第38話
謁見から三日後、私は西の砦に到着した。
ホワイトタイガーに騎乗するという、世にも珍しいスタイルで登場したが、ここでは雷落としたり、重症の怪我を治したり、結構初めから魔法を使いまくっていたので、住人の人々には驚かれなかった。
メルバは子ども達に大人気で、現在小さな子達にはしゃいで登られている。
メルバも子どもには好きにさせている。
「ユウ様!! なぜこちらまで来たのですか?!」
着いた私を出迎えたのは、西の辺境騎士団の第一隊の隊長、ジェラルドさんだった。
「ジェラルドさん、ここの復旧はどう? 少しは落ち着いたのかしら?」
そんな私の問いに、イヤイヤと首を振って、突っ込んできた。
「そりゃ多少は進みましたが、ってそうじゃなくって、この子はどうしたんです!」
メルバを指して聞いてきたのだが、全く無関心なメルバに変わって言った。
「あの時の通過した森で出会った子猫、あの子聖獣だったのよ。最近この姿になったの。風の聖獣メルバだよ」
さらっとした説明にジェラルドさんがガックリと肩を落とすと、私もヒョイッと肩を竦めた。
「だって、どうあろうとも、メルバはメルバで私の家族なんだもの」
そんな私の言葉には満足そうに、尻尾を揺らしている。
メルバは結構、喜怒哀楽が分かりやすい。
表情も去ることながら、尻尾の動きはとっても素直で感情豊かだからね。
「ユウ様は、救世主以前にその思考も力の使い方も変則的でしたね……」
それは、雷落として地面をえぐったことを言ってるのかな?
それとも、勢いつけすぎて、岩と巨木を砕いたことを言ってるのかな?
「なんのことでしょう? まぁ、力の制御って大変だよねー?」
ちょっとそっぽ向いて私が言うと、ジェラルドは乾いた笑いとともに言った。
「だから、ですかね。聖獣様のおかげか、ユウ様の魔力は大きくはなっても、安定していますよ」
ジェラルドさんも、魔法騎士だから、それなりに魔法に関しては分かっている。
「ユウ様の魔法は規格外ですからね。聖獣様が側におられるくらいがちょうどいいですよ」
その言葉に、メルバが返事をした。
「お主、ユウをよく分かっているのぅ。此度の戦でユウの近くにあるならば、よろしく頼むのぅ」
まるで、親のような口ぶりなのも仕方ない。
なにしろ、聖獣は精霊王と同じくこの世界ができたその時から存在していると言うのだから。
私なんて、メルバから見ればヒヨコどころかタマゴのレベルだろう。
だから、この辺りの発言は好きにさせることにした。
「聖獣様、もちろん側におります時には、必ずやユウ様をお守りします」
騎士のピシッとした礼で返事を返されて、メルバは満足そうに頷いて尻尾を振っていた。
そんなやり取りをしつつ、砦近くの住人と和気あいあいと過ごしているうちに、一緒に来ていたのに、あっという間に後続にしてしまった王国騎士団の面々がやってきたのだった。
もちろん、今回一緒に来ていたクリストフさんとベイルさんには、容赦なく私とメルバは並んでお説教を受けることになった。
だって、メルバは風のように走るし、馬と違って振動もないし、乗り心地最高で、気づくと馬が追いつけない速度で移動してしまうのだ。
「ごめんなさい。メルバの足は早いし安定してるから、つい速度にのって走ってしまうんだよね……」
その、私の言葉に同意するように、パタン、パタンと尻尾を揺すっているメルバ。
そこに、ニコッと笑ったベイルさんと視線が合った途端、私とメルバは背筋に悪寒が走って、即刻言うことになった。
「ごめんなさい! もう、最速で駆けません!」
という、反省と宣誓を。
笑顔で怒るという、ベイルさんには勝てません。
メルバすら怖がるって、相当だよね……。
もしかしたら、ある意味ではベイルさんが最強なのかもしれないと思ったのだった。
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