14「受難の使い魔」

 森を三時間ほど歩き目的地に到着した。四人は周囲を森に囲まれた草原に立つ。


「うっほ~っ。獲物がうじゃうじゃいやがるぜ!」


 探査魔法を使ったマークスが声を上げた。アランにもこの草原に、無数の使い魔が潜んでいるのが分かる。


「今日の狩りは大量ね。夜は美味しいお酒が飲めるわ」

「一人千G以上は確実です。最短で終わらし他の狩り場にも行きましょうか」


 三人三様の意見だ。それぞれバラバラのことを考えながら、これで息が合っているのだ。


 それぞれの意味を分析するなら、狩りの楽しみ、稼いだあと、金勘定――といったところか……。


「よーしっ! 始めるか」


 マークスの掛声で、コンラッドが両手を広げて空に突き上げる。キイィィィーーと甲高い音と共に二つの光球が現われ、そしてはじけた。


 小さな光の粒が音を伴いながら全方位へと飛んで行く。


 操り鈴コントロールベルと呼ばれている魔導技マジックスキルだった。


 これで周辺にいる使い魔の大群が、ここへ押し寄せてくるはずだ。


「アラン、俺たちから離れるなよ」

「うん。だけど自分の身は自分で守る」


 皆にならってアランも剣を抜く。


「よく言うぜ。お荷物がよ。来るぞっ!」


 光と音に操られた蛇獣スネークビーストの群が四方八方からアランたちに迫る。


 ネズミやリス、狸、狐などの頭部からは、黒い蛇のような首が伸びていた。


「そりゃあっ!」


 気合いを入れたマークスが剣を振ると、短剣のような光が無数に飛ぶ。閃光の剣ライトニングソードの変形なのだが複数の小物には有効だ。


「そ~れっ!」


 キャロリアが魔導具の杖で空中に光の円を描いて飛ばす。暫撃の輪リングリッパーだ。


 それはジグザグに機動しながら群を切り刻む。


「くたばれ、くたばれ、くたばれーっ!」


 コンラッドは戦いになると言葉遣いが少々変わる。叫びながら高速指弾フィンガーバレットを照準無視で連射した。


 それぞれが蛇獣スネークビーストが哀れなほどの火力を発揮する。



「よーしっ、こんなもんか」


 三人の容赦のない攻撃で、あらかたの使い魔が掃討された。


「○ネ、○ネ、○ネーーっ、カネーっ!」

「コンラッド、もうほとんど倒したから。単発に切り替えて、よく狙ってっ!」

「……了解した……」


 キャロリア指示で、今度は人差し指で指弾を発射し、遠くにいる使い魔も確実に仕留める。


 アリーナは曲射の技にこだわっていたが、コンラッドは正確な照準と威力、遠距離への一弾にこだわって極めていた。同じスキルでも人によって応用はさまざまだ。


「終わったな、魔導核マジックコアの回収だ。アラン、手伝ってくれ」

「うん、分かった」


 以前いた時のアランの主な仕事だった。これだけ広範囲に広がっていては拾い集めるのも一苦労だ。小物を大量に狙う手間だった。


 キャロリアが周囲を歩きながら森の中の気配を探り、使い魔を警戒する。


 そして三人で成果物を拾い集めた。無防備になる時間でもあるので手早く進める。



「大変よーっ、一体強烈な使い魔が接近中!」


 あらかたを拾い終わった頃、キャロリアが叫びながらアランたちに向かって駆けてくる。


「コンラッド、感じるか?」


 額に指を当て集中し、眉を寄せる。


「大型――が一体……、あっちですね。来るっ!」


 コンラッドが指差した先の森がざわついている。手前の木がひしゃげて倒れ、黒い巨体が草原に飛び出した。


狂牛笛マッドホーンだっ!」


 マークスが叫び、キャロリアは戻って新たな脅威に向き直った。


「とんでもないボスキャラがいたわね」

「しゃらくせえっ!」


 ヒイイイィィィーーと、まるで笛のように鳴きながら、狂った牛は一直線にこちらに向かって来る。


「散れっ! いや、かたまるんだっ、全ての力を防御に使え」


 突然現われた強敵に、マークスは一瞬混乱するがすぐに的確な指示を飛ばした。


障壁の陣マジックバリアっ!」

水晶防循クリスタルウォール!」


 コンラッドの作り出す、いくつかの円形防御が直前に立ちはだかる。


 キャロリアがパーティーの眼前に水晶の壁を建てた。


 アランは役に立たないと思いつつも、剣を強く握りしめる。

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