第35話

クリストフさんと、部下の騎士さん達が着いたあと、彼女は部下の騎士さん達によって王宮地下にある牢へと連れていかれた。

そして、クリストフさんが私に聞いてきた。

「すまなかった。ユウ、大丈夫だったか?」

そう、今回の王宮への緊急招集礼状にはそれとは別で、今回の詳細をクリストフさんが綴った手紙がついてきた。

そして、王宮にいる隣人さん達に聞いて捜査協力をお願いされていた。

なので、王宮に来て直ぐにサリーンが周囲の妖精や精霊に声を掛けていて、今回の実行犯の捕縛となったのだった。


「クリストフさん、大丈夫だよ。今回はそんなに大変でもなかったもの。ただ、私の存在に善し悪しがあるんだなとは、思ったけれどね」

少し、苦笑を浮かべて言った私に、クリストフさんは直ぐに反論した。

「ユウは何も悪くない! この世界の精霊王や妖精に愛されているに過ぎない。今回のことだって、ユウがこの世界に来なくっても情勢上、起こりえた」


クリストフさんが言うことは最もだ。

どこの国も、この大陸で一番栄えているイベルダ国の土地は魅力的で欲しいんだろう。

戦争のきっかけはそういったものなのだろう。

自分の国に無いものが欲しい、だから侵略する。

される方は、そんなことは受け入れられないから、戦う。

そういうものなのだ。

きっと、戦争のない平和な世界ってとっても理想的で難しい。

争いの無い世の中って、きっと無いから……。

でも、無くせたら素敵だから、希望だけは小さく持っててもいいかな。

つかの間かもしれなくっても、七十年戦争のない国に生まれて育ったから。

私は、自分の生まれた国のいい所はそこだって言えると思うから。

希望として、持っていようと思う。

「難しいって分かってるけれど、争わなくっていい世の中になると良いよね。私は幸い、争いの無い時代の国で生まれて育ったから、そう思っちゃうんだ」


そんな私の言葉に、クリストフさんも、ベイルさんも魔術団長も耳を傾けてくれる。

「争いの無い国とは羨ましいですね。それはきっと幸せでしょう?」

魔術団長さんはそう言った。

「そうだね、生きやすい所ではあったんだろうと思う。色々問題があっても、戦争をしていて生きるか死ぬかの瀬戸際にいる日々でないのは、有難いことだったと今は実感してるよ」

そう、ここに来なきゃ、私は自分の育った国のありがたみなんて実感出来なかった。

そして、それがどれだけ貴重なのかもわからなかったに違いない。

だから、私はここで出来ることはしっかり頑張って取り組みたいと思うようになった。

この国で出会った、優しい人々の為に。

この国が大好きで可愛らしい、隣人たちのために。

なにより、この国で生きていくと決めた自分のために、自分の力を活用するのだと。

今回の件で、より強く意識した。


「ユウ様、今回は誠にありがとうございました。無事に解決しましたが、婚約発表は王太子様が落ち着いてからにしましょう」

ベイルさんが、言った言葉に頷いて、私は返事をした。


「そうですね、いっそ仮のままで発表はもう少し後でもいいと思います。南と西を落ち着かせるまでは、延期にしませんか?」

私の言葉に、クリストフさんとベイルさんは顔を見合わせた。

だって、この二人がこれから一番忙しくなるだろうことが明らかだしね。

もともと、これで良いのか少し迷っていたし、いい機会だと思って言った。

「私は、忙しくなる前に発表したいですが……」

ベイルさんは気持ちと状況の板挟みなのか、苦そうな表情だ。

ベイルさんはこの婚約には、仕事的義務感しか無いだろうに……。

表情からは、延期が延期が嫌みたいに感じる。

私の勘違いだと、否定して、騒ぎそうな鼓動を抑えた。

「そうだな、今回の件もあるし、犯人の捕縛とともに、陛下にも延期を進言しよう」

クリストフさんの言葉に頷いて、私は了承の意思を示した。

そんな私を見て、少し悲しそうにしつつ、ベイルさんも頷いたのだった。




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