異世界戦争編
第67話 異世界勇者の敵になりました
広い荒野に立つ六つの命。
人間側の王族、リズ=レインハート。
ロリっ子魔王、ミント=ルシファー。
死の天使、メリエル。
全てを見通す賢猫、リンクス。
未来型ドローン、ベルゼ。
そして、勇者の親友役として異世界召喚された俺、ミツクニ=ヒノモト。
俺達はこの世界を救う為に、魔物と人間の仲を取り持って来た。
しかし、上手く行きかけていた和平は、魔物が人間側の国王を暗殺した事によって白紙に戻り、新たなる戦争の火種が生まれてしまった。
だから、俺達はその戦争に介入して、人間と魔物を戦わせない為に軍を立ち上げた。
俺達が戦う勢力は三つ。
魔物達を駆逐する為に立ち上げられた人間側の軍『ラプター』。
元々人間との平和を望んで居ない魔物達の新たな『強硬派』。
そして、世界を救う為に集まった『勇者ハーレム』。
魔物と人間の和平を成立させる為に! そして、本当の意味で世界を救う為に!
俺達の戦いが……再び始まったのだ!
「よーし! ここに俺達のでっかいお城を建てよう!」
最高の笑顔で言った俺の顔に、リズの放った鉄球がめり込んだ。
「……な、なぜ?」
「気にしないで。ムカついただけだから」
「この感じ……懐かしいぜ!」
顔に力を入れて鉄球を吹き飛ばす。
「とにかく! ここを拠点にするなら、建物が欲しいだろ!」
「それはそうだけど、ここには何も無いじゃない」
そう言われて、ゆっくりと周りを見渡す。
ポツポツと生えている木々。そして、どこまでも広がる荒野。魔物と人間の軍を相手にするには絶好の場所なのだが、いかんせん何も無い。
これでは、築城などままならない。
「築城出来ないぜ! チクジョウ!」
すぐさま二発目の鉄球!
今度はお腹にクリーンヒットです!
「戯言は良いから、真面目に考えなさい」
リズの刃物のように鋭いツッコミを受けて、仕方なく普通に考え始める。
(うーん……)
ここを拠点にする以上、建物や食料はどうしても必要だ。
だけど、何度も言うが何も無い。
他の場所から資材や食料を持ってこようにも、周りは敵だらけ。
結論。全てにおいて、既に窮地。
「ど、どうしよう……」
「今更慌ててどうするのよ」
「でも、本当に何も無いぞ?」
「そうね。困ったわね」
俺を見て楽しそうに微笑んで居るリズ。彼女は俺がピンチになると、本当に楽しそうな表情をする。
まあ、それがまた良いのだが……
「マスター」
不意に呼ばれて体を震わせる。
俺を呼んだのは、未来型ドローンのベルゼ。
「私から一つ提案があるのだが」
困った時のベルゼ様。
彼は何かある度に、常識を無視した便利な道具を出してくれる。今回もそれに期待して、小さく頷いて見せた。
「実は、壊れていた宇宙船の修理が全て完了した」
それを聞いて、少し嫌な予感がする。
「まさか……母星に帰るのか?」
「いや、それは無い」
それを聞いてほっと一息つく。
「それで、その船はどこに隠したんだ?」
「ピノがリモートで宇宙に飛ばしている」
勇者ハーレムの一角、ピノ。ベルゼの本当のマスターであり、本物の宇宙人。旅に出てから一度も会っていないが、しっかりと仕事はして居たようだ。
「そこで、提案なのだが……」
ベルゼがクルリと上下に回る。
「その宇宙船の転送システムを使って、使われていないどこかの遺跡を、ここに持って来るのはどうだろうか」
それを聞いた全員が黙る。
少しの間沈黙が続いたが、頑張って正気を取り戻した俺が口を開いた。
「そんな事が……本当に出来るのか?」
「可能だ。それに、突然遺跡が現れたとなれば、敵側も相当警戒するだろう。我々にも拠点が出来るので、一石二鳥だと思われる」
