第9話

「団長。しっかりご挨拶なさってください。本来早く王都にお送りせねばならない黒の乙女に、こちらに来て頂いているのですから」


声の主は、団長みたいではないけれど、無駄のないスッキリした体をしており、細マッチョって感じで、キリッとした目の片方にはモノクルを付けていて、団長さんよりは理知的な雰囲気がある男性だった。


「すまん、すまん。黒の乙女、助けてくれてありがとうな。俺はイベルダ王国騎士団、団長のクリストフ・アルバ・ミレイドだ」

団長さんは、快活なイメージそのままに話してくれた。

「団長が失礼ですみません。私は王国騎士団、副団長のベイル・カール・ホグナーと申します」

もう一人の男性が副団長さんだったとは。

ここに騎士団のツートップが揃っていていいんだろうか?

国の守りは大丈夫なのだろうか?

ついつい、そんなことを心配してしまう。


「この団長が重症との早馬が来ましたからね。普段は、私は王都に詰めていますよ」


少し、表情を穏やかにしたベイルさんがそんなことを言う。

え?私声に出してないよね?


「黒の乙女は表情豊かですね?お顔を見れば何となくお考えが分かりますよ」


そんなに分かりやすいかな?と思いつつ、まぁ、この方は機微に聡いのだろうと思って納得する。


「ここは今国境で、一番攻め込まれており危機的状況だったので王都から、騎士団を派遣しており、総指揮がこの団長だったものですから……」


ため息混じりな副団長さんに、団長さんはちょっとバツが悪そうにしつつも言った。


「仕方ないだろう。うちのマナみたいな子が矢じりの先に居たんだ。助けないという選択肢は、俺の中には無かった」


そんな団長さんだから、結構慕われているんだろう。

部屋に居た他の騎士さん達は団長の言葉を聞いて嬉しそうだし、誇らしげだ。


「確かに、どの子も無事であって欲しいですよ。子は国の宝ですからね。ですが、その後の無茶はいけません。なんであなたが最前線に立ったのか。後ほどお説教です!」


モノクルをキラっとさせて副団長さんは、その後はキリキリと動いてお仕事をしていた。


「さて、ここに来てもらったのはお礼と、今後のことを兼ねて相談があるからだ」


ここに来て、話の本題が切り出されたことに気持ちをキュッと引き締めた。


「黒の乙女は、総じて強い魔力を持ち治癒術に優れている。それは伝承にも書かれている。そこにはさらに、追記があってな……」


さっきまでの明るさは引っ込んで、団長さんは真剣な表情をして言った。


「いつの時代に訪れても、黒の乙女は戦の中に訪れる。乙女は国を平和へと導くだろうと記されている」


まさか、癒すための治癒術以外でも私はここで、何かをするのだろうか。

魔法は色々使えると思う。想像が肝心の魔法だから。

私は結構本を読むのが好きだったし、ファンタジーも色々読んだ。

魔法も、いろんな生き物も、想像のものをいくつも読んでは小さな頃は思ったものだ。

魔法が使えたら……ってね。

そんな私が異世界で魔法が使えるようになっている今、使わないという選択肢は無い。

しかし、それは攻撃には使いたくないのが本音である。


「そうだ、今想像した通り。歴代の乙女達は前線に立って魔法を用いて戦い、癒していたらしい。しかし、俺は反対だ」


団長の言葉にハッとして、考えながらいつの間にか俯いていた顔を上げた。


「俺はな、こんな可愛いお嬢ちゃんを戦場には立たせたくねぇよ。そういや、名前はなんて言うんだい?」


私は、ここに来て問われて答えた。


「三島 優羽。妖精達はユウって呼んでるから、そう呼んでくれると嬉しい。私、魔法を攻撃には使いたくない。守り、癒すために使いたいと思う」


こうして、私は自分の意思を表明しつつもこの砦の現状をどうするかを、考え始めていた。



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