第8話
治癒魔法のあとは、怪我人に使った汚れた布の洗濯。
煮炊きの手伝いに、子ども達の相手をして過ごした。
あっという間に夜を迎え、各所にかがり火の焚かれた砦は夜とはいえある程度の明るさがある。
子ども達も夜は砦に入って、一ヶ所に集まって寝て過ごす。
子ども達の中でも年長な子達が小さな子達までまとめて面倒見ているようだ。
夜は近隣の村の男性と騎士で組んで、砦から周囲の見回りをするという。
ここに攻めてきているのは西の国で、国名はアビエダというらしい。
砂漠とオアシスのある国だとか、子ども達も人から聞いて知っただろう知識を、ごはん時に私に話してくれた。
ここ南の国イベルダは穏やかな気候と豊富な作物が育つ土地、宝飾品加工も随一の技術を持ち、騎士団も最強だという。
なにより魔法研究も盛んで、国内には結構な魔術師もいるらしい。
そんな発展している国にそれでも立ち向かうほど魅力なのは、土地なのだろうと思う。
砂漠では作物はなかなか育たない。
国土の三分の二が砂漠で残りがオアシスで、その周辺に国民は住んで街を作っているらしい。
そんな土地からしたら、イベルダは魅力的な気候と土地なんだろう。
「土地って言うのは、そこそこに特徴があるから仕方ない。ただ、それを他国侵略の理由にしていいものでもないよね……」
私はここに来たばかり。しかも自分の居た国では、過去にはしていたものの、現在は戦争はしていなかった。
「私は、ここで何が出来るんだろう……」
かがり火の灯りの中、静かに夜空を見あげれば、そこには日本じゃなかなかお目にかかれない満天の星空。
「こんなに環境が良いんだもの。美しく、近隣諸国とも平和に出来ればいいのにな」
平和ボケしてると言われようと、私は争うより、上手く手を取り合い平和に過ごせる方が望ましいと思う。
そこの考えだけは、曲げずに持っていたい。
この国と、隣の国との現状を見て傷を癒して、少ないもののここで過ごして感じた事は大事だと思う。
「ユウ。冷えてきたわ。砦の中に入りましょう?」
一緒についててくれた、サリーンとアリーンに促されて私は中に戻ると、ジェラルドさんに声をかけられた。
「黒の乙女!お探ししました。団長が目覚めまして、黒の乙女に目通り願いたいと申しております」
恭しく、頭を下げられて私は戸惑いながら答える。
「団長さん、目が覚めたんですね。ジェラルドさん、そんな畏まらないでください。私はジェラルドさんより年下だろうし、畏まられると、居心地が悪いです」
私の苦笑いを受けて、ジェラルドさんは少し戸惑いつつも、頷いて言った。
「分かりました。ですが、黒の乙女はイベルダに伝わる救世主なので、なかなか難しいですよ」
そうして、私は再び団長さんのお部屋にお邪魔することになった。
たどり着いた団長さんのお部屋では、騎士服に身を包んだ、元気なガチムキマッチョな男性が地図や書類を片手に、部下の騎士さんから報告を受けているようだった。
「失礼致します。クリストフ団長、黒の乙女をお連れしました」
部屋に入ったところで、そう声をかけると部屋に居た人々の声も動きも止まった。
「おう!ジェラルド、よく連れてきてくれたな!」
快活に話す大きなマッチョさんが、どうやら団長さんらしい。
治癒してる時から思ってたけど、この団長さんめちゃくちゃ大きくてムキムキだよね。
私の周りには、ここまで大きい人も、マッチョな人も居なかったので、ついついジーッと眺めてしまった。
そんな私の視線に気づいたのか、団長さんはニカッと笑うと、腰を屈めて視線を合わせてきた。
「黒髪、黒目。確かに伝承通りの容姿だな。
お嬢ちゃんが黒の乙女で間違いなさそうだな。お嬢ちゃんのおかげで、俺は命拾いしたしな!」
カッカと豪快に笑う、この人。ちょっと前までかなりの重症だったとは思えないよね。
治癒術ってこんなに効くものなのかと、よく分からぬまま納得していると、団長さんの背後から落ち着いた声がした。
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