第95話 ミツクニシステム

 遺跡中央にある動力室に足を運ぶと、既に予言に関わる主要人物が集まり、中央にある光柱を見上げていた。


「お待たせ」


 俺の声に反応して、皆がこちらを向く。


「遅かったじゃない」


 リズの一言に小さく笑って頭を掻く。


「ああ、ちょっと色々あってな」


 先程まで死んだはずの王と居たのだが、今はその話よりも予言システムの復帰が重要なので、自分からは切り出さない事にした。


「それで、状況は?」


 俺の質問に対して、リズは後ろに居るフランをジロジロと見ながら話す。

 そう言えば、フランはまだチアガール衣装のままだったな。


「……とりあえず、予言を知らない人達は、それっぽい事を言って追い出したわ」

「うん、それで良いと思う」

「でも、どうなのかしら?」


 リズがこちらに視線を戻す。


「そろそろ皆に、予言の事を教えても良い気もするけど」


 まさかリズからその言葉が出るとは思わず、小さく息を飲んだ。


「今まで隠して来た事を考えると、いきなりは不味いんじゃないか?」

「どうせ皆、薄々何かあると感じ取って居るわよ」

「まあ、そうだろうけど……」


 腕を組み、少し考えてみる。

 当初の目的である勇者ハーレム集めは、それなりに人数が揃った。

 そして、勇者であるヤマトも一人前に成長した。

 人間と魔物の戦争は膠着状態にあり、余程の事が無い限り再戦は無いだろう。


「……そうだな。リズの言う通り、そろそろ教える時期なのかも知れない」


 周りを見渡すと、皆も良いのではないかと言う表情をしていた。


「それじゃあ、遺跡のシステムを再立ち上げしたら、皆に話すか」


 皆が頷き、そうする事になった。

 改めて遺跡のコントロールパネルまで足を運び、光柱を眺める。

 黙って見続けていると、管内スピーカーから遺跡の声が聞こえて来た。


『マスターの到着を確認』


 声と同時に、周囲の壁が仄かに青く光る。


『最適化の前に、システムのチェックを行います』


 光柱から放たれた青い光が地面の窪みを走り、足元が青く光り始める。


『動力部……正常。各施設……正常。防衛システム……正常』


 各施設の正常を確認すると同時に、コントロールパネルの周りにある球体が青く光る。

 しかし、五つ目の球体で光が止まり、六つ目の球体が赤く灯った。


『サブスポットとのリンクに異常が発見されました』


 その言葉に首を傾げる。


「サブスポット?」

『この遺跡の子機とも呼べる存在。各地に点在するサブスポット。その一つとリンクが切れた状態にあります』

「それは、不味いのか?」

『リンクが切れたままだと、そのスポット近隣の結界監視システムが、正常に作動しません』

「分かった。それじゃあ、再接続してくれ」

『了解しました』


 一度アナウンスが切れて、壁の青い光がチカチカと光る。一定時間後に光は落ち着き、部屋全体がふんわりと青い光に包まれた。


『再接続完了』


 アナウンスと同時に、正面の光柱内に文字が並び始める。


『リンクの復帰により、欠損していた予言が復帰しました』

「……え?」


 予想外の返答に、思わず声が出てしまう。


「欠損していた……予言?」

『キズナシステム再起動』

「は?」

『現在のキズナリストを再検討……戦力、一定値を超過。キズナリストの最適化を行います』


 全く理解出来ないまま、システムは何かを最適化して行く。


『……リストの最適化完了。戦力超過の確認により、ステップを一段階進行します』

「待て待て」

『現在の処理を一時停止すると、キズナシステムが初期化される可能性があります。実行しますか?』

「え? えーと……」

「駄目よ」


 それを言ったのは、いつの間にか俺の横に立って居たリズ。


「処理を再開して」

『その権限は、現在のマスターであるミツクニにあります』

「キズナシステムの主導権は、サブスポットのマスターにもあるはずよ」

『サブスポットのマスターにあるのは、キズナシステムの修正権限だけです。最終的なメインスポットへの反映は、現マスターに権限があります』


 リズが俺を睨み付ける。


「ミツクニ、許可しなさい」

「随分と必死だな」

「良いから! 許可しなさい!」


 こちらに向けて魔法陣を展開するリズ。

 この表情は……本気の表情だ。


「……俺が許可しないと言ったら?」

「今までの行いが、全て無駄になるわ」

「へえ、そうなのか」


 正直、何が起きて居るか分からない。

 しかし、今の状況を考えると、許可しない方が良い可能性もある。

 だけど、俺は……


「処理の再開と、メインスポットへの反映を許可する」

『了解しました。処理の再開と反映を再開します』


 簡単に答えると、リズが驚いた表情をして居た。


「何だよ、その顔は」

「……いえ、少し驚いただけよ」

「何で驚くんだ?」

「だって、最近の私は……」

「怪しかったか?」


