第74話 管理職達の茶会
魔物達との戦いを荒らし回ったフランとミリィは、強制的に魔法学園へと追い返した。
テレサは傷ついた魔物の治療をする為に残って貰ったのだが、必要以上に治療を行ってしまった為、魔物達がこの場所を気に入ってしまい、労働力としてこの遺跡に残る事になった。
そのおかげで、ボロボロだった遺跡は魔物達の手によって修繕されて、遺跡はより強固になってきている。
そんな最中に、彼女達は現れた。
「はーい。こんにちはー」
遺跡の入り口で小さく手を振るロリっ子。魔法学園学園長、テトラ=ヴァーミリオン。
「元気にしていたか?」
その横でふっと笑う青黒髪の女性。魔法学園高等部の生徒会長、シズノ=アメミヤ。
遂に魔法学園のお偉いさん方が来てしまったか。
「そろそろ出番だなーと思って、来たよ!」
いやいや、出番て。
一応俺達は、魔法学園と戦争をしているんですけどね?
「まあ、立ち話も何だから、中庭でゆっくりお茶でも飲もうじゃないか」
唖然とする俺の事を無視して、二人か遺跡の中へと歩き出す。
場所を教えても居ないのに、真っ直ぐ中庭に向かって行く二人。どうやらこの二人は、既に遺跡の情報を収集済みのようだった。
サラによって整備された、中庭の端にある庭園。色取り取りの花々が咲き誇り、その中心に真っ白な机と椅子が並んでいる。
その光景はとても優雅で、戦争をする為の拠点とは思えないような場所だった。
「ほら、ミツクニ君も座りなよ」
テトラが元気良く椅子に座り、俺の事を呼ぶ。黙って正面の椅子に座ると、続いて横にあった椅子にシズノが座った。
「さーて、今日のお茶は何かなー」
ウキウキしながらお茶を待つテトラ。
そんなに楽しみにして居ても、うちには都合良くお茶を出してくれるような人間は……
「今日のお茶は、ベン地方で採れた香草の煎じ茶です」
居たよ!?
つか、アキ=ニノミヤ。君は魔法学園で司書をやって居たはずなのに、いつの間に遺跡でメイドっぽい事をして居るのかな?
更に言わせて貰えば、アキが着ているメイド服の露出が高すぎて、お茶に集中出来ません。
「うむ、良い香りだ」
白いカップに注がれた茶の香りを嗅ぎ、満足そうに微笑むシズノ。
その姿を見て、俺はやっと我を取り戻し、慌てて自分の前に出されたカップを手に取った。
「それじゃあ、とりあえずカンパーイ」
テトラがティーカップを空に掲げる。それはお茶会でやる儀式では無いと思ったが、シズノもやったので俺もやった。
机の中央にお菓子が並べられて、お茶会は粛々と進行していく。
穏やかな午後。美味しいお菓子とお茶。
許されるのであれば、このままマッタリとしていたいものだ。
「それでは、そろそろ本題に入ろうか」
しかし、それを許さないのが、生徒会長のシズノ=アメミヤである。
「まず、現在の魔法学園の状況だが……」
生徒手帳を取り出して、ページをめくる。
「定期的にここに刺客を送っている事から、特にラプターからのおとがめは無い。しかし、連戦連敗で少し不穏な目で見られている」
連戦連敗と言うか、ここに来た勇者ハーレムが、戦闘自体を仕掛けて来ないからなあ。
そんな事よりも、俺にはとても気になる事があります。
「会長、質問があるんですが」
「うむ。何でも聞いてくれ」
「ここに居残ってくれて居る彼女達の家族は、大丈夫なんですか?」
それは、俺がずっと心配をしていた事。
勇者ハーレムには、異世界から来た俺とは違って、それぞれに家族が居る。
その人達は、ラプターに目を付けられていないのだろうか。
「それについてなのだが……」
ふうと息を吐き、鋭い視線を向けて来るシズノ。その姿を見てごくりと息を飲む。
「ま、まさか、既に家族は人質に……!?」
「いや、特におとがめは無い」
「無いのかよ!」
それを聞いて安心したが、流石に何も無いのはおかしい気がする。
もしかして、ラプターの上層部はこうなる事を、最初から予想済みって事なのか?
