第15話明石の乱 中編 三木之助の創造力
明石城の後背にある剛の池の土手には千本桜が咲き乱れ、今宵の満月が水面に映り、水墨画のように美しい。
宮本三木之助は、剛の池の小高い土手へ一人陣取り、明石内記がどこから参るかに備えている。引き連れた門弟は、三木之助が討ち漏らした際の後詰めとして城門へ控えさせている。
道場で普段は飯炊きを勤める老爺の彦十が三木之助へ駆け込んで、握り飯を掴ませた。
「いくらなんでも三木之助様お一人で100からの敵を迎え撃つなんざ正気の沙汰とは思えやせんぜ? 」
三木之助は、すまぬと、握り飯を喰らいながら、
「正気か、正気じゃないかは、やってみなくてはわからぬよ。それはそうと、彦よ、
「そうかい? 三木っあん、あんた姫路へ行ってから
「彦よ。そう思うかい? ありがとよ、この戦から無事に帰れたら、いつものように、一緒に酒を喰らおうよ」
「イヤだよお三木っあん。まるで、あんたこの戦でおっ死んでしまうようじゃないか、三木っあんは大事な円明流宮本家の跡取りなんだ壮健で居てくれなくちゃよ」
と、彦十は、三木之助の背をポンッ! と叩いた。その時、
「あら、なんだい?」
老眼の彦十は目を細め、剛の池の水面を波紋を広げながら、水草の島がゆっくり城門へ近づいて来るのを見つけた。
三木之助は、彦十の指差した方向を見た。
すると、海面をゆっくりと進む水草の島は、パタリと倒れ、数珠繋ぎの船が現れた。とたん、それまで、身を臥せていたキリシタンの兵が弓を一斉に城門へ向かって放った。
ヒュルリ。
放たれた奇襲の矢は、城門でキリシタンを迎え撃つ準備を整えていた三木之助を、門弟たちを襲った。
「彦十! 」
「三木っあん。握り飯旨かったかい?……オイラあんたの足手まといに成らなくて済んで良かったよ」
三木之助は、身を盾にして胸に矢をうけた彦十を抱き起こして、
「彦よ、これからも俺に握り飯を作ってくれなくては困るぞ」
「三木っあんは、あんたが小僧の頃からオイラの握り飯で育ったからな、これからもオイラ……」
彦十は、ニッコリ微笑んで三木之助の腕の中で息絶えた。
剛の池を上がった明石内記率いるキリシタンの鎧武者が、ウォーッと、時の声を上げて三木之助へ押し寄せて来た。
三木之助は、彦十の身体を桜の木に
「キリシタンの信徒と言えどもそなたらは命を奪うを生業とする鎧武者、もはや宮本三木之助手加減いたさぬ覚悟して参られよ」
およそ100人の鎧武者を従え数珠繋ぎの船から降り立った明石内記は、
「覚悟せよとは片腹痛し! 宮本三木之助どれほどの実力か知らねど我らキリシタン、主デウスの天の裁きをうけられよ! いざ、者共かかれ!」
明石内記の号令と共に、30名におよぶ槍隊が三木之助を一揉みにせんものと向かって来た。
三木之助は、桜の
ヤーッ!
先鋒の槍隊の槍が三木之助を襲って来た。
カンッ! カンッ! カンッ!
三木之助は、円明流にはない飛竜のような独創的な剣技で
「恐るべし円明流、宮本武蔵! いや、宮本三木之助!まさか、これほどとは……」
一瞬で30名の槍隊を失った明石内記は、船から
明石内記は残ったキリシタン兵へ食らわせると大号令をかけた。
「これで我らキリシタンは主デウスの天の
ワーッと、次鋒の刀の鎧武者30名が向かって来た。
三木之助は、またも飛竜の剣技を使い30名の刀を皆弾き飛ばし、合わせて鎧から肌が見える胸骨辺りを峰打ちに叩き黙らせた。
しかし、さすが
「どういう事だ?……」
キリシタンの後詰めへ飛竜の剣技を放つ前に三木之助は、一人一人の鎧武者の目付きが、口元がおかしいのに気がつき、切り抜ける刹那に、鎧武者の腰袋を奪い取り、中の草の正体を調べた。
「こ、これは
「主デウスはそなたらの痛みを消し去った。もはや、無敵! 宮本三木之助と一門を一揉みにしてくれん。者共、死を恐れるな! かかれ! かかれ! 」
(これでは切りがない……)
ヒュルリ――。
剛の池の後背からあきらめかけた三木之助の心を励ますように、痛みを感じないキリシタン兵目掛けて弓が放たれた。
「
と、同時に後背の城門が開く――。
「三木之助よ待たせたな」
青年領主の小笠原忠真が、
「三木之助をキリシタンに討たせてなるものか! それっ! 一気に押し返せ!!」
いくら痛みを感じないキリシタン兵がいるものの、三木之助の剣技と、大勢を決した小笠原忠真、伊織の救援で、キリシタン兵はことごとく討たれた。
なお、キリシタンの明石内記は、切腹、自決はせず自らも芥子を大量に食み、小笠原忠真まで迫ったが、宮本伊織の一弓で心の蔵を撃ち抜かれ討死した――。
明石の乱 下編へつづく
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