第116話 話の節目にはっちゃけ彼女

 勇者ハーレム達と無事に?再会出来た俺は、現在の世界情勢を調べる為に、フランと共に書庫へと向かう。

 書庫に着き扉を開けると、受付に居た勇者ハーレムの司書、アキ=ニノミヤがこちらに気付き、受付の机を飛び越えた。


「ミツクニさーん!」


 笑顔で駆け寄って来るアキ。

 そして……


「はいぃぃぃぃぃぃ!」


 俺に向かって思い切りビンタ!

 勢い余ってこけそうになるアキ。その衝撃で、ふわりと宙に舞う眼鏡。


(……うむ、これこそ様式美だ)


 俺はアキをひらりと躱した後、マクスウェルで時間を止めて、宙に浮いている眼鏡を受け止めた。


「あうぅ……眼鏡眼鏡ぇ」


 アキが地面に這いつくばり眼鏡を探す。


「ほら」


 俺が目の前に眼鏡を差し出すと、それを乱暴に受け取って立ち上がった。


「べ、別に、許してあげた訳では無いですから!」

「ああうん。そうですね」


 アキが眼鏡をかけて受付に戻る。

 何故かは分からないが、会わないうちにアキの印象が変わったなあ。

 前に比べて、はっちゃけたと言うか……


「ミツクニさん」


 横から声を掛けて来るフラン。


「いえ、ミツクニ」

「うん。何で呼び捨てに言い換えたかな」

「仲良しアピールです」

「誰にだよ」

「アキに決まってるじゃないですか!」


 良く分からないが、怒って居るので頷いておく。


「ほら! 行きますよ!」


 そう言うと、フランが俺の手を掴み、机の方へと強引に引っ張った。

 机まで辿り着き、目の前にある椅子にゆっくりと腰かける。


「よいしょっと」


 俺に続いて座るフラン。

 座った場所は、何故か俺の膝の上。


「おい君」

「何ですか」

「どうして俺の膝に座るのかな?」

「ここが私の椅子だからです」

「違うな。ここはミントの特等席だ」

「ミツクニがそう思って居るだけです」


 一体どうしたのだろうか。ここに居る二人は、こんなキャラでは無かったはずだが。


「分かったから、とりあえず正面の椅子に座ってくれないかな」

「ええーここが良いです」

「そこを何とか」

「もう、分かりましたよ」


 渋々正面の椅子に座るフラン。

 何とか話せる状態になったので、話の本題に入る事にした。


「なあ、フラン」

「何でしょう」

「お前達、何かあったのか?」


 これが本題。

 世界情勢などは二の次だ。


「別に何もありませんよ」

「いやいや、俺的には浦島太郎並みに、劇的な変化を感じて居るんだが」


 それを聞いたフランがははーと笑う。


「いやー、最近真面目な話ばかりでしたから、そろそろハジけないと駄目かなあと思いまして」

「まあ、それは俺も少し感じていたが……そこまでハジける必要があるか?」

「いえね。私とアキって、二人で居る時はこんな感じなんですよ。それで、折角ミツクニと再開するんだから、かしこまって話すのは止めようって事になったんです」


 顔を合わせてピッと親指を立てる二人。

 うん、楽しそうだな。

 俺も呼び捨てが嫌な訳では無いし、二人がそうしたいなら黙認しよう。


「そう言う事なので、ミツクニもかしこまるのを止めて下さいね」

「流石にそれはどうだろうか」

「大丈夫ですよ。この書庫はアキの魔法で、音が外に漏れないですから」

「いやいや、誰かが唐突に入ってくるかも知れないだろう」

「それも大丈夫です。図書室の入り口には、最強の鍵をかけましたから」


 マズい。閉じ込められた。

 ここで下手に逆らったら、二人に何をされるか分からない。


「分かったよ。余計な気遣いは無しだ」

「ふふ……嬉しいです」


 満足そうに微笑むフラン。

 正直な所、気遣い無しで女子と話すのは苦手なのだが……目の前に居る二人ならば大丈夫か。


「それじゃあ、そろそろ本題に入ろう」

「はーい」


 軽く返事をして、フランがポケットの中から謎のスイッチを取り出す。

 それを机の上に置き、ポチッとする。

 すると、図書館が薄暗くなり、空中に世界地図が浮き上がって来た。


「これが、現在の世界情勢です」


 表示された大陸に、四つの色分け。


「赤が魔物、青が人間、緑がこの遺跡で、紫が悪魔の領地って所か」

「流石はミツクニさん」


 おっと、呼び方が戻ったぞ?

 今までさん付けだったし、急に恥ずかしくなったんだろうなあ。


「これを見て分かる通り、現在一番領地を持っているのは人間です。その次が悪魔で、その次が魔物。私達は……まあ、あって無いようなものですね」


 無いと言うより、領地など存在しないのだろう。

 何故ならば、ここは勇者の砦であり、人間や魔物の領地が侵された時に、そこに派遣される者の集まりなのだから。


「それにしても……まさか魔物の領地が、こんなに小さいとはなあ」


 小さく唸ると、フランがコクリと頷く。


「その理由なんですけど、最初に悪魔が現れた時に、悪魔は魔法学園と魔物領を、優先的に攻撃したんですよねえ」


 それを聞いて、少し考える。


「……戦力の多い所を先に攻めたって所か」

「私もそう思います」


 個々の力で言えば人間が一番強いのだが、総合的な戦闘力に関しては、魔法学園が一番で魔物領が二番だ。

 悪魔が世界を滅ぼす存在だと言うのならば、大きな脅威を先に叩いておくというのは、自然な手段と言えるだろう。


「本来なら悪魔にここまで攻められる事は無かったと思うんですが、魔物領は『とある理由』で士気が不足してましたからねえ」


 ……うん?

