11「パーティー巡り」

 それは相手にとってはそうではないが、アランにとっては因縁ある相手だった。


「こんばんわ……」


 かつてアランを追放したパーティー。訪ねるのに気乗りはしないが、仕事だと割り切るしかない。


 争っていた訳ではないが恐々といった感じで、アランは彼らの根城の扉を開ける。


「早かったな、ん? 誰だあ?」

「久しぶり……」


 このパーティーのリーダー、マークスは一瞬アランが誰か分からず首を傾げる。そして気が付いた。


「ん~? アランじゃないか? お前はクビだ、追放だ! 再加入は認めねえぞ」

「違うよ、これ……」


 アランは早速に新聞社の名刺を差し出す。


「ん、何だ? 東部ストーリー、記者助手……」


 マークスは首を捻った。


「東ストの記者! お前があ?」


 そしてアランの肩書きに驚き、大きな声を上げる。


「違う、違うよ、助手、見習いだよ」


 アランは誤解されても困るとばかりに、大きく手を振って否定する。


「いや、しかしお前がなんでこんな仕事にありつけたんだ?」


「運良く新聞売りにありつけて・・・・、だからそんな話をもらったんだ。冒険者だったら手伝ってくれって言われてさ」


 アランは多少脚色して事情を説明する。サンドフォード卿からの紹介とは言えない。


「ふーん……、で、何の用だ?」


 やっと今日の本題に入れるとばかりに、アランは切り出す。


「密着取材させてもらえないかな?」

「取材! つまり俺たちのことが『東スト』に載るってことか?」

「う~ん、内容しだいだけど……」

「そりゃあ、断る理由はないわな。キャロリアは出たがりで目立ちたがり。コンラッドは――金次第だがまあ大丈夫だろ」


 キャロリアは今マークスが言ったそのままで、魔法使いの明るい女性だ。


 魔導師のコンラッドは真面目派だがドケチレベルで金にうるさく、アランへの報酬を増減細かく査定した。


 新人がそれをやられると、わずかの金しかもらえない。成果主義と言うらしい、とアランは思い出す。


「あいつら今、酒と食い物の買い出しに行ってるんだ」

「報酬は出るよ。協力金で少しだけど」


 少額とは言っても、日々のクエストにプラスされる不労所得なのだから悪い話ではない。


「よし、やるぞ! しっかり書いてくれよ!」

「まだ、それは分からないよ。決めるのは編集長だし。今日は相談、打診だけで……」


 勘違いされては困るとばかりに、またまたアランは大袈裟に手を左右に振る。


「そうか。まあ、よろしく頼むぜ」


   ◆


 翌日アランは果物売りを終わらせ冒険者ギルドを訪ねる。


 この時間、ほとんどの冒険者はすでにクエストに向かい、中は閑散としていた。


 アランはお馴染みの受付嬢、ティルシーを見つけカウンターに向かう。


「おはようございます」

「あら、どうしたの?」


 アランがこの時間にギルドに顔を出すのは珍しい。


「実は相談が……」


 口で説明するより、まずはこれだ! とばかりにアランは「東スト」の名刺を差し出す。


 昨日の効能が絶大だったからだ。


「あら、ギルドの連絡事項であったわ。新聞で冒険者の仕事ぶりを紹介するのよね」

「はい、見習いで時々働くことになりました」

「そう。アランがねえ……」

「……」


 ティルシーはアランがクビや追放を何度も食らったことは知っている。


「そう、がんばってね!」

「はい、それでアリーナたち……、前にいたパーティーが今日どこに行ったか知りたいんですが」

「ちょっと待っててね」


 ノートを持って来て、カウンター席に座り地図も引っ張りだす。


「今日は漆黒の丘に行ってくれてるのね。最近リトルワイバーンの群が居着いたのよ。五、六匹とあるわ」


 漆黒の丘は、昔ワイバーンの生息地だった。黒い群が丘を埋め尽くしていたのだ。


 その頃は街に頻繁に群がやって来て、餌場とばかりに上空を旋回していた。


 人々は表に出れない日々が続いたり、子供たちが被害に遭ったりする事例もあったそうだ。


「行ってみます」

「取材ね。気をつけて」

「はい」


 早朝出発し夕刻帰る日帰りクエストだ。森の中に入り北東への間道を進む。


 アランもかつて何度も通った道だ。この辺りは使い魔の脅威は少ないが、弱い探索魔法を使いながら道を急ぐ。



 草原に出て更に進むと遠くに漆黒の丘が見えた。まだ探索には反応しないが小さな黒い点がいくつか空を動いている。


「あれはっ!」


 今まさに戦いの最中! といった感じだ。


 アランははやる気持ちを抑えきれずに走りだす。

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