「それはそうだが、ベルゼがそこまでこの戦争に介入して良いのか?」
「この件に関しては、既にピノから了解を得ている。問題は無い」
サラッと超兵器の使用を許した宇宙人。
だがしかし、それを実行しても良いと言うのなら、本当に助かる。
だから、俺は迷わずにこう言った。
「是非お願いします」
「心得た」
ベルゼが上下に動いた後、赤いレーザーを空に放つ。
少しの沈黙。
そして、次の瞬間、俺達の後ろで地鳴りと轟音が鳴り響いた。
「転送完了」
ゆっくりと後ろを向く一同。
そこにあったのは、石造りの古ぼけた遺跡。
所々朽ちているその建物は、ファンタジー臭が漂う幻想的な建物だった。
「これは、我々の先祖が、この国の人間達と出会った時に建てた遺跡だ」
「それって、どれくらい昔の話?」
「3652年前だ」
かなり昔の話だと言いたい所だが、この国には長命な種族が存在している。
例えば、俺の横で遺跡を眺めている彼女。
「あら、懐かしい建物ですわね」
そう言って、天使メリエルが笑う。
やっぱり知っていたか。
「メリエル。これはどういう建物なんだ?」
「確か……魔物と人間の絆の象徴でしたか」
「そうだ。我々の先祖がそれを祈って、この国に献上した」
ベルゼが左右に動く。
「しかし、人間達がこの遺跡を独占して、魔物を滅ぼそうとしたので、我々で地中深くに埋めたのだ」
「なるほど。超文明の遺跡って訳だ」
外見はそれっぽく見えないが、この遺跡を作った国の機械が言うのだから、そうなのだろう。
「でも、遺跡の力をフルに使うには、鍵とかが必要なんだろ?」
「その通りだ」
「まあ、俺達は元々その力を使う気も無いし、逆に丁度良いか」
そう言って、俺達は建物の中に足を踏み入れた。
ボロボロの門を開けて遺跡内に入り、中央にあるエントランスへと到達する。
そのエントランスからは、左右と奥に廊下が続いており、左右の廊下の先には居住区のような区画が見える。
奥には機械的な廊下が広がっていて、どうやらその先に、この遺跡の重要な施設が集中して居る様だった。
「外見はボロボロだったけど、中は思って居たより朽ちて無いな」
長い間地中に埋まっていたはずなのに、建物内に土などは存在せず、全体的にスッキリしている。それに、所々に謎の溝や花壇のようなものがあり、ここに生活があった事を匂わせていた。
「これなら、拠点として丁度良さそうだな」
広さは六人には大き過ぎるが、とりあえず拠点は確保出来たようだ。
俺達は内装を眺めながら、さらに奥へと向かう。
遺跡の最深部に辿り着くと、明らかに他の場所とは違う鉱物で作られた、大きな扉が現れた。
「この奥が遺跡の中枢なのか?」
「そうだ」
「なるほど。超文明の遺跡だけあって、簡単には開きそうに無い……」
そう言った瞬間、胸元が光り始める。
何事かと胸に手を突っ込むと、精霊王から貰ったペンダントが光を放っていた。
「これは……」
『解除キーを確認。解錠します』
機械的な音声と共に、目の前にあった大扉が音を立てて開く。
「……ベルゼ」
「何だ?」
「開いたぞ」
「そのようだ」
流石のベルゼも開くとはと思って居なかったようで、いつものように説明をして来ない。
仕方なく、俺達は黙ってその奥へと足を運んだ。
超文明の遺跡の中枢、動力室。
中央には青く光る円柱の容器があり、その容器に向かって、地面のあちらこちらから青い光が流れている。
その光景は、明らかにこの世界の文明レベルを超越していた。
「秘密基地って感じだな」
軽く言ってケラケラと笑う。
しかし、誰も俺の言葉には反応せず、それぞれが部屋を見て回っていた。
(よし、いつも通り)
そんな事を思いながら、中央にあるコントロールパネルへと足を運ぶ。パネルの前に辿り着くと、パネルがうっすらと光り、音声が流れ始めた。
