●シーン3● タマゴが見たパークの未来

「なるほど。つまりきみは何日か前に、初めて『フレンズの運勢』ではなく『パークの運勢』を占ってみた。まだ見習いのきみは、軽い気持ちで試してみたわけだね。そして『パークの危機』を、言わば『予言』した」


 ダチョウが語る話を、タイリクオオカミが簡潔にまとめる。ダチョウは深刻な顔でうなずいた。


「はい。先代のダチョウは有名な占い師で、いろいろな種類の占いを行なっていたらしいんです。将来起こる不幸を予期したりして、たくさんのフレンズを救ってきたとか。だから先代は私の憧れであり目標なんです」


「わかるわその気持ち。私も『ギロギロ』を見て探偵になりたいと思ったもの。目標があるって、とても素敵なことよね!」


 うんうん、と熱心に聞くキリン。

 共感してもらって気持ちがほぐれたのか、ダチョウの顔は少しだけ柔らかくなる。


「『パークの運勢』を占ったとき、タマゴが示したのは具体的にどんな運勢だったんだい?」


 オオカミは顎に手を当てて足を組みかえた。

 その問いに、ダチョウの表情にはまた陰りが戻る。


「それが――なんだかいろんな光景が混ざっていたんです。ただはっきり言えるのは、それらは全て『自然災害』の光景だということです」


「自然災害?」


 オオカミは目を細めた。

 アリツカゲラとキリンは、なにか怖いものを見たような、怯えた表情をしている。


「はい。大きな湖が干上がってしまったり、雪山でもないのに吹雪が発生したり、山火事が起きたり。そのせいで、たくさんのフレンズさんがなわばりを追われてしまって……ごめんなさい。恐ろしすぎて、なんて言ったらいいのか」


 ダチョウは自分の腕を抱き、わずかに震えている。


「わかったよ。それ以上はよそう。つらい記憶を掘り起こさせて、すまないね」


「いえ、大丈夫です……ただそれ以来、得意だったはずの『フレンズの運勢占い』のほうが、うまく出来なくなってしまったんです」


 ダチョウは両手を膝につき、うなだれた。


「たぶん『予言』を、ひとりで抱えきれなくなっているんだと思います。キリンさんが『推理』してくれたとおり」


「ダチョウさん……」


 アリツカゲラが労わるように、彼女の背中をさする。


「ダチョウ、元気を出して」


 キリンが寄り添うような声で、彼女を励ました。


「あなたの気持ち、よくわかるわ。ダチョウにとって占いができないというのは、私にとって『名推理』ができないのと同じこと。そんなの私でも落ち込んでしまうもの」


 それを聞いて、ダチョウは小さく「ありがとうございます」と呟く。

 アリツカゲラとオオカミは目を合わせて、まったく同じ表情をした。キリンに対してのほんの少しの苦笑いと、大きな感心――それが入り混じったような表情だ。


「あ、あの! このことは、他のフレンズさんには秘密にしておいてもらえますか?」


 ダチョウが思い出したように慌てて言う。


「まず先に博士に相談してから、どうするかを決めた方がいいと思うんです。その――不安になったり、怖がってしまったりするフレンズさんもいると思いますので」


「ダチョウさんはお優しいんですね。わかりました。ロッジのお客さんには言いません。秘密にしておきます」


「そうだね。私も口外しないと約束するよ」


「ええ、名探偵は、依頼人の秘密を守るものよ!」


 ロッジの三人は迷いなくうなずいた。



 ●`の'●`の'●`の'●`の'●`の'●`の'●



 夕食のジャパリまんを食べ終え、四人のフレンズたちはまったりとお茶を飲んでいくつろいでいた。


「それにしても、アミメキリンさんはすごいですね」


 マグカップを両手で握りながら、ダチョウは笑う。


「えっ?」


「私の旅の理由をぴたりと当てるなんて。それになんていうか、自信を持っていて、堂々としてて。すごくカッコいいです」


「そんな、ほ、褒めすぎよ! 私なんてギロギロに比べたらまだまだ――」


「あと美人ですし」


 キリンはわたわたと手を振り、真っ赤になる。それを見てアリツカゲラはクスクスと笑っている。


「本心ですよ。あの……私、フレンズになったときから、タマゴを使った占いをずっとやってきました。でも本当にうまくできているのか、いつも不安なんです。私の占いを聞いて、お客さんはちゃんと満足してるのかなって。さっきは『予言』のせいでうまくできなくなったとお話ししましたけど……自信がないのは昔からなんです」


 ダチョウは儚げに笑って、マグカップの飲み物をひと口すする。

 その打ち明け話を、オオカミはじっと目を閉じて、感慨深そうに聞いている。


「だから、キリンさんみたいに自分らしく生きているフレンズさんには、とっても憧れるんです」


「――ま、まあ。名探偵だから――」


 アリツカゲラとオオカミがちらりと目を合わせた。そこに表情はなく、真意を読み取ることはできない。いずれにせよ、キリンは気が付いていなかった。


「名探偵ってすごいんですね! 私も『名占い師』を目指して、頑張ろうと思います」


 ダチョウの純粋な瞳とその言葉に、キリンはぎこちなく笑う。


「うっ……うん。精進なさい」

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