 そう言って、俺は笑う。

 確かに、最近のリズの行動は怪しかった。

 もしかしたら、世界の崩壊などには関係なく、自分のやりたい事を行って居るようにさえ思えた。

 それでも、俺は言われた通りにやるさ。

 何故ならば、俺は彼女の願いを叶える為に、この世界に召喚されたのだから。


「さて、どんな答えが出て来るのやら」


 呆気に取られて居るリズに笑いかけた後、正面に視線を戻す。


『キズナシステム、反映完了。戦力、改めて問題無し。続いて、ミツクニシステムの確認を行います』


 突然自分の名前が出てきて、鼓動が速くなる。


『ミツクニシステム、正常稼動。軌跡および現在の世界情勢を確認……』


 その言葉に少し遅れて、頭にピリッと電気が走る。


『世界情勢確認完了。ミツクニシステム、基準値を突破。ステップは最終段階へと移行します』


 頭に走ったノイズを気にする事も出来ずに、事は前へと進んで行く。


『最終段階。先導者へのマスター移行。現マスターであるミツクニが、先導者へマスター権限を移行する事により、ミツクニシステムは完遂します』


 なるほど。つまりリズは、このシステムを完成させたかった訳だ。

 そうなると、この先導者と言うのは……


「ミツクニ君!」


 声と共に開く、入り口の扉。

 そこに現れたのは、小さく息を切らして居る女子。

 勇者、ヤマト=タケル。


「外でアナウンスを聞いて居たんだけど、これはどういう事なの!?」


 そうか。全て聞こえて居たのか。

 だけど、アナウンスを聞いただけでは、何が起こったかなんて分からないだろうな。

 だから、俺が教えてやるよ。


「キズナ」

『マスター。命令をどうぞ』

「現マスターの権限により、遺跡のマスター権限を、ヤマト=タケルに移譲する」

『了解。マスター権限をヤマト=タケルに移譲します』


 アナウンスと同時に、中央の光柱が強く光る。


『マスター、ヤマト=タケルの能力を確認』


 遺跡全体が静かに震え始める。


『人王、魔王、精霊王の紺種血統を確認。三種の神器を確認。精霊の加護を確認』


 本人さえも知らなかった事実を、遺跡が勝手に解析して行く。俺は何となくそんな感じだろうと思っていたので、それほど驚かないが。


『各能力、オールクリア。キズナシステムとのリンク値、問題無し』


 細かい事は良く分からないが、聞こえている内容から何となく理解する。


 どうやら、俺は辿り着いたようだ。

 俺達が掲げて居た目標の最終地点。

 異世界勇者と勇者ハーレムの、完成に。


『ミツクニシステム完遂』


 遺跡の震えがゆっくりと静まる。

 しかし、次の瞬間。

 轟音と共に、地面が大きく揺れ動いた。


『最終防衛システム起動』


 大きく揺れる地面と共に、外から大きな地響きが木霊する。

 少しすると、部屋の中央に透明なスクリーンが照射されて、そこに世界地図が表示された。


「これは……」


 表示された地図を見つめる。

 世界と呼ばれる大陸。その中心にこの遺跡があり、そこから三本の線が引かれて、それぞれの区画が別の色で染まっている。


 人間の住む場所は青。

 魔物の住む場所は赤。

 魔物と人間が混在する場所は黄色。


(……なるほど。そう言う事か)


 そう思い、小さく笑う。


 青い場所は王が統治している場所。

 赤い場所はゼンが統治している場所。

 黄色い場所は……この遺跡と魔法学園。


 つまり、このシステムは、三つの種族がバランス良く世界に配置される事を、目的としたシステムだったという訳だ。


「ミツクニシステム……まるで三国志だな」

「三国志?」


 首を傾げたフランに説明してあげる。


「俺の元居た世界の歴史で……まあ、俺も詳しくは知らないんだけど、各地で戦争して居た勢力を、大きく三つの国に統一する話だ」

「へえ、そんな話があるんですか」


 フランに笑いかけた後、リズを見る。

 心なしか、不安そうな表情を見せて居るリズ。

 全く、こうする事が目的なら、最初から言ってくれれば……


「……間に合った」


 リズがぽつりと言う。

 ……間に合った?


『警告。警告』


 アナウンスと同時に、突然周りの光が赤色へと変化する。


『予言が新しい段階へと移行』


 再び揺れる地面。

 その揺れは先程の揺れとは違い、ゆっくり深く揺れている。

 これはまるで……


(最初の予言……)



『大地が朽ちて、終わりの始まりが訪れる』



 同じ。

 あの時の揺れと、同じ揺れだ。


「大変だよ!」


 大声と共に部屋に飛び込んできたのは、シオリ=ハルサキ。


「外に! 大勢の魔物が!」


 それを聞いて、俺の中にあったパズルが組み合わさっていく。


 予言。

 勇者。

 仲間。


 そうか。

 ここからが、ヤマトにとっての『勇者』の始まりなのか。

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