第153話 世界救済プレゼンテーション

 人間の魔力を世界に還す事で、世界が救われる事を知ってから、三日が経った。

 俺達はその間も実験や相談を繰り返して、大量の魔力を世界に還す方法を考えた。

 時には無茶な意見も出たが、最終的には皆が同じ結論に辿り着き、このやり方なら無理が無いだろうという事で合意した。

 そして、現在。

 俺達は再び集まった世界の裏ボス達の前で、研究の成果を発表する事になった。



 研究室の中央にある円卓。前回のように皆がそれを囲んで、静かに座っている。

 俺は前回とは違い、電子スクリーンの前で、伊達眼鏡を装着して皆の方を向いて居た。


「それでは……」


 眼鏡をクイッと上げて、ポケットから教鞭を取り出す。


「これから、俺達が考えた世界救済方法について、お話しします」


 その言葉に対して、まばらに起こる拍手。

 そう。今からここで始まるイベントは、世界救済についてのプレゼンテーションだ。


「最初に、この救済方法に関しては、仲間達と厳密に話し合い……」

「前置きは良いから早く始めんか」


 退屈そうにあくびをするゼン。

 だがしかし、そうやって呑気にしていられるのも今のうちだ。

 何故ならば! 俺達の考えた世界救済理論は完璧だからな!


「では、まずこれを見て下さい」


 俺は持って居た教鞭を伸ばして、スクリーンをぺちんと叩く。

 浮かび上がったのは、先の戦闘で緑が生い茂った訓練場。


「皆様もご存じの通り、先の戦闘でヤマトの魔力を世界に還した時、その周りに草木が発生するという現象が起きました」

「なるほど……」


 モニターを見ながら頷くレイジ。


「つまり、ヤマト君が持って居る剣を使い、世界中から魔力を集めて、世界に還してしまおうという訳だね?」


 それを聞いて、絶句する俺。

 ……お、おかしいな。

 俺はまだ、ヤマトの剣を使うという言葉すら、匂わせて居ないはずだが?


「ええと、簡単に言えばそう言う事で……」

「しかし、ヤマト君単体の魔力では、それは出来ないんじゃないかな?」

「そ、そうです! そこで……!」

「キズナ遺跡に居る皆の力を先に集めて、ヤマトの魔力を増幅する訳じゃな」


 ゼンの言葉を聞いて、再び絶句する。

 ……お、おかしいな。

 これは、俺達が頑張って考えた、研究結果のはずなんだが。


「……まあ、そう言う事です」


 言うべき事を先に言われてしまい、それ以上言えなくなる。

 すると、そんな空気も関係無しに、裏ボス達が相談を始めてしまった。


「しかしのう、幾ら魔力を世界に還した所で、今の状態では人類に魔力が戻ってしまうのではないか?」

「そ、それに関しては……!」

「この世界に初めて現れた転移者が作った、悪魔を封じる魔法陣を利用して、魔力を留めるというのはどうでしょう」

「そう! それなんですよ! そして、メリエルから聞いた話では……!」

「そう言えば、あれは確かテトラが設計したもんじゃったのう」

「そうだよ!」

「お主なら、あの魔法陣の構造を書き換えられるのではないか?」

「うん! ダイジョウブイ!」


 ……ああ、もう駄目だコレ。

 俺が何かを言う前に、勝手に問題が解決するパターンだ。


「そうなると、世界を救うのは、何とかなりそうじゃのう」

「そのようですね」

「そ、それで! 次は世界を救ってからの話なんですが……!」


 次の資料をモニターに表示させる前に、再び話が進んでしまう。


「人類から魔力を奪うとなると、人間と魔物の戦力差が大きくなってしまうのう」

「それに関しては、僕が武器の流通を調節して、何とかしましょう」

「食べ物はダイジョブなのかな!」

「既に備蓄済みです。魔力に頼らない農作物の栽培方法も、広められるように手配してあります」


 よーし、分かったぞ?

 この人達、既に答えが分かって居たのに、俺達を試したんだな?

 でも、もう止められないから、仕方なくプレゼン続行だ!


「最後に! この救済方法を実行するにあたって……!」

「世界各地の混乱は免れぬじゃろうなあ」

「そう! それなんですが……!」

「それは、僕達大人の仕事でしょうね」

「うん! ダイジョブダイジョブ!」


 ああん! チクショウ!

