13「追放されたパーティー」

 アランは果物売りを中止した。今日は取材の日だからだ。早朝、冒険者ギルドを訪ねる。


 マークスのパーティーに同行する予定だが、彼らはまだ来ていなかった。アランが一旦表に出るとちょうど三人がやって来た。


「よっ、待たせたか?」

「ううん、今来たところ」


 マークスは軽く右手を上げる。


「おはよう、アラン。今日はよろしくね」

「久しぶり。良い記事が書けるよう稼ぐよ」


 キャロリアとコンラッドは相変わらず、といった感じだ。


「さて、『東スト』さんとしては、仕事に何かリクエストはあるのかい?」


 掲示板の前に進んで四人で眺める。


「特にないよ。自由にやってもらってそれを取材するのが仕事なんだ」

「そうかい。コンラッド、どう思う?」

「うーん……、これだね。蛇獣スネークビーストの繁殖地。久しぶりに出たばかりだし、獲物は多いと思う」


 お金にうるさいコンラッドは、ワリの良いクエストなども熟知していた。


「そうか、華はないが俺たち冒険者は稼いでこそだ。これでいいか?」

「もちろん」


 記事にするのなら大物狙いの方が読者の興味を引くだろう。


 だが大量の小物を狩るのも冒険者の仕事だ。アランにもよく分かっていた。


蛇獣スネークビーストは蛇のような小さな使い魔が時々大量に発生し、森の獣を浸食して凶暴化させる。



 四人は目的地へ向かって歩き始めた。


 冒険者ギルドのクエスト、使い魔狩りには大きく分けて三つある。


 一つは街の近郊や農地、牧草地の近くなどに出没する使い魔の退治だ。これは近場で手軽に出来るので人気も高い。


 これからアランたちが向かうのは一日がかりで遠出するクエストだ。使い魔の繁殖地や出没地にこちらから乗り込み掃討する。街に近づく前に処理するのだ。これが二つ目だ。


 最後は完全に大物だけを狙い撃ちするクエストで、野営の装備を担ぎ一週間から場合によっては二週間も山中に籠もる。


 体力、実力共にあるAクラスのパーティーなどが行っている。



「アラン。もう冒険者はやらないのか?」

「僕を入れてくれるパーティーなんてないよ……」

「あっはっはは! そりゃそうだ。コーディーの所からも役立たずって追放されたんだろ?」


 マークスの突っ込みは容赦がない。


「クビだよ……」

「同じじゃな~い!」


 キャロリアが茶化すように言い、皆は笑う。アランといえば怒りはしないが仏頂面だ。


 ここの冒険者たちは、悪気はないのだがとにかく口が悪い。


 確かに追放もクビも解雇も意味は同じなのだが、内容は微妙に違うのだ。


 追放は将来に渡っての再加入はなし。解雇は一方的、クビは双方の合意と使い分けられていた。


 横恋慕の色恋沙汰や金がらみなど、悪質な場合は追放となる。


 簡単に追放などと言われて噂話にでもなれば、その後の加入活動などに支障がでかねない。


 アランはこのパーティーをクビになったのだが、リーダーのマークスは追放と言ってからかうのだ。


「しかしお前はおかしいよなあ。ウチにいた時もまったく力が上がらなかった」

「ある一定水準までは、普通はそれなりに強くなるのですがね」


 このような感想は当然でもある。マークスもコンラッドも不思議そうに言うが、まさか神の封印だとは思いもしない。



「ああ、悩むのはそっから先なんだけどな」

「追放する時に透視鑑定ビジョンチェックしてもらえって言ったじゃない。やった?」

「全くダメだって言われた……」

「あらあら、絶望的ね」


 無駄だと分かっていたので、アランはギルドお抱えの魔導師による透視鑑定ビジョンチェックは受けていない。


 キャロリアは新人の頃にその鑑定チェックを受けて、魔法使いの道へ進んだと言っていた。


 全くダメはアリーナに言われた話だ。


「まあ、いいじゃないか。『東スト』で仕事ができるんだ。強いクセにもっと強くなれない、ってイラついて、無理なクエストを受けて死んじまう。そんな冒険者だって大勢いるぜ」


 マークスが語るのもまた、冒険者たちの現実だった。

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