1-19 食人鬼討伐戦
「ゲァァァァァッッッ!!!」
食人鬼の怒声が周囲に響き渡る。音が空気に振動し、僕の全身をビリビリと揺さぶっていく。
「おいおいおい.......そんなのっていくらなんでもありかよ.......」
正直、この状況はかなり不味い。辺りは見渡す限り何も無い平原。身を隠す場所がどこにも見渡らなく、食人鬼から逃げ切れる自信がない。
僕はそっと腰のベルトに触れる。
残りのダガーはあと一本。元々僕が二本持っていたのと、チンピラから奪った二本の計四本あったが、その内の三本が既に壊れて使えなくなっている。
食人鬼が僕を憤怒の表情で見据える。赤い肌が灼熱の瓦礫に襲われた事と、激しい怒りによって真紅に染っていた。 頭部のこめかみからは青筋が浮かび上がり、どれほど怒っているのかを表しているのかが分かる。
「ウェルト、ヒートチャリオットを使う」
アシュレイが横から重砲を食人鬼に構えながら言った。
「最早この状況で食人鬼に背中を向けることは非常に危険だ。だから、戦うぞ」
食人鬼は怒り心頭。あの様子では地平線の彼方まで僕達を追いかけてきそうな感じだ。 今の状況で食人鬼から逃げても背中から襲われて殺されるだけだろう。
「ヒートチャリオットの勝算は?」
僕は枯れた声でアシュレイに聞いた。
これまでヒートチャリオットなんて技能はアシュレイは、使ってこなかった。それはつまり、ヒートチャリオットはアシュレイにとって奥の手なのだろう。
「ヒートチャリオットはフレイムカノン以上の大技だ。凄まじい火力を誇り、食人鬼に大きなダメージを与えられるはずだ。が、」
アシュレイは僕の顔を見て苦しそうに俯く。
「大技故に、かなりの溜めがいる。その時間は約一分」
ギリッ、と僕がダガーを握る手に思わず力が入り込む。
一分間。短いようで長い時間。
あの状態の食人鬼を一分間も引き付けなればならないのはかなり難易度が高いだろう。
「その時間を僕が稼げばいいんだな?」
「そうだ」
だが、やるしかない。やらなかったらただ殺されるだけだ。僕はアシュレイの言葉に頷き、
「任せておけ」
地面を蹴って、食人鬼に向かって駆け出した。
「ゲェァッ!」
食人鬼の腕が伸びて僕に高速で迫る。空気を裂きながら伸ばされた赤い腕は僕の姿を捉え
「瞬歩!」
られない。
僕の身体が歪み、食人鬼の腕は地面に叩きつけられた。
砂塵が舞い、鉤爪が大地を抉りとる。その隙に、食人鬼へと接近をしていた。
「歪風!」
僕はダガーを振るう。真空の斬撃が飛来し食人鬼の頭部へと命中した。
一本の大きな赤い線を作ってよろめく食人鬼だったが、効果は薄いようだ。すぐさま傷口が塞がっていき、再生される。
けどこれでいい。食人鬼を引き付けるのが僕の仕事だから。
滑るように僕は食人鬼の目の前に躍り出た。ダガーを斜めに振るい抜き、食人鬼を袈裟斬りを見舞う。
しかし、左肩の辺りを斬ったが筋肉が硬すぎて刃が通らない。カキン、と乾いた音を立てて後ろへ弾かれた僕に、食人鬼の大口が開かれて迫ってきた。
これで残り時間はあと半分ぐらいか? 頼むぞ、アシュレイ!
「回し蹴りッ!」
その場で一回転。僕の身体がくるりと回り、食人鬼を蹴り飛ばした。
食人鬼は少し押されて攻撃を中断されたが、初撃に放った腕を僕に向かって振り下ろしていた。
「ぐっ!?」
振り下ろされた腕をブレードブロックを使って受け止める。腕の骨と筋肉がミシミシ軋み、悲鳴をあげる。両足が地面に食い込み、全身が潰されていくような感覚に陥っていく。
あと少し.......あと少しだ、僕!
全身の力を抜いた。食人鬼の腕が僕を潰す前に瞬歩を発動して掻い潜る。
しかし、それを嘲笑うかのように、片方の腕が孤島の弧を描くように僕に向かって放たれた。
「くッ! 」
あと少し、もう少しで一分!
伸ばされた腕を身体を斜めに捻って躱し、懐に入り込んだ。鋭利な鉤爪が僕の肩を掠め、赤い飛沫が頬を濡らす。
身体を捻った勢いを保ったまま、食人鬼の右脚の関節部分にダガーを突き立てる。筋肉が裂かれ、骨の隙間までダガーは到達した。
「準備が出来た! 行くぞウェルト!」
「ぶちかませぇッ!」
僕はダガーを抜き取り、回し蹴りと瞬歩を同時に発動させて食人鬼の腹部を蹴り飛ばして後方へと後退した。
そして、アシュレイの重砲からヒートチャリオットが放たれた。
「ヒートチャリオット!」
熱光が銃口に収束していく。
空気が轟々と、重砲の排斥口から吸い込まれる音が聞こえてくる。 薄白い煙がアシュレイの周囲を漂い、黒い重砲は高温で溶けた鉄のように赤くなっていた。
いや、実際その通りだ。どろどろと重砲は鉄の雫を地面に垂らしながら融けていく。
銃口から灼炎が一点に集中し、食人鬼に向けられた。
「発射ッ!」
空気を螺旋状に巻き上げながら、想像を絶する高温の熱光線が食人鬼に向かって撃ち込だされた。
蜃気楼、というものがある。
熱で視界が歪み、空間にあるはずがないものが浮かび上がるあの現象だ。
それが、今まさにここで起きていた。
僕の視界はブレる。本来見えないはずの熱の色と言うべき淡い赤色が、僕の目に映っていた。
空気が赤色一色に染まっていき、大きな衝撃波を起こしていく。
光線は地面を真っ赤に削りながら食人鬼へと放たれる。
光線が通った後の地面は、白い煙を吹き出しながら硝子状に熱せられ、黒土が濁った白へと変わっていく。
ヒートチャリオットで生じた熱い突風が僕を勢いよくあおった。身体が焦げていき、全身が焼かれていくようだ。
思わず両腕で顔を庇ったら、服が熱によって着火していた。
「いけぇッ!」
僕は叫ぶ。
食人鬼は僕に右脚の関節を砕かれた事でヒートチャリオットを避けれない。赤の光が食人鬼の身体を覆い尽くし、焼き払う。
――そして、鼓膜が破れるほどの轟音が響いた。
湿地帯の一箇所に爆心地が作られる。光線は大きく膨張して爆発し、巨大なクレーターを作っていた。
「なんつー、凄まじい威力だ」
爆心地の中心には、プスプスと身体が真っ黒に焼け焦げた食人鬼が膝を崩して座っていた。
「ゲァァ.......」
食人鬼はまだ生きていた。
全身が焼きすぎて焦げたパンのように炭化させていながらも、まだ息の根がある。
僕は最後のダガーを右手に強く握りしめ、食人鬼の元へと走って跳躍する。
「これで終わりだッ!」
食人鬼の見上げる方向に、僕の姿が視界に映る。既に僕は歪風を発動していた。薄緑色の魔力がダガーのは僕の腕まで包んでいく。
「歪風!」
僕はダガーを振りかぶって投げた。歪風を纏ったダガーは食人鬼の頭部に刺さり、魔力の暴発が巻き起こる。
鎌鼬が発生し、焼け焦げてボロボロになった食人鬼の身体を容赦なく両断した。
-ステータスが更新されます-
-食人鬼を1体倒しました-
-Lvが3上がりました-
-スキル『
-風遁術がLv2になりました-
「やった.......」
湿地帯の近隣を脅かしていた食人鬼は、僕達の手によって討伐された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます