36「猫は役にたっている」

 一通りの用事が終わったので、二人は街への帰路についた。薬草採りが早く片付いたので、いつもよりは早い時間だ。


「あっ、やっと見つけたわ~。今日の稼ぎ~」

「稼ぎ?」


 歩きながらフェリアンは、前方の左右を眺める。


「使い魔よ~」

「えっ?」


 アランはビックリして周囲を警戒した。しかし何も気配は感じない。


「まだずっと先よ~。アランと稼げって、セルウィンズ卿に言われているのよね~」

「ずっと先?」

「よ~しっ、やりましょうか~っ!」


 そう言ってフェリアンは立ち止まる。何をやるのかアランには意味不明だった。


「ん~~、んっ、えいっ!」


 微妙な気合いを入れて、杖を突き上げる。先から光が発し、それは棒のように伸びた。


「うわっ!」


 下の部分が強く光って火を噴き、空に向かってグングンと上昇する。


「なっ、何あれ?」


 そして水平飛行に移り、街の方角へと飛んで行った。


誘導される矢ホーミングアローよ~。帰り道の近くに落ちるから、拾っていきましょう~」

「落ちる?」

「う~ん、帰りの途中にちょ~と、大きめの使い魔を見つけたの。そこに落ちるのよ~」


 要するに遠距離の探査で獲物を見つけて、この遠距離攻撃を放ったのだ。それにしても相手の姿を見ないまま倒すなんて出来るのだろうか? Sクラスのスキルは次元が違う。


 薬草を採った場所を過ぎると、フェリアンはキョロキョロと周囲を見回す。


「こっちね~」


 小道を外れて奥へと進んだ。そこには中程度の魔導核マジックコアが落ちていた。狂牛笛マッドホーンの時よりも小ぶりではある。


「命中したのね~」


 哀れな使い魔は冒険者の姿も見ないまま、あの魔力の塊に直撃され絶命したのだ。アランとしてはなんだか釈然としない。互いに対峙し、力をぶつけ合うからこその戦いだ。


 だから、これはもはや戦いとは言えない、虐殺だっ! などと高尚なことを思った。


 しかし使い魔は人間の脅威でもある。何より報酬にはかえられない。食わなければならない。問題はない。


 フェリアンは魔導核マジックコアを拾い上げた。



「あ~、この辺りだ~。ん~ん~~」


 街中に入るとフェリアンは、またしても、なんとも間延びした意味不明のことを言い始める。


「どうしたの?」

「あの猫ちゃんが~、近くにいるの~」

あの・・?」


 例の迷い猫のことだ。また探査の力で見つけたのだ。語尾をいつもより伸ばすのは、探査に集中する時のクセなのかもしれない。


「分かるの?」

「分かるわよ~」


 あんな依頼書を見ただけで探せるのは、思念が残っていたからだろう。それにしても凄い力だ。この大きな街から子猫一匹を探し出したのだ。


「こっちよ~」


 フェリアンの先導で通りの路地を曲がった。いくつかの細い道を更に曲がり、建物と建物の間に入る。


「いたわ~、こっちよ~。猫ちゃ~ん……」


 手を差し出すと、猫は抵抗もなくこちらに寄って来る。そしてフェリアンは頭を撫でた。首輪には『みゃー』の名札が付いている。


 アランが杖を持ち、フェリアンは猫をだき抱えた。



 ギルドに帰って魔核を換金し、猫探しの依頼者を聞く。報酬は出ないと思うが直接交渉してほしい、とのことだった。


「猫ちゃ~ん。もうすぐ家族に会えるわ~」


 フェリアンは抱えた子猫の頭を撫でる。始めて会った人間にもかかわらず、猫は騒ぎもせず体を預けていた。


 謎の使い魔を倒して手に入れた魔導核マジックコアは二千Gになった。


「半分こしましょ~」

「僕は何もやってないよ……」

「おかしいわ~。普通はパーティーの人数で等分するって卿が言ってたわ~」

「……」


 それは嘘ではない。それをやってくれないと駆け出しは食っていけないのだ。そうしなくてはいけないと思っているのに、固辞し続けるのもどうかと思った。


「ありがたく頂くよ」

「素直でよろしいわ~」



 二人は住所を頼りに依頼主の家へと向かう。とは言えフェリアンには、もうだいたい場所が探知出来ているようだ。


「それにしても……凄いな」

「何が~?」

「使い魔は分かるけど、こんな子猫まで探し出すなんて……」

検索動力サーチエンジンよ~」

魔導技マジックスキルか……」

「うふふ~、種明かしをするとね~。この猫は天使の加護を受けているのよ~。だからよく分かったし私になついてたのよ~」

「え~っ! 猫が加護を?」

「そう、街に入り込んだ小さな使い魔、ネズミなんかを退治しているのるね~」

「そうなんだ……」


 この街で悪魔たちと戦っているのは冒険者たちばかりではないのだ。そして魔力を持つ猫だからこそ探せた。


 そうだとしても、あの掲示板に貼られた依頼書の思念からこの子猫を探しだすなど、やはりSランクは凄いものだとアランは思った。


「ここね~」


 依頼者の住所に着くと、そこは小さなレストランだった。

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