第26話

「え、どうやってるんだ?! しかも、無詠唱だなんて!」

虹を見て立ち上がって叫んだのは線の細くて、神経質そうな銀髪碧眼の見た目派手男子。


「そのものが起きる条件さえ知っていて、それを見た事のあるように見せるだけよ? 何も驚くことじゃないわ」

私の一言に、クラス中からそんな! とか、これが黒の乙女の力か! とかいう言葉が聞こえてくる。

「ユウ様、ちょっと初めから飛ばしましたね?」

シャロンさんがジーッとした視線で、問うてきたので、私はシレッと返した。


「まぁ、何事も初めが肝心でしょう?」

「ごもっともですが、吉と出るか凶と出るか分かりませんよ……」

ため息をつかれてしまったが、致し方なし。

しかし、無詠唱だとか驚かれたけれど皆は呪文とか何か言葉を言うってこと?

もしや、厨二病的な魔法の呪文があるのかな?

ちょっと人様の魔法が見たくなってきたと、表情が緩んだところでついこの間聞いた笑い声が聞こえてきた。


「フォッフォッフォ。ユウ様、いきなり多重魔法とは流石ですなぁ」


顎から長く伸びる髭を撫でつつ、編入試験で会った元魔術団の団長だったおじいちゃまが現れた。

「先日は試験をしていただきありがとうございました。本日はどうなさったんですか?」

私の問いに、にっこり微笑んでおじいちゃまは言った。

「ユウ様の編入が今日からと、聞いておりましたからのう。様子を見に来たら、さっそく皆にいいものを見せてくださいましたのう」

おじいちゃまは実に愉快そうに微笑んで、教室の驚く面々を見つめていた。


「ユウ様は、こういった魔法をサラッとお使いになるが、皆が簡単に出来ることではない。ユウ様は、物の原理をよく知っておる。故に多重魔法でこういったことが出来るのじゃ」

そう言ったあとに、珍しく眼光鋭く言った。

「じゃが、ユウ様が一番本領を発揮なさるのは治癒術じゃ。それをまずは拝見させていただこうか」

こうして、編入初日からいきなり実地で魔法を使うことになる。

おじいちゃま、結構なスパルタだね。

魔法科の教室から、移動して外にある騎士科の鍛錬場に足を運ぶと、そこでは模造刀での実戦形式で試合中だった。

「ユウ様。ここでは大小さまざまなケガ人がわんさか出ます。治癒術かけて見せてくれんかのう」

いきなり治癒術を使えっていうのは、また無茶なことを。

形態としては、魔法と言って差し支えないけれど、治癒術は医療知識のあるなしが成功にかなりの影響を与えると、私は認識している。

事実、魔法が使えるものは治癒術で簡単な打撲やかすり傷なら治してしまう。

しかし、それが大きなケガだったりすると途端に治癒の効きが悪くなるのは、ひとえにその症状がどうしたら治るのかを知らないからだ。

風邪だって、ウイルスが原因だと知っていれば、それがいなくなるようにと力を使えば体調は回復する。

でも、完治というよりは応急手当。改善されても、残りの部分は本人の本来持つ治癒能力に頼っていて、それを強めに促しているに過ぎないのだ。

だから、過剰に期待されても困るし、死者は生き返らないのだ。

そこをどう捉えてくれるか、それは間違えのないようにしっかり説明しなくてはいけない。

そこに、激しい打ち合いと、魔法を混ぜた剣戟で片方が壁まで弾き飛ばされて動けなくなった。

「大丈夫ですか!」

見ていた私は駆け寄った。

頭から血が滲み始めている。息も苦しそうなので、肋骨のあたりも怪しい。

「ヒール」

呟くと、キラキラと光の粒が倒れた相手に掛かると、みるみるうちに息遣いが落ち着いて、目が開いた。

「あれ?さっきまでの痛みは?」

ケガをした本人が、いきなり痛みが無くなって驚いている。

「どうですか?大丈夫そうですか?」

私が聞くと、視線が合ってびっくりしている。

「黒の乙女様!?」

「はい、ちょっと訳がありまして。ケガが酷い状態だったので治癒させてもらいました。違和感等ありませんか?」

「大丈夫です!ありがとうございます!」

なんだか過剰なくらい、感謝されている気がするが、治ったようでなによりだ。



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