第19話


謁見のために移動を始めて、改めて見るとこの王宮……。

すっごく広いよね?

まぁ、一国の王様が住んで、更には国会議事堂とか、議員宿舎とか、警察とか食堂とかもろもろがここ一ヶ所に集中していると思えば、広くて当たり前なんだけれど。


「一人で来たら、絶対迷子になる自信があるよ……」

どこまでも続くかのような回廊を歩き続けている時に、思わず呟けばクリストフさんがサラッと言った。

「今後、ユウが一人で出歩くことはまず無いから大丈夫だろう」

どういうことでしょう? 思わずハテナ顔で首を傾げていると、マリアさんが言った。

「ユウはこの国で、今の現状国王陛下と同レベルの重要人物なのよ。だから、今後は護衛が付くから一人にはならないわね」


なんということでしょう。

異世界で救世主なんて言われて、どうなるんだろうとは思っていたけれど、まさかの国のトップレベルの重要人物扱いだなんて……。

ますます、遠のくわ。

私の希望の平凡ライフ……。

ひっそりこっそり地味に平和に過ごすのが、希望なのだけれど。

どんどんそことは遠いところに、移ろっていて、なかなか大変そうでしかない……。

後見人の団長一家は貴族だけれど、私は普通の一般人で育ったから、不安しかないわ。

頑張るしかないんだけどね、帰れないんだし……。

そんなこんなで、荘厳という言葉が相応しい感じの王宮内を移動して、天井までの大きな扉の前にたどり着いた。

どうやら謁見の間らしい。

こんな重そうな扉、開くの大変だろうなと思っていれば、扉の前に待機していた騎士さんが、すんなりと開けてくれた。

あまりにもすんなりだから、もしかして軽いの? と思ったけれど。

閉まる時の音を聞いたら、重そうだったので見た目通り、きっと重い扉だろう。

ここの騎士さんたち、パワー自慢が多いのかもしれない……。 団長が、このムキムキだしね。


開かれた謁見の間。

入ってすぐの真正面には、階段があり、その上に玉座に座った国王様とその隣にお后様が居た。

その両脇には、王子様と思われる青年と、王女であろう、可憐な美少女が居た。

王様と王子は柔和な顔をしているが、視線は鋭い。

一国を治めるものの強さがちらっと見えた気がした。

宰相さんに案内されて、階の手前にクリストフさんとマリアさんに挟まれて、立ち止まり、急ごしらえで教えられた淑女の礼をとった。

これ、結構大変。

ふんわりドレスならごまかしが効くだろうけれど、このドレスでは失敗が出来ない。

しかし、私はこの世界に来たばかりの異世界人。

多少の失敗には目をつぶってくれるとありがたいな。


「面を上げよ」

落ち着いたテノールの声に、私は顔を上げた。

うん、声は顔を裏切らない。

ここはどうしてこんなに美人さんや美形さんが多いのかな? 私の東洋系の顔立ちが浮きまくるわ。

なんて、内心の嘆きは顔に出さにように気をつけつつ、向こうからの声掛けを待つことにする。


「御足労頂き、誠に感謝する。此度、急にこの国に現れたことは、乙女にとって本意ではないであろう。だが、我が国はあなたの力を頼らざるおえないのが現状だ」

しっかり話してくれる国王陛下と私の視線が合うと、表情に憂いをのせて言った。

「現状我が国は、四方の国から狙われている。このままでは、戦争になるのも時間の問題。そんな折、黒の乙女が現れたのは、我らには僥倖なのだ」

言葉の割に、表情は明るくはならない。

私は、しっかりと聞くという意思を込めて、国王陛下を見つめた。

「だが、我々が助かってもこの国、世界に有無を言わせず来てしまった乙女に、我々は酷な願いを押し付けていると思うのだ」


そうか、この国の王様はちゃんと人を思いやれる、素晴らしい人物らしい。

急に来て、分からないままに救世主と言われ、黒の乙女と呼ばれるようになってしまった。

私からすれば、まったく知らない世界と国で、たまたま日本人で、黒髪で黒い瞳だったからそう呼ばれてしまった。

そんな感じなのだ。

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