第37話


私の言葉に、陛下も宰相も目を見開いた。

この国の人々は自身が苦しい中でも、自分以外の人に優しく手を差し伸べることの出来る人々がいる、優しく思いやりに溢れた素晴らしい国なのだ。

それは、他所から来た私が一番驚き、嬉しさ喜びと共に、尊ぶべきものと感じたことだ。

人に優しくできる人々の多いこの国は、だからこそ守らなければならない。

自衛をしていても、狙われてしまう、魅力あるこの国は、精霊や妖精にも愛されている。

それは、この国の人々のあり方、気持ち、過ごし方である。

彼らは見えなくとも確かに存在する隣人に敬意を払っているし、認めているのだ。

だから、この国の人々に妖精も、精霊も優しく見守っているし、些細な手助けだってあるのだ。

それは過ごしやすい気候、作物の育ちやすい土、きれいな水。

そういった全てに、干渉しやすい存在が妖精や精霊だ。

その存在を認め、敬い、親しき隣人として過ごしてきた国民性が、この国を豊かにした一因でもある。

元から良かったものが、さらによくなるにはそれなりに理由があるのだ。

それを分からずに、攻めてくる国にはやはり問題があると思う。

そして、私は関わことのある人々の危機を見過ごすことは出来ない。

だから、元から行く気だったのだ。

「この国で、最初にお世話になった人達なので、私はそこに住む人々を守りたいです。それが、私に出来ることだと思うので……」


心から、そう言ったとき。

私の足元に常に共に居た猫のメルバが、パァーっと光を発した。

光が落ち着くと、そこにはいるのは立派なホワイトタイガー。

「メルバ? 大きくなったってレベルじゃないよね?」

思わず、突っ込んだのは仕方ないと思う。

「当たり前だよ、我が主。主の心の望み、強き思いで我の呪縛が解かれたのだ」


ホワイトタイガーから、男性の美声が話しかけてくるという奇妙な状況だが、アリーンとサリーンから受けていた忠告のおかげで、何とか平静を装っている。


「メルバ、あなたは一体?」

私の問いに、メルバはあっさりと答えた。

「我は、風の聖獣よ。サリーンと近しい存在だな」

聖獣!? それは喋る動物で認識は良いのだろうか?

やはり、私も私も少々混乱している。

「我は精霊に近く、妖精より高度な魔法や力を持つものだ」


アリーンやサリーンの声は聞こえないが、現にそこにいるホワイトタガーなメルバの声に関しては、ここにいる全てのものに聞こえてるらしい。

私とメルバが会話している間、陛下も、王妃も、王太子も宰相も固まってしまった。

「やはり、普通の猫じゃなかったか……」

そう呟いたのはクリストフさんで、それに頷いて同意していたのがベイルさんだ。

「えぇ、たまに猫から殺気飛ばされましたからね……」


なんか聞き捨てならない事を聞いた気がする……。

「メルバ、殺気なんて飛ばしてたの?」

私の胡乱な目線にも、ん? なんのこと? みたいな表情をしてメルバは言った。

「なに、我のユウを困らせとるから、ちーっとばかり、ビビッと飛ばしてしもうたかものぅ」


聖獣の殺気なんてちょっとばかしで飛ばしちゃだめだろう……。

「メルバ、この部屋の人々も、私の周りにいる人々も大切な人達だよ。殺気飛ばすのは、戦の相手だけにしてちょうだい」

私の発言に、ちょっと周りがヒヤッとしているのは、まぁ、いいでしょう?

「人のもの欲しがる駄々っ子には、お灸が必要でしょう? 二度目とか、手加減はいらないと思うのよ?」

ここに来て、この謁見の間の人々は私が宣戦布告にたいそう怒りの気持ちを持っていることを悟ったのだった。

「私の国の言葉には、目には目を、歯には歯をという言葉があるの」

唐突な私の言葉に、みんながかたずを飲んだ。

そして、陛下が聞いてきた。

「して、その心は?」

「やられたら、やり返せというものよ」


ニッコリ微笑んだ、私は結構怖かったとクリストフさんにのちのち言われたのだった。

こうして、私の戦への参加は決まり、翌日には西の砦に向かって出発したのだった。

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