35「魔女と役たたず」

「アラン~、歳はいくつなの~?」

「十六歳……」

「そう、私は二十一歳よ~。お姉さんね~」


 それはそうだろう。見れば分かる。


 アリーナは十五歳だからあと六年で、こんなに胸が大きくなるのだろうか? 魔力の量など関係しているのか? などとアランの思考はあらぬ方向へと飛んで――一瞬、顔にでた。


「あ~っ。エッチなこと考えてる~」

「ちっ、違――考えてないよっ!」

「そうかなあ~」


 二人はそんな下らない話をしながら、森の道を進んだ。



「ここが薬草の穴場なんだけど……」


 アランは周囲を見回して木々の形などを確認する。道を外れて草地を抜けると、薬草の群生地へと出た。まだ誰かに見つかっている様子はない。


「よしっ!」


 と拳を握る。本当は他人には教えてはいけないのだが、相手はSクラスのエリートだ。薬草などに興味はないだろう。


「この場所は絶対に秘密なんだ。頼むよ」

「は~い……」


 フェリアンは興味がなさそうに返事をする。それはそうだろう。アランは短剣を出してせっせと刈った。


「早いのね~」


 この道ウン年の刈り技だ。芝も刈るし薬草も刈って刈って刈りまくる、アランの特殊スキルだった。


「これでもコツ・・があるんだよ。それに何と言っても穴場探し。薬草採取はこれが全てと言っても過言ではないね」


 アランはSクラスの冒険者に対してエラソーに講釈をたれる。エリートは何も分かっちゃいない、との気持ちだった。


「そんな仕事は明日でも良いんじゃない~」


 大物狙いなら一時の撤退もやむなしだが、薬草相手にそれは出来ない。エリートは何も分かっちゃいない。


「いや、今日やるから、今日の稼ぎになるんだよー」

「時間が掛かるわ~。私も手伝っちゃうっ!」

「そう?」


 二人でやれば確かに早いがSクラスに、さすがにこんな仕事はさせられない。


「いいよ――」

「え~~い……」


 フェリアンが杖をかざして間延びした気合いを入れると、周囲の薬草が全て千切れて飛び上がり、アランの前に山積みになった。


「終わったわあ~。簡単なコツ・・ねえ~」

「……」

「その偉そうな使い魔を倒した場所に早く行きたいわ~。私、残留思念を読めるの~。急がないと消えちゃうんだからっ!」

「そっ、それを早く言ってよ!」


 アランは急いで薬草をバッグに詰め込む。


 使い魔ではなく魔族の将を倒したのだが、そこは突っ込まない。



「ここ~お?」

「そう、ここにいた時、魔結界に捕らわれたんだ」


 二人は蝿の将との戦いが始まった小川沿いに来ていた。フェリアンは何かを探るように、キョロキョロと周囲を伺う。


「思念なんて探れるんだ」

「魔法よ~、深淵への交信ディープコンタクト。聞いたことな~い?」

「ないなーー」


 アランも魔法の知識はあるが、それは剣士としてだ。魔法使いや魔導師は師匠などから技術や知識を教わる。


「ん―強い思念が残ってるわ~。スゴ―い」

「何、なに? うわっ」


 アランは思わず声を上げた。そして後ろを向く。そこには全裸のアリーナがいたからだ。


「はっ、裸……!」

「残留思念から再生した、ただの幻影ゴーストよ~。あなたの記憶ね~」


 確かに一瞬だがアランが見た姿だった。ビックリして両手で隠す前のほんのわずかの間だ。


「そんなの消してよ!」

「変なの~、ステキなのに~?」


 続けてフェリアンはアリーナの特徴などを、細部に渡り解説し始めた。顔、首筋、胸、腰、そして……。


「だっ、だめ! それ以上は……」


 これ以上聞いては、身の危険に係わるとアランは思った。


「はっ、早く! 早く消して。解説も中止っ!」

「ちぇっ。消したわよ~」

「ふう……」


 いったい何がちぇっ、なのかアランに分からないが、確かに少し惜しい気もする。


「こんなステキなカラダをもて遊んでいるなんて~。アランいつも何して楽しんでいるのかしらあ~?」

「ちっ、違う、違う、違う」


 アランはブルンブルンと首を横に振る。


「こんな所でこんな可愛らしいを裸にプルンって剥むいちゃってさあ~。キミってゲダモノ~?」

「違う、違う、違うーッ!」


 アランは必死になって状況を説明した。


「ふーん……、つまらないんだ~あ……」


 一応、信じてもらえたようで、アランはホッとして額の汗を拭う。やれやれだ。


「そんな時は自分も脱いで……」

「違う、違う――」


 アランは必死にかすれた声を絞り出す。


「そんなことより竜族よ~」

「そっ、そうだよ。そっちだよ!」


 話をブラしまくっていたのはフェリアンだ。


 二人はその竜の悪魔がいた場所へと移動した。フェリアンが深淵への交信ディープコンタクトを行使する。


 あの魔族がぼんやりとその姿を現した。


「ふ~ん、確かに竜ね~」


 その幻影ゴーストは姿がブレている。さっきのアリーナは本物そのままの裸、胸も腰もお尻も実物とおんなじ質感であったが、魔族相手では上手く再生出来ないようだ。


「こいつは何で僕につきまとうのかなあ?」

「魔族が人に接触するのは、悪魔の誘惑の為よ~。気をつけて~」

「僕は大丈夫さー」


 そんな時は封印が解かれて、強制的にどんな誘惑も断ち切るのだ。


「美少女の裸の誘惑にも負けないしね~」

「いやいや、いや……」


 あれは断じて誘惑ではない。ただのワガママだ。


「魔将も見る? あっちだけど」

「雑魚は別にいいのよ~」

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