第43話
「ユウ様、私はあれこれと都合をつけて言いましたが、あなたの婚約者には陛下に直談判して収まりました。一目で、あなたに惹かれていたから」
今聞いた言葉が、予想外すぎて思わず固まってしまう。
そんな私の手を取り、ベイルさんは私を真剣に見つめて言った。
「仮初なんかではなく、私は本気であなたを愛しています。あなたに私の妻になって欲しい。私を好きになって欲しい。そう思っています」
真剣な瞳と声、私の手を掴む手は緊張からか、少し冷たい。
ベイルさんは、言葉を重ねる。
「意気地無しな私を、詰って構いません。いい大人が、年の差に恐怖して仮初でも押し切ればなどど、卑怯でしかありませんでした」
そこまで言うと、少し俯いたあと、ベイルさんはまた顔を上げて、私と視線を合わせて言った。
「嘘をついた私では、信じられないかもしれません。ですが、私はあなたを愛しています。あなた以外は愛せないでしょう」
そして、ひとつ呼吸を置くと言った。
「たくさんの愛を、これからは惜しみなくあなたに注ぐことを、許される立場を私にくれませんか? 結婚してください」
そうして、ベイルさんがポケットから出してきたのはシンプルなリング。
この世界には、結婚指輪などの結婚に関するしきたりはない。
だからこそ、驚いた。
そのシンプルなリングは、私がお守りのように身につけている、ネックレスに通されたものに似ていたから。
私の驚きに、ベイルさんは苦笑して言った。
「ビックリなさいましたか? あんな態度で仮初だと言いつつゴリ押しで。なんとかしてあなたに振り向いて欲しくて、私はよくジェシカちゃんにあなたのことを聞きました」
そう、このネックレスに関してはミレイド家ではジェシカちゃんにしか話してなかったのだ。
私が首から下げているものに、初めに気づいたのはジェシカちゃんだった。
その時に話したのだ。
これは、亡くなった両親の結婚指輪で、私の世界では結婚すると揃いの指輪を左手薬指に付けるのだと。
ここに来た当初のことで、私も話したことを忘れていたものだった。
「その、いつも首にかけられていたものは、ご両親のものだったと。お守りなんだと聞きました。その素敵な風習を、私はあなたに送りたいと思ったのですが、受け取ってくれますか?」
どこまでも、考えていなかったことの連続で、私は起きている事態に頭上手く追いついていかない。
でも、素直な気持ちを言葉にと出かける前にたくさん言われた。
その言葉がよぎった時、私の胸の苦しさは、一気に溢れて、零れるように口に出た。
「私、ベイルさんは騎士で貴族で、地位もあるから、私ではダメだと思ってた……」
初めて出た、私の言葉にベイルさんは少し目を見張ったものの、キュッと繋いだ手に力を込めて言った。
「それで、どう思っていたのですか?」
「仮初だから、きっと戦争が落ち着けば解消されると。だったら早く解消できるように、国が落ち着くようにって、動いたの。このままじゃ、苦しいから」
私は、だんだん落ち着いてきたところで呼吸を二つ。
そして言った。
「だって、ベイルさんは相応しい貴族の令嬢が相手だろうって。私じゃないって思うと苦しかったから。だって、私も一目であなたに惹かれていたから……」
私の言葉に、ベイルさんが息を飲んだのが俯いた先にある握られた手から伝わった。
「私が、悪かったです。あなたを苦しませて……。許してくれるなら、この手を取ってください。一緒に、幸せになってください」
一緒に、その言葉が私の心に一番響いた。
ぎゅうぎゅうと締め付けるような想いだった、そこにふわっと包むような温かさが胸に染み込んできた。
あぁ、私、この人と一緒にいたい。
幸せになりたい、一緒に……。
そう、素直に思えた。
だから、私は握られた手を、握り返して顔を上げた。
「一緒にいたい。私があなたを見送ることになっても、それでもその時まで、あなたと居たいの」
最後は堪えきれなくって、零れた涙は苦しさからではなく、見つけられたことへの安堵と嬉しさからだった。
だって、私は微笑みながら涙を零していたんだもの。
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