第6話
作り終わった夕飯をケジャさんのお家で一緒に食べていると、急に外が騒がしくなってきた。
ニワトリ達の鳴き声に混じって、もう少し重い足音がしている。
「まさか、もうお迎えが来たのかね?」
外からの音に、ケジャさんが腰をあげると同じくしてドアをノックする音がした。
「すみません!西辺境騎士団の者です!」
その声にケジャさんがドアを開けた。
その先には、中世にあったような甲冑を着込んで、馬を引いた男の人が三人居た。
「夜分にすみません。この子で連絡をくれたのは、あなたですか?」
差し出された白い鳥を見て、騎士の問いにケジャさんは頷き、返事をする。
「あぁ、そうじゃよ。この子を迎えに来てくれたのかい?」
私はケジャさんの後ろから、ゆっくりドアに近づいた。
すると、騎士の中から精悍な感じでガタイの良いお兄さんが私の前にやってきた。
「本当に黒髪、黒目。黒の乙女だ……」
そんなに黒って珍しいんだろうか?
ケジャさんは白みがかった金髪だし、この目の前に来た騎士さんも銀髪だけど。
その後ろには、赤髪やら、マロン系の茶色やら居たが、確かに黒は居なかった。
「黒髪の乙女。お迎えに上がりました」
前に来た騎士は膝をつくと、私の手を取り甲に軽く口付けた。
漫画の出来事みたいな仕草に、一歩遅れて羞恥が襲ってきて、顔が熱くなる。
「やはり、強い魔力と癒しの力をお持ちだ」
騎士の呟きに、私は聞き返す。
「どういうことですか? 魔力は分かりますが、癒しの力ってなんですか?」
私に言葉に、ハッとした騎士は敬礼して答えてくれた。
「大変失礼しました。私は鑑定のスキル持ちで辺境騎士団第一部隊隊長のジェラルド・アランス・モルガンです。癒しの力とは治癒術の使い手のことです」
魔法は色々森で試してきたけど、治癒に関しては私も知らなかったよ!?
驚く私に、騎士の面々はいきなり頭を下げてこう切り出した。
「黒髪の乙女よ。本来なら王都にお送りせねばなりませんが、今西の砦は大変な事態になっております。お力をお貸しください」
揃って下がった頭に、私は分からないながらも答えた。
「私で役に立つのなら。一刻を争うのでしょう?」
私の言葉に、険しい顔で頷く面々に私はここからの早い出立を決めた。
そこに、ケジャさんが少し大きめの袋を持ってきて渡してくれる。
「ユウ。少しだがね、これを持ってお行き。着替えと、少しの食料と飲み物だよ」
差し出してくれるケジャさんは優しい顔のままだ。
「ユウにはこれから先に沢山のやることがあるからね。今日の駄賃分だよ。遠慮せず持ってお行き」
私は、この短時間で随分ケジャさんに懐いていた。
寂しいけど、行かなきゃいけないだろう。
そのために召喚されたのだから……。
「ケジャさん、ありがとう」
ぎゅっと抱きついてお礼を言って、私は騎士さん達に連れられて、私の始まりの小さな村を出ることになった。
「この村の全てに感謝を……」
祈るように呟いて、私はジェラルドさんの馬に相乗りしての移動になった。
初乗馬についての感想を言うならば、これしかない。
「こんなにお尻が痛むなんて……」
超速で掛けてく馬の上は、とてもではないが居心地は最悪である。
それでも、これくらいで済んだのはサリーンが風で補助してくれてたおかげだと知って、涙ながらにお礼を伝えたのだった。
「行きもだが、帰りも馬がこんなに早く走るとは……」
そんな騎士さんの呟きには、アリーンが私にぼそっと言った。
「私が馬の疲労や負担を減らしてたからね。そりゃ元気に走るわよ」
えっへんと胸を張って、どーだと言わんばかりのアリーンにはケジャさんの所で貰った小さな砂糖菓子を渡しておいた。
本来、一日駆けてたどり着く砦までを、妖精達の補助で、半日いう無茶な駆け方でたどり着いた。
そこは、私の想像を絶する光景が広がっていたのだった。
自分が如何に平和な世界で生きていたのかを、ここに来て痛感した。
ここには、争いあい傷つく人々の姿があったのだった……。
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