第15話

朝も軽く食べると、今日も初めは団長さんと相乗りして森の中を進む。

ちらほらと、妖精さんの気配は感じるものの、姿は見えない。

「気配はするのに、姿が見えないって気になるなぁ」

ついつい呟くと、クリストフさんが私に聞いてきた。

「何が気になるんだ?」

「妖精さんの気配はするんだけど、ちっとも姿が見えないから」

私の言葉に、一つ頷くとクリストフさんは言った。

「妖精ってのはシャイなんだとよ。よっぽどじゃない限り見られない。そもそも、妖精の姿が見える人間も珍しいんだぞ?」


なんですと? 私には見える上に、二人もくっついてきてますけど?

驚いてちょっと顔が固まってると、横を一緒に走っていたベイルさんが聞いてきた。

「ここは妖精の森とも呼ばれているところですが、そもそも気配が分かるのも凄いことなんですよ?」

いや、だって初めから妖精がついてきてる私は、見えるのも会話出来るのも普通のことみたいにしてた。

でも、それって傍から見たら……。


「私、もしかして、たまに何もないとこに話しかける、怪しい人になってたって事?」

思い至って、聞いてみるとベイルさんは首を横に振って答えてくれた。

「黒の乙女は別名、精霊王の愛し子ですから。妖精が見えてコミュニケーションが取れるのは、それこそ証みたいなものなので」


なるほどね……。

だから、誰も空中に話しかけるような状態にしか見えなくってもツッコミは入らなくって、私は周りは見えてないってことに気づかなかったわけね……。


「黒の乙女って結構有名なの? そういったことが、国民に伝わるくらいに」


だって、知らなかったら不審な怪しい人にしかならないのに、誰も聞いてこないってことは、黒の乙女についてはある程度国民みんな知ってるってことになるかと思うからだ。


「黒の乙女はこの国イベルダに存続の危機があると現れると言われている存在で、絵物語にもなっているので、幼い子でも知っていますよ」

そういう存在なんだね、黒の乙女……。

乙女って柄でもないんだけどなぁ。

私、王都に行って大丈夫なんだろうか。絵物語になるって、相当美化されてる存在だよね?! 不安しかない……。

ついつい頭を抱えていると、クリストフさんがカッカと笑って言った。

「おう、そんな心配するな。あとな、ユウの年齢ちょっと変えておこうな?」


ん? 年齢を変えておくってどういうこと?

「成人してると、ちょっと厄介なことがあっても助けてやれない。未成年ってことにして、俺かベイルのを後見人にすれば大抵の厄介事はどうにかしてやれる。どうだ?」


確かに、まだこの世界のことも、イベルダのことも分からないことだらけ。

この世界の常識やら教養やら、生きていくのに必要なことを覚えるまでは、誰かの庇護下にいる方が安全で、安心だろうと思う。


「じゃあ、私は十七歳ってことにしますかね?」

説明を受けて、私が答えればクリストフさんもベイルさんも頷いてくれた。

そんな打ち合わせもしつつ、お昼休憩休憩を挟み、森を抜けて、今日は小さな街で夜を明かすことになった。

ここに来る頃までには、だいぶ道が広く、馬車などが行き来するような感じだった。

実際にいくつか荷馬車とすれ違った。

とりあえず、やっと落ち着ける所に着いてその日はまたぐっすりと眠ってしまったのだた。


翌朝、準備して再び馬の上。

しかも、ここに来て初めてベイルさんと一緒。

「ユウ様、どうぞ」

手を差し出されて、引っ張りあげられる。

クリストフさんと違って、細身なのに力があった。

そして、意外と筋肉質。前に座って胸もとに寄っかかってもビクともしない。

ベイルさんは着痩せするだけで、しっかり筋肉ついてた、細マッチョさんだった!


そんな、初相乗りにちょっとドギマギしつつも街道はしっかり整備されていてこの先は王都まで石畳なのだという。

今までとは全然違う乗り心地を楽しみ、どんどん増えていく建物や人を眺めているうちに、お昼前。

とうとう、王都の城壁の門へとたどり着いたのだった。


「さすが、一国の中央都市。一番建物も人も多いね」

そう話しつつ、私たち王国騎士団は検問所は待たずに通れたので一同このまま、王宮の騎士団詰所に向かうそうです。

騎士団の詰所。騎士だらけ。

筋肉美見放題かな? あ、顔が緩まないように気をつけなくっちゃ。

こうして、私は無事王宮近くの騎士団詰所に着いたのだった。


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