第31話
翌日、ベイルさんが言った通りに淡いブルーのドレスが届いた。
そのドレスは、ふんわりと裾の広がるもので、胸元から足先かけて色が濃くなっていくグラデーションが綺麗なドレスだった。
試着すれば、サイズもピッタリでとっても綺麗なラインのドレスに鏡で見てすっかり気に入ってしまった。
「むむ、悔しいけどベイルおじ様、とってもユウ姉様のことを分かってるドレスを送ってきたわね」
私の試着が済んだ頃に来たジェシカちゃんは、私のドレス姿を見てそう言った。
「サイズは、多分聞いたんだろうけれど、この色やデザイン、素材感まで私の好みに合うドレスが届くとは思わなくって、びっくりしたよ」
私も笑って言うと、ジェシカちゃんはあぁ、ってちょっと頭を抱えてその後に聞いてきた。
「ユウ姉様は、ベイルおじ様のこと、好きなのね?」
その問いかけに、私はビックリしてちょっと固まって返事が遅れた。
「え? 好きって、そりゃあ、人としては尊敬出来るし、好きだけど?」
つい、考えたくないからか、私の返答はすっとぼけた方向になったが、そんな私にため息を一つ零したジェシカちゃんが、子どもらしからぬ、大人な表情で聞いてきた。
「ユウ姉様、私が聞いた意味は人としてはもちろんだけれど、恋をする相手や、結婚する相手として好きか聞いたのよ?」
ちょっと呆れた表情は、とても六歳児じゃないです……。
「だって、この婚約は私の立場的なものへの配慮で仮初だし、ベイルさんから見れば、私なんて、お子様みたいなものだし……」
ここに来て、感じてしまった劣等感。
ここの同年代の子達は、皆、背も高く体つきもグラマーで、とても大人っぽい。
私みたいな、凹凸に乏しく、幼い顔立ちの子はあまり居ないのだ。
だからこそ、実年齢より二歳サバ読んでも違和感もないのだけれど……。
そんな綺麗な子達に日々囲まれているし、ベイルさんは綺麗な事務官のお姉さんや、女官さん達の沢山いる王宮が勤務地だ。
私みたいな子では相手にされないだろうことは、想像に固くない。
だって、彼は普段こそ冷静で冷たい知的な美形だけれど、思いやりのある優しい人物だ。
そして、地位もある。
そんな人がモテないわけがないのだから、お子様な私は、そもそも相手になんてされないのだ。
事情があって、立場的に断れない案件だったから、仮の婚約者になってくれているだけだ。
考えていくうちに、キュッと胸が苦しくなる。
私が、もっと大人だったら?
見た目にも自信が持てるほどの容姿だったら?
それでもきっと、私の立場で相手から純粋な好意を受けることは、難しいだろうと思う。
この容姿だから、黒髪と黒目で魔法と治癒が得意な異世界人。
この国の救世主。
私を囲うためなら、きっといくらでも気持ちは偽られることだろう。
だから、この婚約も国が安定したら私から解消するつもりだ。
今もその考えは変えるつもりはない。
だから、早めにこの国の情勢を安定させて、ベイルさんにはきちんと彼と似合いの相手と添い遂げられるようにしなければと思う。
どんなに、私の胸が痛んでも、そこは見ないふりでやり過ごすのだ。
「ユウ姉様、そんな顔をしないで! 姉様はずっとミレイド家にいれば良いんだわ! ここが姉様の家よ!」
私の表情が悪かったのか、ジェシカちゃんがギュッと私を抱きしめて叫んだ。
ハッとして、私は抱きついてきたジェシカちゃんに腕を回して抱きしめ返すと、言った。
「ありがとう、ジェシカちゃん。私が、この世界に来れて良かったことは、ここで新しい家族が出来たことかもしれないわ」
私の言葉に、ジェシカちゃんが顔を上げて私の顔見るので、ちょっと困り顔をしつつも私は話すことにした。
私がどうして、看護師になろうとしていたか。
私の世界での、私の暮らしを……。
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