第14話明石の乱 上編 伊織の洞察力
天空の北斗七星へ満月が昇った。
明石城へ夜討ちをしかけるキリシタンの明石内記の一群はどこから攻め入るかを藩主、小笠原忠真と宮本武蔵の養子の三木之助は城の見取り図を拡げて、当の日が傾いても防衛の手立てを思案している。
「三木之助よ。そなたならこの明石をどう攻めるな? 」
と、
「わたくしならば、正面よりも背後の剛の池から攻め寄せます」
「しかし、いったいどこから何人向かって来るかわからぬキリシタンの攻撃へ備えるのに、
「おそらくキリシタンの明石内記の手勢も100人そこそこ。あまりの大所帯になりますと
「ただなんじゃ? 」
「敵もさるものあの大坂の陣を潜り抜けた明石内記でございます。どんな策を巡らせてくるかわかりませぬ。だが、いざとなれば
「おお! 武蔵ならずとも宮本三木之助、まったく頼もしいのう! そなたが姫路の本多忠政殿の御嫡子、忠刻殿の小性頭じゃなければ、必ずワシの家臣に取り立てるのにのまったく惜しい」
「殿、
「どうしたな伊織? 遠慮せずに申してみよ」
「は!
「伊織よ。そなたの申すのが真ならば、我らは、少ない兵を2分せねばならぬな」
「それだけならば、我ら日々円明流の稽古をつける手練れ、力の上では圧倒できまするが、先日、我らを襲った不死身の男が一人でも要れば
小笠原忠真も宮本三木之助も、確信をついた伊織のこの不安には必中をつかれた。
「フム、どう思案したものか……」
と、小笠原忠真が頭を捻ると、明石城の
「殿! 奇襲にございます!」
「してどこから参った! 正面か、背後か?! 」
「正面にございます。海から小舟10隻での船入でござります!」
(やられた!)
明石内記の奇襲は、三木之助の思案の外にあった。小笠原忠真も宮本三木之助も、陸から来るものと見立てていたが甘かった。
敵の明石内記は、築城中の海からの引き込みの海水を引いた堀を伝って来たのだ。
このままだと、一挙に明石城の喉元まで食らいつかれる。兵の配分を表と背後どう備えたものか……。
伊織が応えた。
「正面の敵はあくまで見せ掛けの陽動、明石内記はおそらく剛の池から参ります。正面の敵へはワタシと青木粂右衛門、石川左京、竹村与右衛門の円明流3羽烏と門弟15人をお貸し下さいませ見事撃退して御覧にいれます」
「よくぞ申した伊織! さすが宮本武蔵を父に持つ
「有り難き幸せにござる。
そう言って三木之助と、伊織は、それぞれ門弟を引き連れ持ち場へ向かった。
――正面へ備えた伊織と円明流3羽烏。
大門を陰として、門の裏に竹村与右衛門の槍隊5、青木粂右衛門と石川左京を左右にそれぞれ3、3に斬り込み隊。大門の屋根に身を伏せて伊織と弓隊4で待ち伏せた。
夜陰に隠れた海からのキリシタン兵が、月明かりに照らされその実態を浮かび上がらせた。
キリシタン兵は、10隻の船に3人づつ乗り込む30名だ。船には大俵を積み上げ、堀の行き止まりの大門まで来ると、手際よく大俵を下ろして大門に転がして走らせた。
「ヤヤッ! 敵の狙いはこの明石城の乗っ取りではないぞ!! 焼き討ちして、城そのものを廃城にし、幕府から小笠原殿の失策を取り
伊織の的確な判断のもと、伊織隊は、奇襲の如く討って出た。
大俵を転がして城門へ火を放とうとしたキリシタンは、奇勢を取られ総崩れだ。
伊織隊18名対キリシタン30名。
伊織隊は、指揮の乱れたキリシタンをことごとく捕らえた。
ここへ攻め寄せたキリシタンは、皆、明石の隠れキリシタンで、明石内記の策略で捨てゴマにされた農民であった。
伊織は明敏な洞察力で、
「このままでは
つづく。
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