09「俺たちの東スト」
アランは浮かれた顔を引き締めながら、街の中心へと歩いていた。
セルウィンズ卿から新聞社関係のレターが来ていたので、早速訪ねることにしたのだ。
何と言ってもワリの良い稼ぎの話だから自然に顔がほころぶ。
最近はすっかり金のことばかり考えているアランであった。貧乏とはかくも恐ろしい。
「ここか……」
目的他の前に立つ。その建物には『東部ストーリー』の看板が掛かっていた。
東部はこの街が王国の東にあるからだ。ストーリーの意味は物語。
街の人たちは略して『東スト』と呼んでいる。
下には少し小めの文字で『俺たちの東スト』と書かれている。新聞社は『東スト』の愛称を広めたいようだ。
「記者さんの手伝いって何をやればいいのかな……」
一階の大扉は閉じ、中からはガッチャンガッチャンとリズミカルな音が聞こえる。まだこの街では珍しい大型の機械が動いているようだ。
横の階段からアランは二階へと上がる。編集室の札が掛かっている扉を見つけた。
「ここか……」
一度深呼吸をしてからノックをして扉を開ける。
「こんにちは……」
部屋の中にはいくつもの机が並んでいるが、人は少なく閑散としていた。
一番奥の窓際の席で新聞――、『東スト』呼んでいた人物が顔を上げる。
そして立ち上がり、やれやれといった感じでアランに向かって歩く。他の人間は机に向かって何やら真剣に文章を書いていた。
「何かな?」
「セルウィンズ卿から紹介頂きまして……」
「うーん? あっ、あれかあ。君は冒険者なのかい?」
「はい、これを見てください」
アランは紹介状も兼ねている卿からのレターを差し出した。
「ふむ、こんなに若い人とは思わなかったものでね……」
その男性はレターを読みながら言った。アランは少し不安になる。
「子供はダメですか?」
「いや、冒険者ができる年齢ならば問題はないよ。それにセルウィンズ卿からの紹介だしね」
十五歳から冒険者登録は可能だった。
「アラン君と言うのか……」
「はいっ」
「私は編集長のランドルだ」
五十歳がらみのこの人が『東スト』の、パーティーで言えばリーダーと呼ばれる立場なのだ。
「こっちに来てくれ」
「はい」
編集長のランドルは内階段を下り、アランはそれに続く。一階では外まで聞こえた音を発する機械が置いてあった。数人が何やら作業をしている。
「凄い……」
アランの目の前では大型の印刷機械が動いていた。規則正しい音を出しながら印刷された大判の紙を吐き出している。
「王都から運んだ最新式だよ。魔法を動力として使っている」
詳しいことはアランも知らないが、それは魔力を溜める
数人がその紙を畳んで重ね新聞を
「今は明日から売る新聞を
再び二階に上がりテーブルで二人は向かい合う。本題の話はこれからだ。
「単刀直入にギャラの話からしようか」
「はい……」
アランは少し緊張した。
「君に卸せる新聞は一日二十部。それが週に四日あるんだ。卸値は十五Gでそれを三十Gで売ってもらう。売値は厳守してもらう。我が社の信用にも係わるからね」
話を聞きながら、アランは頭の中で計算する。一日三百Gの稼ぎが週に四日ある。これに果物売りの利益が加わる。さして物売りの時間は増えないし、美味しい話だった。
「はい」
「新聞は全て売れるよ。品薄なくらいなんだ。今の機械をもってしても生産が追いつかない。そしてこれが一番の大事なんだが、君にやってもらいたいのは冒険者の取材だね。こいつの報酬はネタ一本で五百G出そう。記事になれば追加で千G出すよ」
「あのう……、ネタとは?」
「うん。おっ、帰って来たな。ケイティ! こっちに来てくれ」
呼ばれたのは部屋に入って来た、二十歳を過ぎたばかりのような女性だった。
「なかなか優秀な若手記者でね。アラン君は彼女の助手として活躍して欲しい。客観的に冒険者たちの戦いを見る役だ。頼んだよ」
「はいっ」
「編集長。これを……」
「うむ。早速読ませてもおう。後を頼む。ネタのことも説明してやってくれ。ちょっと急がなくちゃならん。後はケイティに聞いてくれたまえ。失礼するよ」
「はい」
ランドルは差し出されたメモの束を受け取って、自席に戻って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます