12「戦闘観戦」

 アランが丘を登ると戦闘の全体が見渡せた。上空のリトルワイバーンは三で、既に何匹かは討伐済みのようだ。


 剣士が前衛に突出し二人の魔法使いが後衛に付いている。アリーナは指弾を空に放ち牽制、パトリスは防御と機動をアシストしていた。


 急降下するワイバーンにコーディーは飛び上がり肉薄する。浮遊軌道リフティングレールのアシスト魔法だ。


 すれ違い様に閃光の剣ライトニングソードが振られ、ワイバーンはそのまま地面に激突する。


 両手をかざして広げた指から指弾を打っていたアリーナが、玉を包むように手の形を変えた。


 そして作られた光の球が一直線に、ワイバーンに向かって飛ぶ。砲口重弾キャノンボールだった。


 それは一匹に見事命中し、ワイバーンはもんどりうって地上に落ちる。


 着地の体勢に入ってていたコーディーが、そのまのそのワイバーンに光る剣を突き刺した。


 地上のコーディーに、残り一匹のワイバーンが襲いかかる。しかしそれは、パトリスの作り出した小ぶりな水晶防循クリスタルウォールに激突し悲鳴を上げた。


 コーディーは再び跳躍してトドメを刺す。


「凄い……」


 完璧に計算された連携だった。アランが来てからわずかの間に、ワイバーンが三匹も駆逐されたのだ。


 もしこの戦いにアランが参加していたら、剣を振り回して前衛として参加し、アリーナが防御のサポートとして戦うだろう。


 そして攻撃に参加できない彼女は歯噛はがみしながらアランを助ける。


 コーディーはアランに気配りし、パトリスは常にアリーナのバックアップに付けるよう注意する。


 アランはそれでも一匹は敵を引きつけた、と仕事をしたつもりになり満足しただろう。そう思いガックリと肩を落とす。


 戦いを客観的に見て、と言った編集長の言葉を思い出した。足手まといが一人いなくなっただけで、まるで別のパーティーのような戦いぶりだ。



「あら、アラン。どうしたの? こんなところに」

「いや……」


 倒した獲物の魔導核マジックコアを回収したアリーナが、アランに気が付き歩み寄る。


「ちょっとね」

「ん?」


 アリーナは首を傾げる。



 他のメンバーも集まって来たので、アランは事情を説明した。


「ほー……、つまり今日の戦いぶりが新聞に載るのか?」

「皆がよければと、あと編集長がオッケーを出せばですが」

「俺たちはまあ、構わないけどなあ」

「もちろんよ」


 リーダーのコーディーとパトリスは前向きだった。


「名前が売れれば指名のクエストも増えるかもしれないしね」


 使い魔が領地に居座ったりした場合など、貴族が馴染みのパーティーを指名する場合がある。


「でも大丈夫ですか? 技や戦略なんかが他のパーティーにバレますが……」

「バカねえ。私たちはAクラス目前のBなのよ。これくらいは普通なのよ」

「そう」

「秘密にしている戦いなんて今日はないの。楽勝の仕事だったんだから!」

「そう……」


 アリーナの発言は相変わらず厳しい。アランが驚きの仕事ぶりは楽勝の仕事だったようだ。



 帰りの道すがらアランは自分が来る前の戦いを取材する。


 ワイバーンの総数は六匹で、全て楽勝らくしょうで倒したそうだ。


「しかし、アランが『東スト』で働いているとはなあーー。もう冒険者はやらんのか?」

「やりたいけど、入れるパーティーなんてないし……。僕が一人じゃ薬草採りがせいぜいで……」

「うん……」


 コーディーは何気なく聞いただけだが、返答はアランに厳しい現実の説明だった。


「アリーナと組んで時々クエストを受けたら? このあいだやったんでしょ?」

「あっ、あれは吸血蝙蝠ブラッディバット程度だったから――」


 パトリスの言葉に、アリーナは慌てるように否定する。


「この、アランのことをずーっと心配していたのよ。このままじゃ死んじゃうわ! って泣きながら言うのよ~~」

「ちっ、違う! それは以前死んだ仲間のことを思い出したから――」

「私も迂闊だったよ。単に私たちが守れば良いと思っていただけだった。しかしこちらの力を上回る敵が出現した時は、どうなるか分からなかったんだからな」


 慌てるように言うアリーナとは対照的に、コーディーは落ち着いて当時の状況を分析した。


「どうしようかって、皆で色々話し合ったのよ――」


 更にパトリスが補足して説明をする。


 自身が死なないことはアランが一番よく分かっていたが、三人はそれぞれに悩み葛藤していたのだ。


 そして出された結論が、アランのクビだった。



 街に着きアリーナのパーティーと別れたアランは、メモを片手に新聞社へと向かった。


 空いているテーブル席に座り、メモを書き始める。


 取材から帰って来たケイティがアランの傍らに寄り、メモを取り上げて読み始めた。


「感心ね~。早速の取材か、どれどれ……」


 アランは少し緊張した。初取材の成果が試されるのだ。


「へー、鮮やかなものねえ……。リトルワイバーンなんて一匹街に来ただけで大騒ぎよ」

「なかなか、そんなに上手な連携はとれませんよ」


 アランがいた時はいかに苦戦していたかを説明する。


 そしてパーティーをクビになった経緯いきさつ、アリーナ、コーディー、パトリスたちの思いなども付け加えた。仲間を守る為には、時には追放やクビも必要なのだと。


「そのエピソードは素晴らしいわ。あまり考えたことはなかったけど、戦いの裏には色々な事情があるのね……」

「はいっ!」


 アランはこの記事を通して、冒険者たちがいかに悩み考えながら戦っているのか、広く知られて欲しいと思った。


   ◆


 礼を言う為にアランは帰りがけギルドに顔を出す。もう遅い時間だったが、受付のティルシーは在籍していた。


「今日は助かりました。うまく合流して取材もできました」


 これからは何かとギルドの世話になりそうだ。アランはしっかりとお礼を言う。


「そう、良かったわね。取材かあ~。偉いわねえ……」

「いえ、記事が採用されるかどうかは、まだ分かりません……」

「『東スト』は私も読んでるわ。頑張ってね」

「はいっ」

「ギルドとしても歓迎しているの。街の人は今の安全が普通って思っているしね」

「そうですよね。その辺りも上手く伝えなきゃならないか……」


 編集長とギルドの考えが一致すれば良いとアラン思った。

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