第23話


そんなちょっと険悪な空気が漂い始めた時、マリアさんが声を上げた。

「クリス、落ち着きなさいな」

そう、クリストフさんに声をかけた後で、ベイルさんに顔を向けると、マリアさんがフフっと笑って言った。

「この世界と国の生活に慣れさせるための王立学園編入でしょう? しかし、あの学園はある意味結婚前の貴族達のお相手探しの面もあるから、ユウに変な虫がつかないようにベイルを立てたってことよね?」


それに、ニコッと笑ってベイルさんが答えた。

「えぇ、変な家の息子にユウ様が狙われても困りますからね。私は公爵家の次男で騎士団副団長ですから、よその貴族が対抗出来ないコマとしては最強だったのですよ」


そういうことか。

ベイルさんは私のこともある程度知ってるし、腕っ節も良い。

家格も国内貴族では王族に次ぐ家系の次男、そんな人が婚約者なら周りは手が出せないという事だ。

でも、みんなちょっと忘れてることがあると思うんだよね……。

「ほんと、人間って視野が狭いわよね?」

「そうねぇ。この世界で最強の魔術師で治癒術師のユウに勝てる人間なんて、いないって言うのに」


アリーンとサリーンが言うように、私は魔法が使えるし、それも想像がハッキリ出来るからか、結構色々できる。

なので、そうそう自身の身が危なくなることは無い。

実は、護衛がなくっても大丈夫だと思える程なのだ。

ベイルさんとクリストフさんは見ているから分かっているはずなんだけど、忘れちゃたかな?


「ねぇ、ベイルさん。クリストフさんも、私が魔法使えるの忘れてない?」

思わず、口を出すと二人はキョトンとしたあとで思いっきり表情に出した。

あ、そうだった!みたいな顔を見て私は笑って言った。

「本来は多分護衛なしでもやってけるとは思うんだ。でも、護衛が付いてるって見せるのも、ある意味防衛になるから言わなかったんだけどね」

私が笑って言うと、二人はちょっと気まずそうにしつつも言った。

「それでも、貴族というものは面倒でして。権力を傘に着るものもいるのです。そういう輩には、さらに上の権力しか黙らせる術がないんですよ」

ベイルさんは実に情けなさそうに言うと、クリストフさんが言った。

「俺の名もそこそこだが、ベイルほどじゃない。だから、ベイルとのことは安心で安全な学園生活のためと思ってくれ」

クリストフさんは現状を、不承不承受け入れることにしたようだ。

そこにあっけらかんとしたジェシカちゃんの声がした。

「ほんと、大人って面倒ね。まぁ、頑張るといいわ。ユウ姉様は当分渡さないから」

「そうね、存分に頑張るがいいわ。そうそう、嫁には出さないけどね」

そんな母娘会話を繰り広げている二人の横で、アラル君は黙々とご飯を食べていたのだった。

このうちで優秀なのは、臨機応変な対応ができる、そんな人だ。

アラル君はこんな会話の中でもマイペース。

将来、大物になりそうな気がするわ。

私は、そうして王立学園に編入が決まったという知らせを受け入れたのだった。


「そんなわけで、私からの贈り物は王立学園の制服です。ユウ様が有意義に過ごせることを願っています」


そう言い残して、晩餐が終わるとベイルさんは颯爽と帰って行った。

「とりあえず、勝手に編入が決まって偽装の婚約者まで立てることになったって、ほんと漫画かよって感じだよ」

そんな私のつぶやきに、マリアさんが言った。

「本当にいつも大変なのは私たち女ばっかりよね。男達も体験して、改善してほしいものだわ」

「そうですね。本当に二人ともあっさり忘れてて驚きましたが、話を聞けば納得なので仕方ないですよね」


こうして、私はなんとか理解をして、来週から学校に行くことをアリーンとサリーンにも納得するまで話してお風呂に入り、着替えを済ませて寝たのだった。

猫のメルバはどうしてたって? 片時も離れずに一緒です。

この子はすっかり懐いているので、いつでもどこでも一緒にいます。

お行儀がいいので、ミレイド家でもすっかりメイドさん達にも可愛がってもらっています。

猫の可愛さは神クラスだよね!

今日も一緒におやすみなさい。

この子の正体を知るのも、あと少し。





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