 僕達は、この世界に見捨てられたのだろうか?

 このまま悪魔に排除されて、滅び行く運命なのだろうか?


 湧き上がる負の感情を押し殺して、ひたすらに悪魔を狩る。

 既に腕は重く、悪魔の攻撃も剣で弾くのがやっと。足も上手く動かなくて、全ての仲間を守る事が出来ない。


 僕は……勇者なのに。

 勇者なのに!!

 本当に大事な場面で! 仲間を助ける事が出来ない……!!


 足がもつれて、その場に倒れ込む。

 その隙を逃さず襲い掛かって来る魔物達。

 僕は口に入った土を吐き出し、すぐに立ち上がって剣を振るう。


 灰になる悪魔。

 剣を地面に刺して、肩で息をする僕。

 そんな僕に向かって、悪魔が再び群がって来る。


(僕は……!)


 歯を食いしばる。


(僕は……!!)


 戦いたいのに!

 皆を守りたいのに……!


 体が……動いてくれない。


 足の力が抜けて、体が崩れ落ちる。

 ゆっくりと近付いて来る地面。

 消えようとする意識。


 もう、抗えない。

 皆……守れなくて、ごめん。

 駄目な勇者で……本当にごめん。



 僕は、もう……




『ヤマトォォォォォォォォォォ!!!!』




 その声で、僕の意識が蘇る。

 湧き上がる力。

 すぐに体勢を立て直し、近くまで迫って居た悪魔を切り払う。


 それと同時に、空から降り注ぐ無数の光。


 知っている!

 僕は……この光を知っている!


『待ってろよぉぉ! 今そこに行くからなぁぁぁぁ!!』


 遥か彼方で何度も光が弾けて、その場所に居る悪魔達が吹き飛ぶ。

 その光景を見て、生気を取り戻す仲間達。

 そして、僕も……


(来て……くれた)


 目に溜まっていた雫を拭い、剣を前に構える。


(来てくれた……!!)


 小さく息を吐き、悪魔達に飛び込む。


 僕は……この世界の勇者。

 僕には、ピンチの時にいつも助けてくれる、大切な『親友』が居る。



 口に当てて居た拡張メガホンを便利袋にしまい、大きく息を付く。

 目の前に広がる景色は、こちらに向けて殺気を放つ、大量の悪魔の姿。

 どうやら、悪魔達の意識をこちらに向ける作戦は、成功したようだ。


「ミツクニ」


 ピピッと音を鳴らして、空からベルゼが下りて来る。


「どうだった?」

「うむ、やはりキズナ遺跡を中心にして、世界中の悪魔が集まって来て居る」

「そうか」


 悪魔の動きは予想通り。

 そんな中で、ヤマト達は仲間達と上手く連携して、何とか拠点を守って居るようだ。


(とは言え、グズグズしては居られない)


 目の前に居る大量の悪魔。先程メリエルの光線で焼き払ったが、まだまだ数は多い。

 このままでは、物量で押し切られてしまう。


「ミツクニさん、どうします?」


 雫が尋ねて来る。

 それに合わせたかのように、こちらに向かって走り出す悪魔達。

 俺は腰の双銃を手に取ると、真っ直ぐに悪魔を見ながら言った。


「勿論、正面突破だ」


 号令と同時に全員が走り出す。

 選択肢など、最初から存在しない。

 ヤマトと最速で合流しなければ、この状況は打開出来ない。


「おおおおおお!」


 己を奮い立たせる為に大声をだして、迫り来る悪魔を双銃で片付ける。

 先程は悪魔の注意を引き付ける為に大技を使ったが、これ以上は使えない。

 何故ならば、キズナ遺跡に居る仲間達が、何処で戦って居るか分からないからだ。


「はっ!」


 犬型の悪魔であるフェンリルと連携して、悪魔を切り刻む雫。フェンリルは悪魔なので寝返るかと思ったが、どうやらそれは無かったようだ。


「はい! はーい!」


 黒い翼を背中から出して、周りの悪魔を駆逐するミント。彼女の居る方面から悪魔が来る心配はなさそうだ。


「ティナ!」

「大丈夫です!」


 二人の天使が連携して、空から襲ってくる大量の悪魔をなぎ倒す。この二人に任せれば、空から攻撃される心配は無いだろう。


「フランさん!」

「おっけー!」


 俺達の後ろに続き、後方の悪魔を撃退するフランとサラ。

 フランが作った謎の爆弾の威力は凄まじく、俺達が後ろに下がる事は、もう出来ないだろう。


(よし! このまま……!)


