第5話


男の人は私を引きずってたどり着いた村の真ん中の家のドアを叩いて、大きな声で呼びかけている。


「お婆! お婆! 大変だ!!」


かなりの音量だったので、お家の中から直ぐにこちらに向かう足音がして、ドアは直ぐに開かれた。

ドアから出てきたのは、少し腰を曲げたおばあさん。


「まったく。朝から騒がしいよ、ボドム。何があったって言うんだい?」

「こ、この子! 精霊の森から来たって!!」


ボドムさんの言葉を聞いて、おばあさんは私を見ると驚いた顔をして、そして声を掛けてきた。


「おや、まぁ……。 言い伝えもバカに出来ないもんだねぇ。 お嬢ちゃん、妖精を連れてるね?」

おばあさんの言葉に私も驚きつつ、返事をする。

「はい。見えるんですか?」

「姿までは見えないよ。私にはただ、キラキラと光る粒子がチラホラ見えるだけさね」


なるほど、光が見えるからいると思うんだ。それだと、姿が見えるのはかなり珍しいってことかな。

ちょっと考えつつ、黙っているとおばあさんは私を見て言った。


「黒髪、黒目の乙女が森から現れし時。国に起こる困難は、乙女により解決されたし」


ん?おばあさんの言葉にコテっと首を傾げると、おばあさんは言った。


「この村に伝わる言い伝えだよ。不可侵の精霊の森から黒髪、黒目の乙女が現れたらその時の国に起きる困難はその人物によって解決される」

「そんな言い伝えがあるんですか?」

私が驚いて尋ねれば、頷きつつおばあさんが言った。


「そうさ。それだって、私の曽祖父から小さい頃に聞いた話だよ? 半信半疑だったさね。お嬢ちゃんが目の前に現れるまではね」


ため息混じりに呟きつつ、おばあさんはさらに言葉を重ねていく。


「この村は、いつか来る乙女を迎えるために出来た村だった。しかし、そう訪れない乙女を待てないと、いつしかこの辺境には婆と木こりのこのボトムくらいしか居らんのさ」


ここは国の中でもかなり外れで、この不可侵の森が国境なのだとか。

森はどこの国から見ても不可侵で、フューラのど真ん中に位置しているとか。

そして、ここは大陸南に位置するイベルダという国らしい。

ここから出て少し西に行くと西の国との国境があり、その砦には国の騎士達が詰めているらしい。


「とりあえず、乙女の出現は国一の魔術師達は把握していると思うが。見つけたら国に報告せねば。お嬢さん、名前はなんて言うんだい?」


その問いに、私は答えた。


「私の名前は三島優羽。妖精達はユウって呼んでるわ」


それに頷くと、おばあさんは言った。


「私はこの村の村長のケジャだよ。騎士のお迎えが来るまでは、不便だろうがここでお過ごし」


おばあさんは優しく微笑むと、そう言ってくれた。


「はい。お世話になります」


一つ頷くと、ケジャさんは手元に鳥を招いて手紙を括り付けるとその鳥を飛ばした。


「これは魔法の鳥さ。明日にはここにユウが現れたことが伝わり、二日位で迎えが来るだろう」


説明を受けて、私はこの村で数日過ごすために、ケジャさんに着いて回って働くことにした。


「そんな気を使わんでも、いいんだがねぇ」


畑についてきた私に、ケジャさんがちょっと呆れたように言うものの、それには首を横に振って答えた。


「数日とはいえお世話になるんだもの。私の世界の言葉に、働かざるもの食うべからずってあるしね!」


私の言葉を聞くと、ケジャさんは少し目を見開いた後に、カッカと笑って言った。


「確かに、そういう言葉はこのくににもあるのう。ユウはしっかり者のいい子じゃな」


そうして、私は畑仕事を手伝い、洗濯やらもお手伝いして、お料理をする頃には辺りは夕焼けに包まれた。


「ここは静かでのどかだね。なんか落ち着く」

「まぁ、この婆とボドムしかおらんからねぇ。静かだろうねぇ」


お豆のスープ、お豆を挽いて粉にしたものをお水で解いて薄焼きにした生地とそこにハムと卵とお野菜を包んだ料理で夕飯だ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る