04「嬉しい報酬」

「ここよ」


 目的地に着く。そこは吸血蝙蝠ブラッディバットが生息する洞窟だった。


 アランは胸のペンダントに手を当てるが何も感じない。奥に魔族や強力な使い魔が潜んでいることもなさそうだ。


「ここで時々魔法の練習をしているのよ。蝙蝠相手にね」


 吸血蝙蝠ブラッディバットは使い魔の中でも力は弱い。


 ギルド常設クエストであるが、あえてこれをやる冒険者は少なかった。


「そろそろ蝙蝠も増え時だしね。前衛をやってもらえるかしら?」

「役立たずの僕が?」

「嫌みを言わないの。私の指示に従うのなら、だけど……」

「やるよ」


 増えすぎると洞窟から溢れた吸血蝙蝠ブラッディバットが街へと向かう場合があるのだ。


 前衛のアランを先頭にして、二人は洞窟の中へと入る。


 アリーナは光の球フラッシュライトを点灯させ、アランを頭上から照らした。


「そこで止まって。絶対前に出ないように」

「こんな所にいても吸血蝙蝠ブラッディバットは来ないよ」


 と、ついアランは言い、しまったと思った。


「もうっ。黙って私の指示に従いなさい!」

「はい……」


 今の二人がパーティーならアリーナがリーダーだ。


 もう一つ光の球フラッシュライトを作り洞窟の暗闇へと飛ばす。奥が騒がしくなってきた。


「ヤツら飛び出して来るから、そこから一歩も動かないまま剣で対応して」


 少し振り向くと、アリーナは指を広げた両手を突き出し、高速指弾フィンガーバレットの発射態勢をとっていた。


 アランは作戦を理解する。


「よしっ、分かった!」



 蝙蝠の鳴き叫びがだんだんと大きくなってきた。アランが体を緊張させると、黒い塊が猛然と迫って来る。


 先頭に向かって剣を振り回すと無数の吸血蝙蝠ブラッディバットは散開した。


 群は横をすり抜けようとするするが、アランは一歩も動かない。


 そして両脇を光の帯が相対し、すり抜ける。


 アリーナの放った高速指弾フィンガーバレットは全て散弾仕様になっていた。


 黒い群を光が押し包み、蝙蝠たちは一気に殲滅される。


 後続に続く蝙蝠には単発となった指弾が、直射だけではなく曲射も織り交ぜながら命中する。


 アランの周囲を通過する蝙蝠は、確実にバタバタと打ち落とされていった。



 しばらく戦いが続くと蝙蝠の気配は消え、洞窟の中は静寂に包まれる。


「これで一つの群を退治ね。今日はこれまでにしましょうか」


 奥に行けば他の群もいるだろうが、アランはアリーナの判断に従う。なにせ相手はリーダー様だ。


 警戒しながら二人で魔導核マジックコアを回収した。


 この魔力の塊を核として、悪魔の魔法がただの動物を使い魔へと駆り立てている。


 死をもって悪魔から解放された肉体は、体内に形成された魔導核マジックコアを残して霧散する。


 これがギルドの報酬になるのだ。


「曲射も撃てるなんて凄いなあ……」

「命中率はまだまだね」


 曲げるだけでも凄いのに、これ以上的に当てるなんて至難しなんの技だが、アリーナはまだ満足していないようだ。


「報酬は半分あげるわ」

「いや……」


 アランは剣を振り回して敵を追い散らしていただけだ。仕留めたのは全てアリーナの魔法だった。半分はさすがに多い。


「僕がいなくても良かったんじゃないの?」

「あなたが前衛に立ってくれたから、こちらは魔法攻撃に集中できた。良い訓練になったわ。これは正当な報酬よ」

「……ありがとう。助かるよ」


 アランは素直に礼を言った。アリーナは少し照れたような表情をする。


「さて帰りましょうか」


 二人は洞窟を出て森の小道を歩く。


「こなんクエストならば、アランだって十分役に立つのよ」


 なんとなく無言で歩く帰り道、アリーナは沈黙を破って言う。言い方に少しトゲがあるが、これはただのクセだった。


 もうアランはもう気にしない。


「僕はどうせ役立たずだよ」


 アランはまた嫌みを言ってしまう。すっかり役立たずが板についてしまった感じだ。


「そうじゃないの、これだって立派なクエストよ。だけどやる人はあまりいないのよ」


 アリーナはやれやれといった表情で言う。


 上を目指しているパーティーはこんな吸血蝙蝠ブラッディバット程度は狙わない。もっと金になる獲物を追う。複数人でこの稼ぎでは生活もままならないからだ。


 かと言って初心者が一人では万が一、不測の事態があるかもしれない。


 洞窟の奥からボスキャラが現われたら、アリーナクラスは別だが――、逃げ切ることはできない。


 しかしこの洞窟をいつまでも放置していれば、溢れた吸血蝙蝠ブラッディバットのいく匹かは街へと向かう。


「だからアランはこんなクエストをするパーティーを作ったらどうかしら? 街の人たちのためになるような……」

「うん……」


 アランは何か重要なヒントをもらったような気がした。



 ギルドに戻り報酬を半分に分けると、アランの取り分は三百Gになった。

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