 行けると思ったその時。

 キズナ遺跡を攻撃して居た悪魔の大部分がこちらに向き、一斉に襲い掛かって来る。

 圧倒的な物量。

 仲間達は何とかそれを凌いで居るが、肝心の正面の壁が厚くなり、進む速度が遅くなってしまった。


(くそっ!)


 四方八方から圧力を掛けて来る悪魔。

 このままでは……!


 そんな時。

 右奥で起こる大爆発。


(あれは……)


 その先に見える旗の記章。

 太陽の刻印。


「ウィズ……!」


 そう、叫んだ瞬間。

 空から黒き刃が無数に振り注ぎ、目の前の悪魔が弾け飛ぶ。

 そこに降り立った一人の女性。


「夫のピンチに現れるのは、妻として当然の事だ」


 ウィズ=サニーホワイト。

 綺麗な青白髪を左手で払い、こちらを見て微笑んだ。


「行くぞ!」


 そう言って駆け抜けると同時に、ウィズも俺の横を走り出す。


「悪魔領の方は大丈夫なのか?」

「ゼン様が来て、一瞬で片が付いたよ」

「それじゃあ……」

「ああ。父上が戦える全魔物を率いて、あそこで戦って居る」


 派手な光を放ち、悪魔が吹き飛ぶ右前方。

 あれのおかげで悪魔達の意識が散り、進みやすくなって居る。

 だが、まだ大部分の悪魔がこちらに集中していて、ヤマトの元に辿り着くには時間が掛かりそうだ。


(あと一押しあれば……!)


 そんな事を考えて居た、その時。

 左上から降り注ぐ、大量の隕石。

 高熱を帯びた隕石群は悪魔達を容易く押し潰し、辺り一帯を燃やし尽くした。


「あれは……」


 周りを気にしない常識無視の範囲攻撃。

 あんな事をする人間を、俺は一人しか知らない。


「全く……面倒ね」


 正面にぽっかり空いた安全地帯に佇む、三人の女性。

 王道ヒロイン、シオリ=ハルサキ。

 ツンデレ聖女、エリス=フローレン。

 そして……


「ほら、早く行くわよ」


 ふっと笑って俺の横に並ぶ、黒紅髪の鉄球娘。

 女王、リズ=レインハート。


「帝都は大丈夫なのか?」

「知らないわ。ジジイに全部任せて来たから」

「ジジイって……」


 ジジイ事、前任の異世界勇者、大場一郎。

 年老いたとはいえ、あいつに任せておけば大丈夫だろう。


「リズ、さっきの隕石はお前の魔法か?」

「ええ。鉄球魔法の最終奥義よ」

「仲間とかを巻き込みそうで危ないから、もうやめてくれよ」

「仕方ないわね。ミツクニに鉄球を投げるだけで我慢するわ」

「この状況でそれを言えるお前が、一番危険だな」


 冗談を言い合い、鼻で笑う俺達。

 リズの冗談を聞くと元気が出てしまう。

 多分、魔法学園で長く一緒に居たから、俺の体がそうなってしまったんだろうなあ。


「よおおおおし!!」


 大声を出して、一気に加速する。

 風に吹かれる塵のように、次々と吹き飛んで行く悪魔達。

 視界の先には、既にヤマトの姿が見えて居た。


(もう少し! もう少しだ……!)


 このまま行けば間に合う。

 ……そう思ったのに。


「……!?」


 突然大地が大きく揺れて、地面が引き裂かれる。

 離れ離れになる仲間達。

 何とかその場を抜けられたのは、仲間に守られて居た俺一人。


(くそぉぉぉぉぉぉ!)


 目の前には大量の魔物。

 そして、フラフラの状態で戦って居るヤマト。


 間に合わない!

 このままでは……間に合わない……!!

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