15「追放者の活躍」

 障壁の陣マジックバリアが次々に打ち破られ、狂牛笛マッドホーンの激突で水晶防循クリスタルウォールにはヒビが入る。


 剣を構えたマークスと狂牛の角が水晶を挟んで対峙した。


 全力に光り輝く剣が更に輝きを増し水晶が砕け散る。


「ぬおおおぉぉっ! 全力でアシストしろっ!」


 狂牛笛マッドホーン魔導技マジックスキルを使う。角と剣とが互いの魔力を発してぶつかり合う。


 いざとなればマークスの攻撃を二人の魔法が全力支援するのが、このパーティーの大物狙いの常道だ。


 かつてアランは何度もこんな場面を目撃していた。


「ちいっ! こいつは押し負けるな。散れっ!」


 アランたちは散り散りになり、マークスは狂牛笛マッドホーンをいなして横に飛び退いた。


 敵の突進力にパーティーは割れ、アランの目の前で荒れ狂う巨体は一番の脅威、マークスに目標を定める。


 間近で側腹そくふくをさらした狂牛笛マッドホーンに、アランは咄嗟に剣を腰だめに構えて突き進む。


「うおおおおおっ!」

「ばっ、バカ! よすんだ!」


 マークスの言葉も耳に入らず雄叫びを上げたアランは、狂牛笛マッドホーンに体当たりをかます。


「早く離れろ!」


 我に返ったアランは、深々と突き刺さった剣を手放し飛び退いた。


 ヒイイイィィィーーガーー、ガッ……。狂牛笛マッドホーンは不気味な悲鳴を上げる。


 黒い巨体はドサリと倒れて動きが止まった。


「やっ、やったのか? このデカ物を一撃で?」


 溶け始めた魔力は地表に吸い込まれていき、それは完全なる死を意味していた。


「すっ、スゲーじゃねえかっ、アラン!」

「ホント! 一撃じゃない!!」

「完全に仕留めましたね。これは凄い!」

「うっ、うん。一体全体いったいぜんたい――??」


 三人の称賛にアランは困惑顔だ。自分でも何が何やら分からないといった表情をしている。


 マークスは表面に顔を出した、獲物にふさわしい大ぶりの魔導核マジックコアを拾い上げる。


「こいつは大戦果だ。さて、報酬の分配をどうするかだな」

「トドメを刺したのはアランですからね。当然彼には受け取る権利はありますよ」


 コンラッドの発言は意外だった。アランの取り分を主張している。


「こいつはメンバーじゃない。それに最後ちょっと戦っただけだぜ?」

「それがなければ我々のパーティーは、大いなる危機に襲われていたでしょう」


 アランは固唾を飲んで成り行きを見守る。今日の収入に直結する会話だ。


「まっ、その通りだ。コイツはケチなのか、金払いがいいのか分からんな。あれだろ? いつも言っている何とかってヤツ」

「成果主義です」

「だっ、そうだ。金の計算はコンラッドに任せている。俺は何とか主義より単純に頭割りで良いと思うけどなあ?」

成果主義・・・・です。あちこちのパーティーはそれでモメますけどね」


 その何とかの成果主義もなかなか悪くない。しかし、アランは今一つそれ・・を理解できていなかった。もらえる金額がどの程度になるかはまだ分からない。


「まあ、そうだな。しかしアラン、その力はなんなんだ? 俺らのパーティーにいた時にも使えば良かったのに」

「初めてなんだ。僕にも分からない。無我夢中で……」

「ただの剣技じゃないよな? そうでなくては一撃でこいつを倒せん」

魔導技マジックスキルね! 剣が光っていたわ」

「おそらくはランス系のスキルなのでしょうが、そちらはあまり一般的じゃあないですね」


 魔法使いのキャロリア、魔導師のコンラッドにしても確定的なことは分からないようだ。


 しかし魔導技マジックスキルであることは間違いないだろう。アランが初めて手に入れた力だった。



「さてと……、次はどうする?」

「今日はもうずいぶん稼いだわ」

「いえ、稼ぎ時です。近くの狩り場に行きましょう。アランの活躍で大物を短時間で倒せましたから」

「う~ん、せっかくここまで来たんだしな。もうひと仕事していくか。アラン、構わないか?」

「もちろん!」

「じゃあ昼飯にしようか。三十分休憩して移動だ」


 コーディーの決断は早い。メンバーたちから意見を聞いて、次の行動を即決する。


 皆も特に不満など言わずに、持ってきたサンドイッチなどの昼食を出す。


 アランは毎度お馴染み、売れ残りのリンゴに硬いパンだ。



 それからパーティーは場所を変えて同じように、蛇獣スネークビースト退治のクエストを行う。


 こちらも順調に多数の獲物を狩りまくった。



 帰り道をパーティーは意気揚々と歩く。皆の表情からは今日の稼ぎが十分だと分かる。


「俺たちもいつかは冒険者を引退する。アラン、お前は少しそれが早かっただけさ」


 マークスは唐突に朝の話を蒸し返す。


「僕はまだ引退してないよ」

「ははっ、そうだったな。今日のスキルは、使いこなせればパーティーの編成によっては強力な武器になる。話はそっちだったな」

「う~ん……」


 自分の意思で発動出来ないスキルのままなら、結局は役にはたたない。


 ペンダントに特別な反応はなかったので、これは神の力ではないとアランは考えていた。自分自身の力で間違いないだろう。


「スキルを磨いてどこか入れるパーティーを探すか? ウチはダメだけどな。追放したしー」


 マークスはそう言って声を出して笑った。


「『東スト』の仕事を始めたばかりだから、しばらくはそっちを優先するよ」

「ああ、先にさっきのスキルを使いこなせるようになれ。次の取材はどうするんだ?」

「これから前にいたパーティーに申し込むつもりなんだ」

「前に――って言うと三令嬢のところか。その前は……」

「ウィリアンのパーティーでその前、最初は『栄光師団』だった」

「ああ、そうだったな」

「探しているけど姿を見掛けないんだ」

「三令嬢様のところは、最近はギルドのクエストを受けていないわ。領地の管理と防衛に専念してるんだって。知り合いの女の冒険者が時々指名で応援に行ってるって言ってたわ」

「そうなんだ」


 キャロリアが説明してくれる。なにせ貴族の令嬢様が趣味でやっているようなパーティーだ。アランのように、生活の為に目の色を変えて稼ぐ必要もない。


「ウィリアンは――知らんのか。あそこは色恋沙汰で解散した。クエストで死人が出たんだ。」

「知らなかった……」


 マークスは知る限りの情報を話す。


「ことがことだから、たいし噂話になっていないがな……。今は冒険者を辞めたんじゃないのかな? 姿を見せないよ」

「『栄光師団』は出張中です。他の街に滞在しているって話を聞いたよ」


 コンラッドも解説をしてくれる。


「そうですか、相変わらずかあ……」


 取材できるパーティーがいないとなると、すでにネタ切れ状態だ。もうピンチになってしまった。


「大物を狙う時は声を掛けさせてもらうぜ! 取材してくれよ」

「そうね、あの力を自由に使えるなら戦力にもなるしね」

「成果によっては報酬も分配しますよ」


 この三人は親切なのか調子が良いのかよく分からない。



 他の小物も合わせて報酬は合計一万Gにもなった。アランの取り分は千Gだ。


 少ないと思わなくもないが、久しぶりに冒険者として稼げたのでアランは満足した。


 初めてスキルに目覚めたのが何より嬉しい。強敵を倒したので自信も付いた。

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