第11話


「ユウ。俺達は周囲に魔力があることを知っていても、それを利用するって発想は無かった。これはかなり、魔法の発展に繋がるぞ」


いうなり、わしゃわしゃと髪を撫でられて、力の加減から少々よろける。

髪もちょっと乱れたので、気にせず手ぐしで整えたら、ちょっと団長が手伝ってくれた。

その手は大きくってゴツゴツしてるのに、髪を直す時は繊細な動きをしたのが、ちょっと意外だった。


「すまんすまん、ユウはちっこいから気をつけないとな!」

ははは!と実に豪快に笑い飛ばす団長さんに、副団長さんはジロっと睨んで言う。

「団長は大雑把すぎます! ユウ様は救世主たる黒の乙女ですよ! もっと丁重に!」


うん、なんか二人の日常が見えてきた気がするよ。

この二人、いつもこんな言い合いしてそうだもんね。

周りの騎士さん達も気にしてないし、多分そうだろうと思う。

「ちょっと強かったけど、私は団長さんみたいに接してくれると嬉しいかな。畏まられても、こっちも困るし」

そんな私の言葉に、団長さんはニカッと笑ってヒョイっと私を抱えあげて言った。

うん、抱えられるような年齢ではない気がするんだけど……。 この片腕抱っこは完全に子ども扱いだね?

「そういや、ユウはいくつなんだ?」

「私? 十九歳だけど。ここだともう、成人してたりする?」


ここは異世界。自分の世界とは成人基準が違う恐れがあるので、聞いてみた。

こんな子ども抱っこ状況でする話かな? 団長は天然さんってことにしとこうかな……。

ちょっと遠い目をしていると、団長さんはしっかり教えてくれた。


「イベルダでは十八が成人だな。ユウも立派に成人だ! でも、見かけはまだまだ子どもにしか見えんな!」


うん、私は百五十三センチと小柄だし、子どもに間違われるのは、自分の世界でもしょっちゅうだった。

なので、そう言われてもあまり気にしない。 だが、抱っこは恥ずかしいので、ご勘弁願いたいな……。


「さすがに、この歳で抱っこは無いでしょ?

下ろしてください!」


私の言葉に頷いて、団長さんは下ろしてくれた。

「ま、こんな感じのユウだからな。なんかあったら抱えて逃げてやるから、なんも心配するな」


団長さんには、何となく分かっていたのかな。

私が、この戦場にわりと動揺していたこと。

ここで私がなにかしても大丈夫なのかと、心配だったこと。

組織的なもののトップに立つ人物なのだ。

どれだけ、豪快であっても人を見る目はあるのだろう。

私は、ここの人達は信頼出来る、そう思えた。

そこで、私はひとつ閃いたので聞いてみることにした。


「みなさん、ここでは雷って鳴ったり、落ちたりしますか?」

雷の単語にはて?となっている。

「雷って、イカヅチのことか?」

団長さんの言葉に頷く。


「それって、頻繁に起きますか? それとも珍しいですか?」

「珍しいし、晴れてるこの時期にはそうそうお目にかからん」


周りも、頷いている。

そこで私は、周りを見つつ言った。

「じゃあ、もし今雷が急に落ちたら、敵は脅威に感じますか?」


私の言葉が何を意味するかは分からないままに、この部屋で話を聞いたみんなは想像すると頷き、副団長さんが言った。


「もしも、そんなことが可能ならば……。敵はその事態に陥れば、恐れから前線を離れることでしょう」


クイっとモノクルを合わせて、副団長さんが言ってくれたので、私は、こう提案した。


「それじゃあ、いっちょ雷落として、お相手にはアビエダにお帰りいただきましょう!」


私の発言に、この部屋の騎士さん達は二度目のポカーン顔に陥ったのだった。


私、そんなに変なこと言ったかな?

お互いに傷つかず、穏便な撤退方法だと思うんだけどな。

私、またそんなにおかしいこと言ったかな? なかなか何が変なのか、この国の常識とか、考えが分からないから、いかんとも判断しづらい。

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