第30話


ベイルさんのお家の馬車で、シャロンさんと共に送られて帰ると、玄関アーチにはマリアさんが立っていて、その側にはジェシカちゃんとアラル君もいる。


「ただいま戻りました」

ベイルさんにエスコートされて馬車を降りると、ジェシカちゃんとアラル君が両方からガシッとくっついてきた。

「ユウ姉様、お帰りなさいませ!」

「ゆーちゃ! おかーり!」

もう、なんて可愛い二人なんだろう。

私はギュッと二人を抱きしめて、挨拶を交わす。

「ただいま、ジェシカちゃん、アラル君。今日はお出迎えに来てくれたのね?」

そう言うと、二人はニコッと笑って言った。

「うん、母様がユウ姉様を簡単に渡す訳にはいかないわ! って奮起してたから、お出迎えに一緒に来たの!」

えーっと、それはどういうことかな? と思っていると、二人と戯れてるうちに私の横ではベイルさんとマリアさんが静かに対峙していた。

「今日は、ユウのためにどうもありがとう。問題は解決したのでしょう? 鬼の副団長ですものね? さぁ、解決したなら、おかえりあそばせ?」


ま、マリアさん? すっごくいい笑顔で、お世話になったベイルさんを思いっきり、即返す気満々です。

しかも、その背後でフェミリアさんも、シャロンさんも母娘で並んで頷いてる?!


「マリアさん、さすがに今日はベイルさんにかなりお世話になったんです。お茶を飲みつつ、来週の婚約発表についてもお話したいのですが……」


私が言うと、マリアさん、フェミリアさん、シャロンさんは軒並み苦い顔をした後、致し方ないと頷きあって、ベイルさんに言った。

「ユウが話があると言うから、ほんの少しですからね! ユウは、簡単に、嫁には、やりませんからね!」

マリアさんの区切るような力強い言葉に、頷く我が家のメイドさんたち。

あれ、皆さん結構私のこと受け入れてくれてるんだなと、ちょっとホッコリしてしまう。

そんな中でも、ジェシカちゃんやアラル君は私から離れない。

「これは、なかなか大変そうですねぇ。でも、それくらいの方が、私はやりがいがありますよ」

ニッコリ微笑んだベイルさんは、そう言った後に私に向かって言った。

「ユウ様、お話がおありなんですよね? ぜひ、伺わせてください。今日はもう仕事は終わってますので」

微笑まれて、手を取られ、私は玄関をくぐり、お客様を通すサロンにベイルさんと共に向かうことになった。

そんな背後では、メイドさんたちと、マリアさん、ジェシカちゃん、アラン君で話し合いがなされていた。

如何に私とベイルさんを二人っきりにさせないかを、話し合っているとは思いもよらなかったが、その後ジェシカちゃんとアラル君を交えてお茶をしつつ、婚約発表の時の段取りや衣装についてを話し合ったのだった。

衣装はベイルさんが既に発注済で、明日には私の衣装がミレイド家へ届くとのこと。

「衣装は、淡いブルーで揃えました。婚約発表で、着て並ぶのが楽しみですよ」

揃いの衣装は、婚約発表だからだよね。

仮とはいえ、国王陛下にも認められているし、さっきの学園でも、侯爵家の次男坊以下四人もあっさりと引いて行ったし。

「しかし、ユウ様は実に愛らしく、甘え上手でしたね。あんな瞳で甘えられたら、男は皆、期待してしまいますよ? 私の前でだけにしてくださいね」

とってもいい笑顔で言われて、何故かちょっと背筋がゾクッとしたので、私はブンブンと首を縦に振って頷いて返事をした。

「あんなことは、する相手もいませんし、そうそう、そんな場面にはなりませんから!」

私の返事に満足そうにした後は雰囲気が柔らかくなったので、ホッとしたものの、ベイルさんはやっぱり切れ者なので、逆らうまいと思ったのだった。


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