第22話


そんな感じで、私の衣装部屋は現在三人のメイドさんが箱から丁寧に取り出しては、きちんと区画分けされているらしく、綺麗に靴、帽子、宝飾品、下着、ドレスに普段着のデイドレスと分けられていく。

実にテキパキと手際良く作業をしてく、ちょっと思わず惚けて眺めてしまったら、足元にちょこんとした感触がして、下を向くとニコッと天使の笑顔のアラル君がいるし、その後ろにはジェシカちゃんが居た。


「ゆーちゃ、チーチがご飯よって!」


チーチとはクリストフさんのことだ。

「クリストフさんがご飯だって呼んでるのね? じゃあ連れてってくれる?」

しゃがんで目線を合わせると、アラル君は嬉しそうに腕を広げてきたので抱っこする。

「まぁ、アラルはすっかりユウに懐いてるわね」

一緒に少し作業を見ていたマリアさんは、私と抱っこされたアラル君を見て楽しそうに笑った。

「ユウ姉様、こっちだよ!」

ジェシカちゃんに手を引かれてやってきたのは、漫画とかアニメで見たようなお金持ちのお家のザ・食堂って感じの長いテーブルの置かれた部屋。

「このテーブル、こんな大きさ必要?!」

実際に目にすると、大きくてこんなに使うのかって思うんだけど、そんな私の言葉に背後から返事があった。

「ここはご家族用ではなく、来賓もお招きする時用のダイニングですので広うございます」

振り返ると、これまた執事さんで間違いないですねって感じの初老の男性が立っていた。


「初めまして、ユウお嬢様。私、ミレイド家の家令のレイモンドでございます。当家で何かございましたら、当主の旦那様や奥様がご不在の折には、私にお話ください」


キリッとした感じは、とっても仕事の出来そうな老紳士。

きっと団長職で不在がちなミレイド家を支えているのは、このレイモンドさんとフェミリアさんなんだろう。

「はい。分からないことなどあった時はレイモンドさんやフェミリアさんに聞きますね!」

私の返事に、やっと初めて柔らかく微笑んでくれたレイモンドさん。

いい人そうでホッとした。

食堂に、食事が運ばれてくる頃クリストフさんとベイルさんがやってきた。

どうやら、お客様としてベイルさんが来るから今日はこの広い食堂らしい。

ファミリー用はもう少しこぢんまりとしたダイニングになっていたので、ちょっとホッとした。基本、一般人なので庶民感覚はなかなか抜けそうにないなと思っている。

「こんばんわ。ユウ様、ミレイド家はいかがですか? 落ち着きそうですか?」

冷静な表情での問いかけは相変わらずだ。

「えぇ、ちょっと広さや豪華さにはまだ不慣れですが。レイモンドさんも、フェミリアさんもとっても親切でやっていけそうです。ジェシカちゃんもアラル君も可愛いですしね」

ニコッと返すと、やっと少し表情が緩んだベイルさんが、ゆっくりと楽しく和やかに進んでいた晩餐に一球投げ込んだ。


「ところで、ユウ様は王立学園の最終学年に編入する事に陛下がお決めになりましたが、それに伴って変な虫が寄らぬようにと、偽装婚約者が私に決まりました」

まるで、明日の天気は曇りだそうですよくらいの感覚で、なんか凄いことを言った気がするのだけれど……。

これにいち早く反応したのは、クリストフさんだった。

「俺は聞いてないぞ! まして、なんで相手がベイルなんだ!」

噛み付くようなクリストフさんの言葉に、ベイルさんが静かに言葉を返す。

「私が先王陛下の弟を父に持ちつつも、王位継承権は放棄しているし、家格的な都合でしょう」

ベイルさん、お父さんが先王陛下の弟で、つまり国王陛下とは従兄弟?

めちゃくちゃ、王族?

「父は母と結婚したくって、継承権放棄して新たに公爵の爵位を頂いて臣籍降下したのですよ。兄は一応王位継承権を維持していますが、私は放棄しました」

実にサラッとした説明だけど、実は偉い人だったんだね、ベイルさん!

でも、だからって偽装婚約ってなんで?!


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