第3話 初めての魔法はコップ一杯の水を出すこと
さて、サリーンとアリーンに促されて魔法を使うことになった。
このフューラでは誰にでも魔力があり、その大きさこそ差があれど、誰でも魔法が使える世界なのだそう。
魔力の大きさが寿命にも関わり、力が強いほど長寿になるし、老化もゆっくりになるとか色んなことがあるらしい。
そして、魔法の成功に重要なのが想像力。
自分が望むその現象をいかに詳細に思い描けるかによって成功や引き出される魔力の大きさに違いが出るのだとか。
うん、とってもファンタジーな感じが満載だなと思っていると、アリーンはサラっと言った。
「さ、まずはこのカップに丁度いいだけの水が入るのをイメージして入れてみて!」
なんて実践的でスパルタな感じの魔法訓練なのだろう。
ま、なるようになれの精神だよね。 ここまで来ると……。
手渡されたカップはなんの変哲もない、真っ白なカップだった。
手渡されたそれを眺めつつ、これに丁度いい量の水が入っているのを想像すると、カップの底からブワッと湧き出るように水が入った。
「で、出来た?」
こんなにあっさり出来るとは思わなくてつい疑問形の声で告げると、アリーンとサリーンはやや驚き顔でカップを覗き、入ってる水を見てさらに驚いていた。
「無詠唱でコレなの!?」
叫ぶアリーンに、サリーンも言葉を返す。
「これが愛し子の力なのかもしれないわねぇ……」
私にはさっぱりよく分からないが、二人に聞いてみる。
「これって成功でいい?イメージしただけで、出来たんだけど……」
「成功してるわ!ユウはかなりの魔力持ちだけど、コントロールもこれで抜群なのが分かったわ。しかも無詠唱。すごく魔法の才能があるわ!」
アリーンは嬉しそうに告げてくれて、私もホッとした。
この世界では、私は多分魔法絡みで来たのだろうし、それが使えなきゃ役立たずのままなのだから。
その後も薪に火をつけてみたり、水浴び後に濡れた服と髪を風で乾かしたりとしていると、辺りは日が傾き、すっかり夕方になっていた。
見知らぬ森での野宿決定に凹みつつも、魔法がある程度使えることが分かったのと、アリーンとサリーンが一緒なので不安はあまりなかった。
「アリーン、サリーン。これくらいしかないけど、食べる?」
私が差し出したのは、ここに来る前の日に作って持っていたマドレーヌ。
学校で課題をしつつ、糖分補給をしようと作って持って行っていたもののあまりだ。
「わぁ、とっても美味しそう!」
瞳を輝かせて喜んだのはサリーンだ。
アリーンも興味津々に寄ってきたので、二人に一つずつ渡す。
「じゃあ、ちょっとだけど一緒に食べよう」
私の声に合わせて三人で食べ始めた。
「んー!美味しい!」
二人は顔を見合わせて叫んで、とっても美味しそうに食べている。
微笑ましい二人を見つつ、私も二つ食べた。
その後は、周囲に結界を敷き野生動物や悪意ある人物の接近が不可能なようにして、魔法で出したテントを張って、さらに寝袋も出して寝ることにした。
三人で話して、明日からは森を抜けて人里を目指すことにしたからだ。
「アリーン、サリーン。 おやすみ」
「おやすみ、ユウ」
こうして私の異世界生活一日目は、なんとか無事に過ごすことが出来たのだった。
翌朝、目覚めると枕元には見たことのない果実が置かれていた。
これはなんだろう?見た目はリンゴとかミカンなんだけれど……。
思わず手に取り、じっと見つめているとアリーンとサリーンが飛んできた。
「ユウ、これは私たちの仲間が置いてったものだから、食べられるわよ!」
「愛し子が近くにいると知って、嬉しくって寄越したみたいだから。有難く頂きましょう」
ニコッと告げるサリーンに私も笑顔を返しつつ答えた。
「有難いね。じゃあ、そうさせてもらおうかな」
こうして、朝は優雅にフルーツでの朝食となったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます