4/終章 決戦の予兆

「……」


 グレードラゴンでの騒ぎを治め、カトレア教官とプラタナスと合流した俺は、とりあえず二人を連れてペンドラゴンに戻った。


 その後の事は二人に丸投げするつもりだったけど、


「何でブルードラゴンに行くのに私を連れて行かなかったの!?」


 というアイリスと、


「ウチも連れてってよ! 暇で死にそうだったよ! 折角魔物が沢山現れたのに!」


 というサフランを宥めるのに手間取った。


「アタシは魔物に囲まれて、ガチで死にそうだったぜ……」


「折角クロウ様のお役に立てると思った矢先、避難誘導の最中に、元凶をクロウ様が退治なされるとは……」


 連れていったカトレア教官とプラタナスは、疲労困憊でフラフラになってたし。


「どうでも良いけどねクロウ。もうシオンを置いて行くのは止めておきなさい」


「解ってるよ。今回の事で、シオンを置いて行く事の危険性は……」


「違うわよ。あの子、貴方が留守の間、クスリとも笑わないし、誰とも会話しないから怖いのよ。四六時中、貴方が飛んで行った方向を無言で眺めてるわよ」


 という怖すぎる情報をアイリスが提供してくれたので、俺はシオンとの約束である一緒の入浴というものを実行に移した。


 これくらいの事でシオンが喜ぶなら、俺はロリコン野郎のレッテルを貼られても良いさ。


 ていうか、いい加減命が惜しい。


「もう! 折角お兄ちゃんと一緒なのに!」


〈じっとしなさい!〉


 しかし、大浴場でシオンの髪の毛と体を洗っていたのはホリーだった。


 というより、入浴の度にホリーは洗っていたらしい。


 マッサージの件といい、俺はこの二人の関係性を誤解していたらしい。


 普通に仲良いじゃん。


「……」


 俺は、シオンの金色の髪を丁寧に洗うホリーを見て、溜息を吐いた。


 まあ、半数以上の姉妹剣使いがシオンに協力的になったし、前から欲しかった知恵袋になりそうなプラタナスも仲間になった。


 スパイしていたサフランは完全に仲間になったと考えて良いし、カトレア教官とアイリス、そしてヒース王子に対する信頼度は変わらない。


 仲間の人数、実力に申し分は無い。


 魔王との戦いに関して、後顧の憂いは無くなったと考えて良い。


 後の心配事は、只一つ。


「……時流剣……か」


 プラタナスが千里剣を、アマランスが魔級剣を所有している事が判明した事で、所在不明の姉妹剣は時流剣一つになった。


 十二本の姉妹剣の内、十一本もの姉妹剣に所有者がいる。


 まあ、天馬剣は俺が勝手に乗りまわしているし、一人で三本の所有しているヤツまでいたけど。


 とにかく、気になる事は、俺の知る限り、最も厄介で、多彩な能力を持つ神剣の所在が不明という事だ。


 いや、違う。


 十中八九、時流剣の所有者が誰なのかは解っているんだ。


 アマランス、シネラリア、ジャスミンを裏で操っている黒幕。


 都合五本の姉妹剣を所有者に与え、利用しているヤツ。


 そいつが、時流剣の所有者だ。


 さらに気になるのが、そいつが何時までも姿を現さない事だ。


 それが、強力で扱いの難しい時流剣の使い手であるが故なのか。


 それとも、自分の手の内を他人に知られまいとしている為なのか。


 もし後者なら、そいつは俺と同類だ。


 俺と同類のクズ野郎が、三人の姉妹剣使いを利用して、シオンに敵対しているのだ。


「お兄ちゃん」


 その時、ホリーに全身を洗ってもらっていたシオンが、大浴場の湯船に入りながら、俺ににじり寄ってくる。


「今度は私がお兄ちゃんを洗ってあげるよ。上がって上がって~」


「……」


 なんか、まあ、色々大変な事になりそうだけど、多分大丈夫か。


 仲間も増えたし、何よりシオンがいるしな。


 敵の黒幕が、俺と同類のクズだとしても、シオンに勝つ方法なんか無いさ。


 俺は単純に、そう思う事にした。


 解る事は一つ。


 勇者と表裏一体である魔王と戦う前に、一つ、厄介な壁をブチ破る必要があるって話だ。


 いざとなったら、俺がどうにかするさ。


 必殺技である「丸投げ」でな。

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