第34話


そうして、鑑定を終えた結果を聞くと、ベイルさんは言った。

「この毒は、南と西が手を結んだ証拠と言うわけですね?」

その表情は緊迫した空気を纏って、私たちに問いかけた。

「えぇ、そうです。そして、その実行犯も、もうすぐここに来ますので、魔法で捕縛しますね」

私の返事に二人がギョッとした時には、この部屋にバーンと突っ込んで来た女官さんが驚きの表情で固まっている。

私は直ぐに、そんな彼女に魔法を使った。

「捕縛」

すると、どこからともなく現れたロープによって彼女は縛り上げられて、その隙に可愛い、ちいさな隣人たちが暗器を取り上げてしまった。

ものの五秒とかからぬうちの出来事に、捕縛された方も、その様子を見ていた魔術団長とベイルさんもポカーンとしている。

「さて、あなたはどちらの国の方かしら? それともどちらかの国に脅されてしまったのかしら? 正直に話した方が身のためよ?」


私の言葉に顔を上げて、私を見た彼女は自身の失敗を悟った顔をして、口を閉ざす。

「別に話さなくってもいいのよ。この毒物を貴方が混入させて、王太子様に出したことはちいさな隣人たちが見ていたし、彼らは私には嘘がつけない。それが真実で事実だから」


そう、ちいさな隣人たちは私の味方で、精霊王の愛し子の私には嘘なんてつけない。

意地悪やイタズラが好きな子達でも、私の前では素直で愛らしい隣人に早変わりなのだ。

この精霊と、妖精の溢れる土地で、そこに愛し子がいる状況でこの国で悪さなんて本来は出来ようはずがない。

全てが、見ている妖精や精霊から愛し子に筒抜けになるから。

だから、それを知らない者。この国以外の出身者がこの事件の犯人であると、見当がついていたのだ。


そして、この女官さんは私の考えの通り、南の国出身の女官さんだった。

行商だった南の国出身の御両親は、この国を気に入り、祖国を離れてこの土地に根ざした。

しかし、南の国出身だったことで、そちらの暗部に目を付けられて、彼女は南の考えを教育されて育った。

そうして、今回女官になれたことで、最近の情勢からこの度の王太子様への毒殺未遂となったのだろう。

今回のものは新たな毒で、解毒剤も、彼女が暗器と共に持っていたもの一つのみという急ごしらえのもの。

手を組んだものの、どちらの国も単独で何とかイベルダを手中に収めたいという思いがあるようだ。

まだまだ、不安定だとも言えるが、事件を起こすだけの物があるとすれば、その起因は私の存在にもありそうだ。


「もしかして、もう一つあったこの毒は私に使う用だった?」

暗器とともに、解毒薬の他にもう一つ瓶があった。

それは毒々しいほど赤く、良いものには見えなかった。

その瓶を見て、アリーンはすごく嫌な顔をしたし、サリーンは思念が読めるのでこの毒が私に用意されていると分かると憤慨していた。

「私が、こんな毒をユウに飲ませる隙なんて絶対与えないけど! 準備すること自体が許せない!」

そう、プンプンと顔を真っ赤にして怒っていた。

「私には、仲の良い隣人がいるのよ。可愛らしい子達なのだけれど、この瓶を見てからすごく怒ってるの」

そう言うと、彼女には見えないだろうに部屋の空気が変わったのが分かったらしく、表情に危機感を滲ませた。

少なくとも、彼女はこの国で過ごして女官になっている。

本来、やらざるべき事を犯したのは理解しているらしい。

空気の変化は分かるくらいには、隣人達とも接していたんだろう。

それなのに、この事件を起こすなんて。

植え込まれた意識というのは、幼い頃から故に変革は難しいのだろう。

しかし、今回のは捨て置けない。

王族への暗殺未遂なのだから。

そして、そのジャッジは私には下せない。

この国の司法や、刑を決める人達に委ねるしかない。

だから、私は彼女を引き取りに来たクリストフさんが引き連れた騎士たちが見えた時に言った。

「きっとこれが最後だから、言うわ。あなたを見て来た隣人が泣いてるわ。止まって欲しかったと」


彼女を見つめてきたと思われる、悲しげな顔の妖精。私が見つけたその子のために、それだけは彼女に告げたのだった。


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