16「過去パーティーの消息」

 翌朝、アランはいつもの仕事を終わらせ、自室に戻りメモをまとめた。


 昨日は帰りが遅かったので、新聞社に行くのは遠慮したのだ。


「よしっ! こんなもんだろう」


 何度も見直したメモだ。書き忘れはない。


 今にして思えば、コーディーのパーティーにしてもマークスのパーティーにしても、AをうかがうBクラスのパーティーなのだ。


 アランはそんな場所に一時とは言え在籍できたのだから幸運と言えた。



 部屋を出て『東スト』へと向かう。


 昼間なので編集長のランドル、ケイティ共に不在だった。取材にでも行っているのだろうか?


 隣席の記者に言伝ことづてしてメモをケイティの机に置く。


 続いてアランは冒険者ギルドに行く。



 掲示板を見ながら一応、どのようなクエストがあるかを確認する。今のアランにとって、これは取材対象という名の仕事なのだ。


 内容は特にいつもとは変わらない。


 受付嬢のティルシーがカウンター席に着いたので、今度はそちらに向かう。


「こんにちは」

「こんにちは、仕事はどう?」


 受付の仕事柄、彼女はいつも笑顔を絶やさない。


 自分への笑顔は他者への笑顔とちょっと違い特別だ! との思いは独りよがりだと、アランにも分かってはいる。


「昨日はマークスの取材をさせてもらいました」

「そう、順調ね」

「はい。ところで――『華麗なる三令嬢』は最近こちらに来ていないんですか?」


 このパーティーはその名の通り、貴族で十代の令嬢ばかりの三人組だ。


 普通はパーティー名などAクラスから名乗るのだが、それはギルドへのAクラス登録が必要だからだ。


 つまり自称『華麗なる三令嬢』となるのだが、貴族様なのだしそんなものかと、皆もそう呼んでいた。


「そう、もう四、五ヶ月はこちらには来ていないわね。しばらくは領地の警護に集中するとの話よ」


 アランは二、三ヶ月ほど在籍し、下僕か下働きのごとくこき使われた。そして挙げ句の果てに役立たずと、追放を言い渡されてしまったのだ。


 それを、頭を下げまくってグビにしてほしいと哀願し、なんとか解雇にしてもらった。


「そうかあ……」


 アランはしばし考えた。


 そんな関係主従関係だったが特に恨んではいない。相手は貴族だしアランに対しても、悪意などはないのが分かっていたからだ。


「取材の申し込み?」

「はい」


 このネタは読者ウケするだろう。初心者で見習記者の直感がそう言っている。アランはなんとかモノにしたいと考えた。


「彼女たちの根城は知っているのでそちらを訪ねてみます」

「そう」

「それと、『栄光師団』はいつ戻って来るんですかね?」

「あの人たちの予定はここではよく分からないわ。今は他の街だけれどAクラスのパーティーは街をまたいで活動しているしね」

「そうですよねーー」


 アランは勉強の為、最初にこのパーティーに期間限定で参加した。荷物持ち、かつ雑用係としてだ。


 そして契約期間が満了したので辞めたのだが、ここは追放でもなくクビでもなく、普通に辞めただけだ。


「あの――もう一つ良いですか? 」

「ん? 」

「『東スト』の記事ってどう思いますかねえ……」

「う~~ん……」


 ティルシーは首を傾げてどう答えようかと考える。


「父が毎回買ってるので読んでるわ。私はやっぱり――」


 そして少し照れたような表情になった。


「――貴族の恋愛話のような記事をよく読むわ。そんな小説も連載されているしね」


 やはり女性はそれか! とアランは思った。パーティーの取材にも、そちらの切り口があるかもしれない。


「なるほど……」

「父はそんな記事に、まったく興味はないみたいだけれどね」


 やはり男性読者が熱くなれるような、冒険者の力と金をどんどん読者にアピールするべきだ。


「ありがとうございました」


 礼を言ってアランは頭を混乱させながらギルドを出る。


 中途半端に時間が空いてしまった。こんな時にはお馴染みの薬草採取だ。穴場ではない近場をいくつも回りながら、少量を採取した。



 帰りの道、アランは前方にコーディーたちのパーティーを見つける。


 アリーナの魔導具マジックギアは遠目からでもよく分かった。アランは走って追いつく。


「アリーナっ! クエストの帰り?」

「そうよ、アランはいつもの薬草採取?」

「そう、今日は取材もないし、午後に時間が空いちゃってね。実は昨日――」


 アランは少し自慢げに昨日のマークスたちとの戦いぶりを話した。


「うむ、狂牛マッドホーンを一撃で倒すなんて凄いスキルじゃないか」


 コーディーは感心してくれた。しかしアランとしてはアリーナの感想が気になる。


「はい、でも何かはよく分からないんです。自由にも使えないし」

ランス系のスキルは珍しいのよ。おばあちゃんか言ってた。私も興味があるわ」

「本当?」


 早速にアリーナが反応する。


「たぶん弱い力を一瞬だけ集中させるスキルよ。そんなのもあるみたい。弱いアランらしいスキルね」

「まあ……ねえ」


 なんだか褒められているとは思えないが否定でもないので、アランは何を言っていいか分からない。


「しかし、あれ・・を一撃で倒せるなら本物の力だ。自由に使えないのは問題だが……」


 いつ使えるか分かりませんでは、実戦では役にたたないアランと同じ役立たずのスキルだ。


 アランは顔を曇らせる。神の力を持っているのに、この普通っぽい悩みがアランにとっては、実はたまらないのだ。ついにスキルを手に入れた余裕でもある。


「そんな顔をするな。だれだって最初は手に入れたスキルは自由に使いこなせないからな。そのうち自由に使えるようになるさ」

「はい!」

「でもなんで急に新しいスキルに目覚めたのかしら? 何か切っ掛けはあったの?」


 再びアリーナの突っ込みだった。鑑定チェックではそんな兆候は見えなかったのだろう。


「さあ~? 特に何もないなあ……」


 アランは最近の出来事を思い出すが、特に気になることなどなかった。


「そう――。ねえ、アラン。明日はヒマ?」

「リンゴ売りの後は何もないよ。取材もないし」

「休みなのよ。訓練に行くから付き合って? スキルを見せてよ」


 スキルに目覚めたアランへの、早速のアプローチだった。まるで人気者になった気分だとアランは満足げに頷く。


「いいよ」

「私を取材してよ」

「訓練はどうかなあ……?」


 そちらかと思い、アランは少し落胆した。訓練がネタとして採用されるかは難しい。



 アリーナたちと分かれた後、アランは最近の出来事をもう一度考えた。そしてあの魔結界での戦いに思い至る。


「まさかね……」


 魔族との出会いが切っ掛けで人間がスキルに目覚めるなど、聞いたことがない。

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