第33話 忍び寄る、影。力が求められる時


婚約発表の三日前、嫌な報告がもたらされてミレイド家ではマリアさんもクリストフさんも一気に忙しくなり、ベイルさんもそれは同様となった。

私は学園で様々な魔法を学び着々と自身でも扱えるようにと、訓練を重ねていた。

そんな時、私にも王宮への参上を求められて、忙しいであろうに、その書状を持って迎えに来てくれたのはベイルさんだった。


「ユウ様、誠に申し訳ありませんが、この書状を読みましたら、至急、私と一緒に王宮へお越しください」


かなりの急な要件であろうことは、その表情からも確認でき、私は歩き出しながら言った。

「書状は馬車でも確認できます。急ぎましょう!」

そう言って馬車に乗り込んでから、書状を確認すると、現在の状況や、私への要請は実に逼迫したものであり、急いだのが正解だった。

「王宮に着いたら、すぐ、まずは医官の詰所の王太子様のところに向かいます」

私の言葉に、ホッとした顔をしてベイルさんが返事をした。

「ありがとうございます。そのように手配済みですので、お願い致します」


こうして、馬車にあるまじきかなりの速度で学園から王宮に向かって超特急で走っていた。

普段三十分の距離を十分短縮して到着したその後も、ベイルさんの案内で普段駆け抜けることなど許されない、王宮を走り抜けた。

ズルだろうが、今回は私はサリーンに補助をさせて、風に背中を押させて駆け抜けた。

多分人生で一番早く走ったと思う。

そうしてたどり着いた医官詰所のベッドには、つい先日謁見の間で見かけた王太子様が青白い顔で寝かせられていた。

私はすぐさま魔法を使う。

「サーチ!」

全身をくまなく見るべく使ったサーチでは、全身を巡る血に変色が見られた。

つまりは、毒物を取らされたことによる中毒症状と見た。

私は原因が毒物と仮定して、それを血液上から浄化するイメージをして治癒を施す。

「ハイ・ヒール」

私が、そう呟いて王太子様に手をかざすと、光の粒が染み込んでいき、私の手元に黒い血が集まってきた。

私はそれを、魔法で作った瓶に入れて封をした。

「ユウ様、それは?」

医官の長のおじ様医官に聞かれて、私は簡潔に言った。

「王太子様の盛られたであろう毒物が溶け込んだ血です。ここから、毒と血液とに分けて、綺麗な血液は王太子様に戻します」


そう宣言すると、私はもう一つ空の瓶を出し、魔法を使って混ざり合うものを分けて、それぞれに収まるようにした。

すると、血液は綺麗な赤に、毒物は緑がかった黒色の物が瓶に入った。


「これを、魔術団でどんな毒物であるか鑑定をしてください」

私はそれをベイルさんに預けた。

ベイルさんは頷いて、言った。

「では、これは一緒に届けましょう」

「はい。王太子様はこれで落ち着いたと思いますが、少し心配ですね。魔法を掛けていきましょう」


私はそう宣言すると、さっと魔法をかけた。

悪意あるものの攻撃を跳ね返す、その際には位置が私に分かるように知らせが来るようにした。

「これで、大丈夫です。ここは離れますので、王太子様をお願いします」

部屋の医官さんや、警護の騎士さん達に任せて私はベイルさんと部屋を出た。

そうして向かった魔術団では、既に顔見知りな現団長と顔を合わせて直ぐに言った。

「団長、この毒がどこの国の物か調べてください」


そう言った私に、団長さんもベイルさんもちょっと驚いた顔をする。

「毒そのものではなくか?」

「はい、おそらくこれは外部からなので、そこの国からかなと思いまして」

そう言いきった私に、団長はひとつ頷くと鑑定を行ってくれた。


結果は、この毒物は複合物で、南と西にある毒性の強い植物同士の掛け合いで作った新しい毒物であることが判明した。


「よく、この毒が新しいって分かったな」

団長さんが鑑定を終えて言うと、私はちょっと肩を竦めて言った。

「こればっかりは、私は妖精が味方についてるからねとしか言えないわ」

私の言葉に団長さんは納得して頷いて言った。

「そうだな、ユウ様は精霊王の愛し子様だものな。望めば直ぐに、そばにいるちいさな隣人たちが教えてくれる」


そう、団長さんは会話こそ出来ないものの、私の周りでは珍しく、そのちいさな隣人が見える人なのだ。

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