17「アリーナとクエスト」

 果物売りを終わらせた後、アランとアリーナの二人は掲示板の前に立つ。


吸血野犬ブラッディドッグが増えているのかしら?」


 掲示板には大きく野犬ドッグ系の使い魔を見つけたら積極的に討伐せよ、と書かれていた。吸血野犬が多くいると注釈が付いている。


 アランは天使のアレスが吸血王のことを言っていたのを思い出す。


吸血蝙蝠ブラッディバットも増えているみたいなの。帰りには例の洞窟にも寄りましょう」

「そうだね」


 とりあえず北東の森に多数の使い魔が出没中、との依頼を受けることにした。距離も近いし帰りがけに洞窟にも寄れる。


 受付でクエストの受注を告げると、了解との答えだった。あまりにもパーティーが集中している時は受けられない場合もある。


 ティルシーはレターの受付にいた。



 二人は目的地を目指して森の道を歩く。


「アランのスキルの名前が分かったわ」

「ホント!?」

「おばあちゃんが家にある文献で調べてくれたのよ」


 さすがに冒険者一家は違う。そんな蔵書もあるのだ。


終末の槍デッドランスね」

「お~~っ!」


 なかなかカッコいい名前だ。


「本来は長槍のスキルらしいんだけど短剣のランスじゃあねえ」


 確かに槍ならある程度の間合いからスキルを発揮できる。しかし剣は確実に敵の攻撃圏内に入らなければならない。


「おばあちゃんが言ってたけど終末の槍デッドランスは遠中、近距離で発揮できるスキルがあるらしいわ。近いほど強力でそれは弱い人ほど発揮するらしいの。弱いアランだからこそね」

「またその話かあ。冒険者の槍使いなんて見たことないよな~」

「そうねえ……。王立軍なら槍部隊もあるけどね」


 長槍はかさばるし森の中で戦う冒険者向きの武器ではない。


 たとえ自由に使いこなしたとしても、自由に使えない悩ましいスキルだ。


 それにしてもすぐに謎の魔導技マジックスキルを調べ上げるアリーナは凄いとアランは思った。


 母親が優秀な魔法使いで、祖母もそうであったアリーナは、冒険者としては別格の存在だ。そうでなければアランより年下であれほど戦えない。


 代々家に伝わる魔導具を完璧に使いこなし、蔵書や祖母の知識もある。彼女は冒険者のエリートと言えた。


 歩きながらも二人は周囲への警戒は怠らない。使い魔の気配が強くなってきた。目的地は近い。


「そろそ、頃合いね」


 アリーナは止まって藪の中に高速指弾フィンガーバレットを一連射叩き込む。


 木を避けながら藪を切り裂きながら指弾は飛んで行く。遠くでキャン、キャンと野犬の鳴き声が聞こえた。


「行きましょう」

「うん。お見事」


 気配だけで的確に指弾をヒットさせたのだ。


 アリーナを先頭に走ると森が開けて狭い草原に出る。


 指弾を食らった野犬が、草をかき分け逃げていく。その先にいるのは吸血野犬ブラッディドッグの群だった。かなりの数がこちらを伺っている。


 なかなか賢くて、冒険者が二人以上の場合はあまり襲っては来ない。相手が一人きりなのか見極めているようだ。


「あんなのまで街の周辺に……」


 吸血王はやはりこの街に積極的に干渉する気のようだ。吸血野犬ブラッディドッグの群を見たのも久しぶりだった。


「気をつけて! 伏兵がいるわね」

「分かってる……」


 その気配はアランも察していた。剣を抜く。


 突然前方の藪から五、六匹の野犬が飛び出す。包囲の中に入らないアランたちにれて飛び出したのだ。


「甘いわよっ!」


 アリーナが広げた両手から、小ぶりな光の輪がいくつか飛ぶ。それは飛び掛かる吸血野犬ブラッディドッグにぶつかり、光を増した。


「今よっ!」


 意図を察したアランは横に避けてから側面に剣の切っ先を食らわせる。


「光った!」


 剣はあの時のように光を帯びた。ギャン! と悲鳴が上がり地面に落ちる野犬に、そのまま剣を突き立てる。


 野犬の足は光の輪に縛られている状態だ。拘束の輪バウンティサークルだった。


 続けて襲いかかる野犬に、アリーナは高速指弾フィンガーバレットを撃ちまくり退ける。


 アランは落ち着いて足を縛られている三頭の野犬に止めを刺した。


 終末の槍デッドランスが効果を発揮してくれて、アランは内心胸を撫で下ろす。


 吸血野犬ブラッディドッグの群は少しこちらを伺ってから去って行った。


「逃げた――か……」

「アランの技に恐れをなしたのかしらね」

「そうだね」

「冗談よ」


 アランは魔導核マジックコアを拾い上げた。


「ひどいなあ、少しはこのスキルを褒めてくれたって――」

「スッゴーい! アランはこの街最強の冒険者ね!!」

「今頃気が付いたの?」

「冗談はさておき、狂牛笛マッドホーンも倒せるのなら必殺技なるわ。自由に使えたじゃない」

「うん、突きの動作に移った途端に発動したよ」


 そんな話をしながら様子を伺うが敵に動きはない。


「帰りましょう。ちょっと危険ね」

「そうだね」


 吸血野犬ブラッディドッグはアランたちが二人だけなのか、もしくは後続に他の冒険者がいるのかを見ている。


 二人だけだと確信すれば全力で襲いかかってくるはずだ。

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