『精霊王の鍵を確認。施設の動力を復帰させます』
その音声に少し遅れて、地面を走っていた青い光が逆流する。
『動力回復。以降、各施設の専用キーにより、施設が復帰します』
良く分からないが、どうやら遺跡の動力が復帰したようだ。
後は他のキーがあれば、色々な施設が使えるようになるらしいが……
「ミツクニ? どうしたのかしら?」
散歩をしていたリズがこちらに歩み寄る。
その瞬間、再びアナウンスが鳴った。
『人間王族レインハートの血族を確認』
リズの足元が青く光り、俺の首にかけていたハートの指輪が光る。
『同時、魔族君主サニーホワイトの血族を確認』
リズの足元が黄色く光り、太陽の指輪が光る。
『給水施設、森林施設、復帰』
アナウンスに少し遅れて、周りの壁から水が溢れ出し、花壇の方へと流れていく。
花壇に水が辿り着くと、花壇の土が緑色に光り、植物が一瞬で育った。
(……うん、ご都合展開だなあ)
勝手に機能を回復していく超文明の遺跡。
これは……まだあるな。
「マスター。これは……」
『エルダンテの文明を確認。衛星索敵機能復帰』
「みつくにー!」
『魔王ルシファーの血族を確認。防衛機能復帰』
「あらあら」
『天使メリエルを確認。居住区画解放』
「やれやれ、仕方ないねえ」
『賢猫リンクスを確認。食料施設復帰』
凄まじい勢いで蘇っていく超文明の遺跡。
このままでは不味いぞ!
まだ何もして居ないのに、最強の拠点が完成してしまう……!
『……』
などと思って居ると、アナウンスがピタリと止まった。
「……俺は?」
「キモオタね」
「はい。そうです」
ええ、分かって居ましたよ。
異世界人だからって、モブキャラである俺がキーになる訳無いよね。
「くそっ! この貧弱な体が憎い!」
「吠えるんじゃないわよ。このキモオタが」
リズに止めを刺されて、ガクリと頭を下げる。
しかし、これで拠点と補給は確保された。これで、他の軍と戦う事が出来るだろう。
「それじゃあ、早速居住区にでも行って、部屋割りでも決めるか……」
『マスター権限所持者の選定を開始します』
俺の声に被さるように、アナウンスが鳴り響く。
『当施設のマスターは、現存するキーパーソンの多数決により決定します』
「ミツクニで」
「みつくにー!」
「マスターが妥当と思われる」
「ミツクニですね」
「ミツクニだろうねえ」
『了解。現時点を持ちまして、ミツクニ=ヒノモトをマスターと承認しました』
何を言う間も無く、俺がマスターになってしまったようだ。
『マスター。施設の名前を決めて下さい』
突然の無茶ぶりに少し焦る。
ニヤニヤしながら俺を見て居る全員。
仕方ない。真面目に考えようじゃないか。
「……」
魔物と人間の仲を取り持つ最後の砦。
頭に浮かんだのは、たった一文字の漢字。
少しだけニュアンスを変えて、拠点っぽく呼ぶ事にしよう。
「キズナ遺跡」
『了解。当施設はただ今より「キズナ遺跡」とします』
アナウンスが終わり、中央の円柱に∞形の光が現れる。どうやら、この遺跡の機動が無事に終わったようだ。
辺りに静けさが戻り、全員が中央に浮き出た∞の光を眺める。
「良く出来たシナリオだったなあ」
俺の一言に、全員が楽しそうに笑う。
偶然か。それとも必然か。
本来世界を救わないはずの俺達が、宿星のようにここに集まった。
リンクスやメリエル辺りは、こうなる事を予想して居たんじゃないか?
(……まあ、良いか)
そう思い、静かに目を閉じる。
敵は大勢。
俺達は六人。
それでも、俺達は戦える。
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