 何か今、心臓がちくりとしたぞ?


「アーサーさん、凄く頑張ったんですけどねえ。肝心要の魔物のカリスマが、不在でしたからねえ」

「成程、それは大変だったなあ」

「まあ、ぶっちゃけミツクニさんのせいですよね」


 ああ! 言い切りやがった!


「ミツクニさんがもう少し早く精霊の森を出て、ウィズさんを解放して居れば、こんな事にはならなかったでしょうに」

「待て待て。俺はウィズを拘束して居たつもりは無いぞ?」

「でも、森の外でウィズさんが待って居たのは、知って居たんですよね?」

「……」


 やはりフランには嘘を吐けないな。


「……本当は早く解放したかったけど、外に出て戦える自信が無かったんだよ」

「分かってますよ」


 ふふっと笑って頷くフラン。

 こいつ……分かっていて弄んで居るな?


「まあ、そんなこんなで、悪魔が出現してから今までで、世界の人口が五分の一ほど減りました」

「五分の一!?」

「ええ、そうです」


 淡々と語るフランに対して、俺は驚きを隠せない。

 五分の一だぞ? ヤバすぎるだろう。


「大切な人を守る為に、必死に戦った魔物や人間達……死にました」

「おい」

「勇敢な者ほど、先に死んで行く……」

「止めろ」

「ミツクニさんがもう少し早く森を出てくれれば、こんな事には……」

「頼むから、マジで勘弁してくれ」


 遠くを見て微笑んで居るフラン。

 はっちゃけるのは構わないが、こういうのは倫理に関わるから止めて欲しい。


「そう言う事で、今までの話が、ミツクニさんが森を出るまでの話です」

「うん、もの凄く心が痛かったよ」

「人間一人でここまで世界の人口が動くとは……流石はミツクニさんですね」

「もう良いから。分かったから」


 フランが満足そうに頷く。

 多分これは、精霊の森に逃げて居た俺への、仕返しなんだろうな。

 予定通り、俺には大ダメージでしたよ。


「それでは、次は現在の状況です」


 机に置いてあるボタンを押して、世界地図の表示を切り替える。


「現在、悪魔との戦いは、劣勢から五分へと戻りました」


 各地に戦力を示したグラフが表示される。


「さて、ここでミツクニさんに問題です」

「いきなりだなー」

「どうしてミツクニさんが森を出ただけで、戦力が五分に戻ったのでしょーか?」


 あまりにも突然だったが、そのまま話に乗る事にする。


「魔物領にウィズとリンクスが戻って戦力が回復したのと、リズが人間領の女王になって、そのカリスマ性を発揮したから」

「はい正解」


 画面に名を上げた人の顔が浮かび上がる。


「人間領にリズさんとハルサキ家。魔物領にアーサーさんとウィズさん。そして、この遺跡にヤマトさんと勇者ハーレム。この配置によって、人類側の戦力は完全に整ったと言えるでしょう」


 フランの言葉に大きく頷く。

 この布陣で悪魔に負けたら、最初から勝ち目など無いだろう。


「でもなー。リズさんがもう少し早く女王に即位して居たら、人間の被害はもっと減って居たでしょうねえ」


 その言葉に首を傾げて見せる。


「どういう事だ?」


 尋ねると、すぐにフランが口を開いた。


「リズさん。最初は即位を断って居たらしいんですよ」

「最初は?」

「ええ、王にミツクニさんを殺すって脅迫されても、拒否して居たって事です」


 あれえ? 話が違うなあ。

 精霊の森で聞いた話だと、俺が人質にされたから、リズが女王になったって聞いたのに。


「でも、そうやってヤキモキして居る間に、シオリさんが大怪我しちゃって」

「……は?」

「悪魔に攻撃されて、足が不自由になってしまったんです。だからリズさんは、これ以上被害を出さない為に、女王になる事を決意したそうです」


 それを聞いて、思わず立ち上がる。


「駄目ですよ」


 それを制したのは、真っ直ぐに俺を見つめているフラン。


「ミツクニさんには、まだここでやる事が残ってるんでしょう?」


 そうだ。

 俺にはまだ、やらなければいけない事がある。

 だけど……


「今シオリさんは、リズさんの補佐として、王宮で活動しています」


 フランが淡々と話す。


「多分、シオリさんは分かって居ますよ。ミツクニさんがこれを聞いたら、全てを放って自分に会いに来るだろうって」


 ああ、その通りだ。

 今すぐにでも帝都に向かいたい。


「だからこそ、シオリさんはリズさんの補佐になったんです。そうすれば、ミツクニさんも安心して、自分のやらなければいけない事が出来るから」


 まるで俺の心を読んでいるかの如く、フランが話を進める。

 いつもそうなのだが、彼女にはどうしても、全て見透かされてしまう。

 頭が良すぎるというのも困ったものだ。


「……分かったよ」


 それだけ言って、再び椅子に座る。

 フランの言う通り、今は我慢しよう。

 彼女達に会いに行くのは、ここできっちりとけじめを付けてからだ。

 

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