51「戦いは、いつまでも」
ハッと、アランは目を覚まし隣に座るソニアも目を開けた。二人は現実の世界に戻ったのだ。
「うっ、うううっ――」
苦しむランシリから、何かの黒く影が押し出され始める。
「こいつがデウモスの実体?!」
立ち上がり剣を抜くと、封印のペンダントが再び強く震え始めた。
影は球状となり窓をぶち破って外に飛び出す。
「逃がすかっ!」
アランは外に向かって作られた
黒い球は北に向かって飛びつつ、ランシリの中で見たデウモスの実態に変化した。背中には鳥の翼が生えている。
アランの剣が
「逃がすかよ、雑魚の悪魔が!」
知略の悪魔王の配下は誘惑が専門だ。人間に取り憑くなどの力があるが戦闘力は高くないようだ。
「だからと言って逃げるかねえ? 散々言ってくれた礼はさせてもらうぜっ!」
一気に速度を上げたアランが飛行しながら剣を振るうと、光の力が飛び出しデウモスを直撃する。
「がっ!」
そして悪魔は撃墜され森の中へと墜落した。アランは苦しむデウモスの傍らに降り立つ。
「ふふんっ、楽しい時だって言っただろ?」
腹の穴はまだそのままで、簡単には回復、再生はできないようだ。
「あの魔女はな~……」
「もう御託はいいんだ、よっ!」
まだ諦めないデウモスは誘惑を続けようとするが、今までのお返しとばかりにアランはすかさず剣の攻撃を加える。
「ぐがっ、がっは――」
断末魔の叫びと共に、知略の悪魔族デウモスは消滅し、ペンダントはひときわ大きく震えた。
「まったく、帰りは徒歩なのか~……」
悪魔の消滅と共に神の力も消失し、アランは山荘まで森の道を歩く。『華麗なる三令嬢』にいた時によく歩いていた道だ。
森を抜けかかると、ソニア、フェリアンの姿が見えた。遠く山荘の近くには、ヴィクター神父の姿も見える。
アランとっては二日に渡る戦い、教会の神父、シスターたちにとっては長きに渡った戦いも、やっと終わったのだ。
「やっつけた~?」
「うん、神が決着を付けたよ」
「ご苦労様!」
「うん!」
フェリアンはニコリと笑い、ソニアは笑顔と言葉でアランを慰労した。
三人が山荘まで戻るとヴィクター神父も声を掛けて来る。
「どうですか?」
「全て終わりました。ランシリに取り憑いていた悪魔はもういません」
「ふむ……」
神父としては、アランの力、素性をオーフィやジェライから聞いているはずだ。
そしてその役立たずが悪魔を倒したと、サラリと言ってのけている。疑問には思っているはずだが顔にも口にも出さない。
「ランシリ様が意識を取り戻しました。また眠りにつきましたが、もう大丈夫でしょう。感謝いたします」
「いえ……」
仕事を終わらせたアランたちは、そのまま山荘を辞退する。時刻は昼なので食事の為に三人で、もう馴染みになったカフェに入った。
「とても貴重な体験ができました。感謝いたします。フェリアン」
「い~え~、ソニアは優秀なシスターよ~。アランしか中に入れない
フェリアンがギルドの仕事でもらう報酬などたかが知れている。収入はエルドレッド家の私兵としての固定給が主なのだろう。今回はアランも同様に、セルウィンズ卿から報酬を受け取る。
「う~ん……」
「どうしたの?」
いつもお金に困っていて、強がっているアランが素直に喜んでいないのが気になったのか、ソニアが顔を覗き込む。
「いやあ……」
今回の一件は教会や貴族などの権力、面子などが入り組んでいた案件だ。
アランとしてはこんな仕事ばかりでは、自分を良く思っていない貴族から、更に反感を買う立場になりかねないと思っていた。
それに素直に喜べない理由は他にもある。
「冒険者としてギルドのクエストで稼ぎたいんだけど、なかなか上手くいかないなあ、ってさ……」
「うーん……、アランは冒険者にこだわりすぎなのよ。私は人を守る為に悪魔と戦うなら、全てシスターの仕事だと思っているわ」
「そうだね。ソニアは立派だよ――」
神を信じる心が悪魔に囚われた人たちを救う。今回の一件はその心を持つ令嬢たち、ヴィクター神父からも感謝された。
「――僕はこれからも悪魔たちと戦い続けるよ。そう、立場なんて気にしないでね」
権力者たちの、人間同士の争いを恐れるよりも大切なことがある。
アランは、助けた人々からの感謝は戦う動機たり得ると思った。
あの、小説として紹介された『最強の冒険者! 異世界無双戦記』の主人公も、権力者たちから力を恐れられ、逃げるように転々と旅をしながらも、それでも悪魔と戦っていた。
自分もいつかは、そんなふうになるのかも――。ぼんやりとアランは思った。
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