第20話
そんな、まだ自覚もここへの愛着も薄い感じの私だけど、この数日だけで西の砦の街の人々や騎士さん、移動中の王国騎士団の騎士たち、妖精のサリーンとアリーン。それに白猫のメルバ。
マリアさんにジェシカちゃん。
少ないながらも、たくさんの人々と接してきた。
そして、どんな人からも見た目のおかげもあるのだろうけれど、親切にしてくれた。
優しく、温かな人々だった。
そんな人たちの、穏やかな生活が脅かされている。
そして、私には癒しの術と魔法の力がある。
だから、私はきっと選ぶんだろう、自分の穏やかに過ごせる日々も願って。
「国王陛下。お気遣いありがとうございます。この少ない数日でも、私はこの国の人々に優しくして頂きました」
ニコッと笑うと、私は続けた。
「きっと私が黒い髪と瞳でなくっても、この国で出会った人々は、困った人に手を差し伸べる人々だと感じています。だから、私自身がこの国で、穏やかに暮らせるように尽力します」
私を見つめた国王陛下は、キュッと唇を引き結んだ後で一つ息を吐くと表情を和ませて言った。
「我々、国を統べるものには歴代の黒の乙女に関する記録がある。全ての者が、協力的であったわけでも、前向きであったわけでもない。それでも、圧倒的な力を欲する時に現れる強き者に縋りたくなってしまうのだ」
「黒の乙女。ユウ様。我々は、あなたに何を差し上げられるでしょう」
それの答えは、私はもう持っている。
「この国が落ち着いた暁には、私には穏やかな生活ができる環境を用意してくだされば十分です。下手に貴族や王子の妃にとは、望まないでください」
きっと私の魔力は、この国随一だろう。
稀代の魔術師にして癒し手として、きっと国外にも名が知れ渡る。
そういった時の重要人物の囲い込みは、相手が女性なら国の重要人物と結婚させてしまうこと。
それで力の国外流出を防ぐのだろう。
いくら、異世界でも私は自分の好きになった人と結婚したいし、その道は勝手に決められたくはない。
なので、ここでその意思はハッキリさせておくことにしたのだ。
「ユウ様は、とても聡い方ですね。分かりました。どのような意見が出ようとも、ユウ様の意思が全てですので、貴族や重臣は私が必ず抑えると約束します」
どうやら、私の意思と意図はしっかり国王陛下に伝わったようだ。
しっかり、頷いてくれたので私も一つ安心したのだった。
「あと、私は十七歳です。ここに来るまでにお話して団長さんに私の後見人になってもらうことにしました」
私の言葉に、陛下はちょっと驚いた顔をした。
「私が後見でも良いんだが?」
国王陛下の後見って王族に近い扱いになるよね? それは無茶ってもんです。
こんな広くて、迷子になりそうなところには住めません。
思わず、ちょっと嫌だっていうのが顔に出てたと思う。 そんな時、隣から声がした。
「恐れながら、陛下。この王宮では逆にユウ様にも負担が大きいでしょう。ミレイド家であれば守りも安心ですし、おまかせ下さいませ」
そう、マリアさんが言って頭を下げてくれた。
マリアさんは、間違いなく私の保護者である。
親と言うよりは、姉のようだけれど。
それでも私にとって今日会ったばかりなのに、とっても頼れると信頼できてしまった。
言葉じゃなくって感覚だから、説明し難いけれど……。
この人は大丈夫と思えるのだ。
「副団長か、団長かを選んでくれと言われて、私自身が選びました。私は団長と、マリアさんの家族と過ごしたいと思ったんです」
私の言葉に、陛下は頷いて答えた。
「ユウ様がお選びになられたのであれば、クリストフとマリアに任せましょう」
「ありがとうございます」
こうして、私の謁見は無事に終えることが出来た。
ただ、私もちょっと考えが足りなかった。
王宮はだだっ広いし人も多いから落ち着かないと思ってたけど、騎士団長で貴族のお家であるミレイド家も、豪邸って言うか軽くお城か! って広さであるという考えには至らなかったことに。
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