233話 属性と要素
「あっ……がぁ……はぁっ……」
ルタは、大量の血を口から吐き出し、地面に倒れ込んでいた。
エーリが放った魔法は、超高濃度に圧縮された地恵を片腕に溜め込み、それを乗せた突きを相手に繰り出すというものだ。
それを腹に受けたルタは、固有属性を貫通され腹を貫かれていた。
痛みを一瞬で過ぎ去り、熱さが腹周りを襲いルタは悶絶する暇もなく気絶をしては意識が戻るという行為を繰り返していた。
その様子を、少し離れた所からエーリは見ていた。
審判のエルフが寄ろうとしたがそれをエーリは許さなかった。
自分の殺し合いに他の輩を介入させたくないという至極単純な理由だ。
「どう……する……まだ……やる?……それとも……死ぬ?」
「……まだっ!……やるに……決まってる……」
ルタはどうにかして、アイテムボックスからポーションを取り出し、応急処置としてル己にふりかけるが殆ど意味をなさなかった。
だが、無理矢理にでも足腰を動かし、立ち上がろうとするが、腹筋がないので上手く立てない。
「ここ……まで……なんて考えない!!」
折れた腕で自分の頬をひっぱたきルタは気合いを入れる。
ここまで抵抗する人間はこれまでおらず、エーリと試合してここまで長く生き残っていた事も無いので観客席では皆、固唾を飲んで二人を見守っており、審判であるエルフも、最初は一瞬で終わると高を括ってあざ笑っていたが、今は二人の様子を観客同様の視線で見ていた。
何とか立ち上がったルタを見て、エーリはペコを再び動かす。
「グルグァアアア!!!!」
「ーーっぐぁあ!!!」
ペコの強烈な突進によってルタはフィールドのギリギリまで吹き飛ばされる。
強靭な肉体から繰り出される突進はトラックに突っ込まれるのとほぼ変わらない威力と衝撃を誇り、正面で受けたルタはさらに深手を負う。
ルタは意識が飛ぶ直前に唇を噛みちぎり大量の出血で何とか意識を保つが、肝心の体が痙攣を起こしていた。
そして、トドメをさすべく上空に飛び上がっていたエーリはそのまま落下と同時に首を切り落とすつもりで腕を振りかざす。
「なぜ……だ……風前の灯……の……くせに……ぃいいいい!!!」
そう、ルタの体は既に動かない筈なのにも関わらず、立ち上がっていたのだ。
そして、ルタは上空にいるエーリへ視線を向け既に捉えており手を振り上げる。
折れた骨があらぬ方向へ動きルタの腕から突き出てしまうがそんなの御構い無しにエーリの方へ微笑みかける。
これまで何人もの人間や同族、他種族を殺してきたエーリですら初めて感じる新種の恐怖に一瞬体が強張る。
「私の……一撃……!!」
ルタの雰囲気は、ランプを彷彿とさせるようでこの短時間で急激な成長を遂げた。
ーー超神血経典属性魔法<火天泳法/エルヘイム>
ルタを覆っていた全ての火が右掌に集まり球体状になっていく。
超高温で周囲の石版をどろどろに溶かしながら、その球体は大きさを小さくして行きその火の球をルタは握りしめる。
だが、それと同時にエーリも超死送人形要素スキル<死離滅裂/デースフード>を発動し、両腕を超高濃度の真っ黒に染まった地恵をまとわせ、両腕同時に落下の勢いと共に上から下に振り抜く。
それに臆する事なくエーリの腕に向けてルタは手を開くと、そこから猛烈な火柱が放たれエーリの腕を一瞬で焼き焦がす。
「がぁああああああ!!!いだいぃいいいい!!!!」
エーリが放った火は、ただエーリの腕を焼き焦がすだけでなくまるでそこに意思があるかのように一向に消えないのだ。
自然回復力や体の耐久力も人間よりも突出しているエーリだったが、火が消えなければ痛みは永遠と続く。
その様子を見る前、魔法を放つと同時にルタはそのまま地面に倒れ気絶していた……
エーリは、地面に不恰好な形で落下したのでそれでもまたダメージを受け、試合どころではなくなっていた。
**
試合はあれから両者引き分けとなり、二人は檻に返されていた。
ランプはルタの姿を見るにすぐポーションをふりかけるが完治は難しく、出血を止める程度しか出来なかった。
「ルタっ!!」
「おね……ちゃ……ん……ごめん……な……さい」
かすれる声で何とか声を出すが最後の方はもう何を言っているのか聞き取れなかったが、ランプだけは分かっていた。それに、もう助からない事は一目瞭然ではあったが姉であるランプは最後まで諦めていなかった。
手当という手当を施し、ずっとルタに声をかけ続けていた。アーバンも旅での知識を活かした治療をランプに指示するが、結果は変わらない。
わらわらと溢れ出そうになる涙をグッと堪え、堪えて堪え続けて、ランプはルタの手をずっと握っていた。
そして、告げられるーー
「今日の決着は、明日の夜再び行われる……」
種族、カンターによる無機質な声の通告は異様に大きくランプには聞こえ、それと同時に尋常では無い怒りがこみ上げる。
自分の非力による愚かさもそうだが、ここまでの事をしたフレイス連邦国やルタをただ高みの見物でいたこの国にいる国民……
「全員……ルタに……」
「おいおい、ランプ変な気を起こすなよ……」
ランプは激しく歯ぎしり音を立てて明らかに怒っているのが一目瞭然だったが、それを見たアーバンは何か嫌な予感を覚えランプを静止する。
「私を止めないでください……」
「いや、俺は止める。過去に同じような人は何人も見てきたんだ、全員誰一人として歯向かって生きて帰ってきたやつはいない!!」
アーバンは、もう顔見知りに誰も死んでほしく無い……
その一心でランプに語りかける。
だが、
「明日の夜……私は動きます」
ランプは冷静にそう告げる……
そして、ルタの手先が冷たくなるのを肌で感じながらランプはフレイス連邦国、二日目の夜を寝ないで過ごした。
その間、ずっとアーバンはランプを説得していたが、ランプがその声に耳を傾ける事はなかった……
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