 俺達が解決出来なかった問題も一瞬だよ!

 もうアンタ達三人で全部やれば良いじゃない!


「……と、まあ、そう言う事で」


 ため息を吐き、最後の言葉を口にする。


「これで、プレゼンテーションを終わります」


 言い終わり、ゆっくりとお辞儀をする。

 冷めた空気が漂う研究室。

 そりゃあ……そうなるだろうよ。


(……泣きたい)


 天井を見上げて目を閉じる。

 流石は裏で世界を牛耳るお三方。

 俺達なんて、その辺に居るモブみたいなものでしたよ。

 ……と言うか、よく考えたら、俺は最初からモブだったなあ。


「ふむ、良くその答えに辿り着いたのお」

「このタイミングでそれを言うのか!」

「いや、僕達がその結論に辿り着いたのも、ミツクニ君がヤマト君の魔力で、この世界の緑を蘇らせたからこそだよ」

「つまり! その時点で既に! この答えに辿り着いて居たと!」

「うん! ごめんねえ!」


 はーい。

 楽しい御遊戯会が終わりましたー。

 後は勝手に解散してくださーい。


「あ、あの……」


 そんな事を思っていた矢先、雫が手を上げる。

 この状況でまだ何かを言おうとは……異世界勇者は伊達では無いと言う事か。


「先ほど皆さんが言って居た、魔法陣の事なんですけど」


 ああ、最初の異世界転移者が作ったあれね。


「それって、今どこにあるんでしょうか」


 ……

 そう言えば、そうですね。

 どこかの地面に敷いてあるのは知ってるけど、大元の場所は知らない訳で。


「キズナ遺跡の下だよお!」


 そうですか。そうですか。

 流石は魔法陣を設計した張本人だなあ……


「……って! あそこの下かよ!!」


 キズナ遺跡は、魔物と人間の戦争を止めようとした時に、ベルゼの超文明力を使って、あの場所に動かした代物だ。

 拠点として都合が良いから、勝手に動かしたんだけど……今回も見事にご都合展開になったな。


「そんじゃあ、準備が出来たら皆でキズナ遺跡に行って……」


 適当な言葉で、この会を締めくくろうとした、その時。



『……!?』



 突然起こる大地震。

 遅れて研究所内に鳴り響くアラート。

 それぞれが揺れに振り回されないように、近くの机や機械に手を置く。


「フラン!」

「分かってますよ!」


 大声で呼び声に応えて、モニターの表示を変えるフラン。

 そこに現れた、世界地図。


「これは……!」


 表示されたのは、各地に湧き上がる黒い点。

 それが何であるかは、確認しなくても一目瞭然だった。


(……悪魔)


 ゆっくりと世界中に広がって行く、黒。

 地震が止まった時、人類が存在する三つの拠点は、真っ黒に塗りつぶされて居た。


「……どうやら、少し遅かったようじゃの」


 言ったのは、大魔王、ゼン=ルシファー。

 それに合わせるかのように、残りの裏ボス二人もため息を吐く。


「ゼンさん。これは……」


 息を飲んで聞いてみると、やれやれと言った表情でゼンが口を開いた。


「お主なら、これを見れば分かるじゃろ」


 それを聞いて、再び息を飲む。

 突然の大地震。

 現れた大量の悪魔。

 考えられる事象など、一つしか無い。


「世界の……最後の抵抗です」


 俺の代わりに答えた女子。

 異世界勇者、姫神雫。


「ミツクニ。時間が無いぞい」

「分かってます」


 ゼンに言われるでも無く、俺は動き出す。

 目指す場所は、ただ一つ。


「魔物領はワシが責任をもって守ろう」

「ありがとうございます」

「人間領の方は、僕がコントロールしておくよ」

「よろしくお願いします」

「私は先に行って、魔法陣の調整をしておくねー」

「助かります」


 それぞれの裏ボスに声を掛けながら、出口へと向かう。

 そんな俺に続く仲間達。

 目指す場所は、勿論俺と同じ場所。


 行かなければ。

 世界を救う勇者達が待っている……キズナ遺跡へと。

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