07「久しぶりに天使と会う」

 部屋に戻ったアランの周囲に、ヴヴヴ……と、奇妙な空気の振動が起こった。


 カタカタと家具が細かく震える。それは開口ゲートが開く合図だった。


「早速来たか。久しぶりだな……」


 部屋の中心に渦を巻くように白い光が発生し人の大きさまで拡大する。


 アランはその前に立ち目を閉じて前に進む。そして目を開けば、そこにはまばゆく光る白い空間が広がっていた。


 天使の間と呼ばれている場所だ。


 神と対面した、天使に会ったなどという人は大勢いるが、それは全てこの異空間での出来事だ。


 ある意味、魔結界とは対局にある場所と言える。


 アランの担当天使がソファーに寝そべる姿が見えた。しかしその姿は上下が逆転している。つまり、アランから見てその天使は逆さまの状態なのだ。


 天と地に住む者の違いだった。アランは天使に歩み寄る。


「久しぶりね~、元気してた?」


 ピンクの巻髪を人差し指でもてあそびながら、けだるそうにその天使は言う。


「まあ、元気だけどさ」

「これじゃあ違和感があるんだっけ?」


 天使はそう言って中でクルリと指を回す。


 アランが逆さまになったのか、天使がそうなったのか分からないが、二人は普通の状態で向き合った。


「相変わらすお金がないのねー」

「覚悟の上だよ」


 ここでもいきなりお金の話かと、アランは少々げんなりとする。


 蝿の王ベルゼブブと戦っていた時は一級の天使が担当していたが、今は平時なので三級天使の彼女がアランの面倒を見ていた。


 名前はオルディアレス。アレスと呼べと言われている。


 性格と見た目は少しわがままな幼女、といった感じの天使だ。ただしそれは人間に当てはめた場合の常識である。


「そんなことより、今日三体倒したよ。見てたの?」

「ええ、魔を感じて下界を見下ろさせてもらったわ~。問題はもう一体の方ねえ……」

「竜族か……」


 悪魔族は十の王をいただき、十種の魔族たちで結束している。


 蝿の王ベルゼブブたちは悪魔においては珍しい方で、力業ちからわざを好み人間界へ進行した。


 多くの悪魔は吸血の使い魔を介して人間の使役者を増やしたり、悪魔の誘惑で人を悪魔のように変えてしまったり様々な方法で世界をむしばむ。


 竜族は少々変わっていた。ドラゴンやサラマンダーを使い魔とし、山中や秘境に現われ神や人間と争うなどめったにない。


 ただし、遙か昔に神にも悪魔にも組みしない種族の国が、ドラゴンたちに焼き尽くされた、などという伝説もあった。


 それがどんな国だったのか、アランには想像もつかない。


「ちょと気になるわ~。私も下界に時々は顔を出さないといけないわね」


 確かに竜の存在は気になるが、天使自らが地上に降りる動機としては、まだ早いような気がする。


「他にも問題があるの?」

「吸血王がけっこうしつこくてね。そちらにも目配せしないといけないのよ。アランにも手伝ってもらうかもね」


 冒険者ギルドは使い魔を討伐して、人間と街を悪魔の脅威から守っていた。


 しかし悪魔に誘惑された、もしくは吸血の使徒になってしまった人間には対処できない。


 一応、相手は人間だ。街中で大勢の冒険者たちが取り囲み、剣で切りつけるなど人目もあってできない。


 それは街の教会が管轄する仕事だったが、手に負えない時にはアランの出番だった。


「いつでも声を掛けてよ」

「うん。頼むわ」


 ここ一年、アランは追放や貧乏との戦いに集中していたが、これからは対魔族との兼業体制で臨まなくてはならないと気を引き締めた。


 この仕事に報酬が出ればと思わなくもない。

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