「うーん」
小さく唸って考えて居ると、学園長がお菓子を頬張りながら口を開いた。
「ヨマモリはさー。最初から魔法学園とミツクニ君を戦わせる気が無いんだよねー」
さらりとレイジ=ヨマモリの名前が出たので、思わず目を丸める。
「学園長はレイジを知って居るんですか?」
「うん。古い馴染みだよー」
予想外の返答を聞いて、言葉を失ってしまう。
「アイツは昔から楽観的と言うか傍観的と言うか、あまり余計な事をしないんだよねー。今回の場合も建前で攻撃申請はして来たけど、裏でミツクニ君と繋がってる魔法学園には、最初から期待して居ないって訳だー」
建前。それはつまり、人間側に対してという事だろう。
人間側の精鋭が揃っている魔法学園の生徒が戦わなければ、他の人間達も不審に思うだろうしな。
「まあ、そう言う事だから、ここに居る子達の身辺は大丈夫だから、気にしなくて良いよー」
「成程、それを聞いて安心しました」
そうは言ったが、レイジがこれから何かをして来ないとは限らない。これからも勇者ハーレム周辺の動向には、十分に注意しておこう。
「それで、次の話なのだが……」
シズノが話を切り替える。
「ヤマトの事についてだ」
ヤマト=タケル。この物語の主人公。
世界を救う勇者とは言え、ヤマトは人間側に所属して居るので、いずれはこの遺跡に攻撃を仕掛けて来るだろう。
そして、それを考える度に、俺は頭が痛くなって居た。
「それで、あいつは何時攻めて来るんですか?」
「それなのだが……」
お茶を飲んで一息つくシズノ。
そして、無表情のまま言った。
「ヤマトは、ここには攻めて来ない」
それを聞いて、大きく首を傾げてしまう。
「……はい?」
「攻めて来ない」
「いやいや、むしろあいつこそ、人間側のラスボスであって……」
「ヤマトは旅に出た」
「いきなりだな!」
思わずツッコミを入れると、シズノが珍しく声を出して笑った。
「ミツクニ。君は三種の神器と言う物を知っているか?」
「え? えーと確か、剣、玉、鏡の三つですよね」
「ほう。まさか知って居るとは思わなかった」
冗談で俺の世界の三種の神器の話をしたのだが、すんなりと通じたぞ?
つまりこの世界にも、その神器があるのか。
「ヤマトはその神器を見つける為に、イリヒメとヒバリを連れて旅に出た」
「よーし、全く意味が分からないぞ? どうしてそんな事になったんだ?」
「まあ、そう思うだろうな」
相変らず微笑んで居るシズノ。いつもの澄ました顔も素敵ですが、笑った顔も素敵ですね。
でも、それを言うのは恥ずかしいから、黙って話を聞く事にしよう。
「三種の神器。ミツクニが言った通り、剣、玉、鏡からなる三つの神器だ。その中の剣が、最近魔法学園内で発見されてな」
「まさか、ヤマトに反応して現れたとか?」
「察しが良いじゃないか」
神器が勇者に反応するのは、物語として当然だ。むしろ、違う人に反応したと言われたら、ヤマトの親友役である俺の存在が消える。
「ヤマトが神器の剣に触れた時に啓示があって、神器を全て集めると、世界を平和に出来るという事が分かった。だから、ここに攻めずにそちらを優先した訳だ」
成程、そう言う事ですか。
それにしても、その旅に後輩コンビを同行させるとは、ヤマトも中々考えたな。
(イリヒメちゃんはヤマトが女と言う事を知って居るし、ヒバリは俺との相性が悪いからなあ)
勇者ハーレムは数多く居るが、その中で真剣勝負をした時に、一番勝ち目が薄いのがヒバリ=タケミヤだ。
彼女はとにかくスピードが速く、凡人である俺では、それに追い付く事が出来ない。正直、ヒバリが本気で俺を倒しに来たら、何も出来ずに負けて居ただろう。
(ありがとうヤマト。ありがとう神器)
ほっとした俺は、手を出して居なかったお茶を飲み干す。
既に冷めてしまったお茶。
それでも、俺の喉は潤った。
「でもさー、まだ安心しちゃ駄目だよねー」
それを言ったのは、テトラだった。
「君は肝心な人達を、忘れちゃあいないかい?」
言われなくても分かっている。
魔法学園の生徒で、まだここに攻めて来て居ない勇者ハーレム。
むしろ、その二人の事だけは、最初から真剣に考えていた。
「シオリとミフネですよね」
「あれえ? もしかして分かってた?」
俺が頷くと、テトラがニヤリと笑う。
「それじゃあ、これからどうなるかも、何となく分かるよねー」
その言葉に無言で頷く。
ミフネ=シンドウは、魔法学園の中でも特に真面目な生徒。
シオリ=ハルサキは、人間側の領主の娘。
彼女達は他の勇者ハーレムとは違い、俺と全力で戦わなければいけない『理由』がある。
「ミツクニ君さー……」
テトラが空を見上げる。
「この二人に、勝てるの?」
この質問。
一見すれば実力の話をしているように聞こえるが、そうでは無い。
勿論、俺もそれを分かっていた。
「正直、難しいですね」
「だよねー」
テトラがケラケラと笑う。
「まあ、死なない程度に頑張りなよ」
満足そうにお茶を飲み干すテトラ。
見た目こそロリっ子だが、彼女は魔法学園の長だ。この先に起こる出来事を、既に理解しているのかも知れない。
「そんじゃ、私達の話はこれで終わりー!」
そう言って、二人が席を立つ。
「ああ、そうだ。アキはここに置いて行くねー。彼女が居れば、書庫も解放されるだろうからー」
「されるだろうって……何で学園長がそれを知ってるんですか」
「さあて、何でだろうねえー」
楽しそうに言葉を濁すテトラ。
そう言えば、まだ本当の年齢を聞いて無いな。
やはりメリエルと同じで、長生き系の人なのか?
「それじゃあ、頑張りなよー」
手を振りながら中庭を出て行く二人。
彼女達は魔法学園を守る立場の人間なので、ここには残らない。
仲間を守る事の大変さを知った俺は、凛としてそれをこなして居る彼女達を見て、心から尊敬した。
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