234話 可愛らしい王さま
フレイス連邦国 王城ーー
フレイス連邦国一の大きさを誇る城は、教会のような水色半透明色で装飾された建物がいくつも連なったような見た目で、城の端から端までの距離が三キロメートルはある。
国のシンボルであるのと同時に、フレイス連邦国でも地位の高い種族しか入る事が許されておらず、一番上の階には国を収める王が滞在している。
そして、その部屋へランプ達ベールヌイ村を襲ったジューバン=ベールが訪れていた。
普段、兵長レベルの種族は出入り出来ないが、今回は王の特例で許しが出ている。
フレイス連邦国では、国を守る兵士をまとめて咎罪(むざい)と呼ぶ。全ての咎罪約七万人をまとめているのが七人のリーダーであり、その七人を軸にそれぞれ一万人ずつ兵を持っている。
七人の下の兵には位も存在し、上からクシャトリガ(超級兵:五十名)、ヴァイス(上級兵:一万)、シュード(中級兵:二万)、アチュル(一般兵:四万)となっている。
ジューバンはこの中でもシュード(中級兵)に位置し、兵をまとめるような存在である。
「失礼いたします」
ジューバンは口から心臓が出そうなほど緊張し、本当は報告だけして逃げたいくらいだった。
そう、位がいくら高くとも咎罪のリーダー七人とそれを統率する王には会いたくない種族が多かった。
ただでさえ強者がはびこるこのフレイス連邦国でトップに立つというのは並大抵のことではない。確実に一癖も二癖もさらには三癖があってもなんら不思議ではない。
何されるか分からないし下手なことも言えないので、早く部下と飲みにでも行きたいくらいだ。
扉の前には誰もおらずジューバンの声に自動的に反応しゆっくりと扉が開くのを待つ。
扉は重低音を奏でながらジューバンを迎え入れるように開くとジューバンの視界にはこのフレイス連邦国を一望できるほどのガラス面とその最高の景色を独り占めする一人の少女が座っていた。
「お前が、ジューバンか……」
すると、横から重苦しい声で問われる。
ジューバンは顔を声の方へ向けるとそこのには、フレイス連邦国 咎罪のトップの七人の内の一人、アイルゼン=ヴゥーダスが茶を作っていた。
緊張していたジューバンはあまりにも想像していた風景と違っていたために緊張がどっと抜けていく。
「は!咎罪シュード所属のジューバン=ベールです」
「あら!少し早い到着ですね!!」
ジューバンの声で外を眺めていた王が振り返り可愛らしく手を振りながら、自分の近くにある椅子へ誘導する。
フレイス連邦国を治める、王……女王、それが人間の少女の姿をしたオセロ=カスタードーー
実際の種族は妖狐で、本来の姿になると九本の尻尾が生えた妖艶な着物姿の狐型の獣人の女性へと変化する。
普段は、人間の少女の姿でおり、ジューバンに向けたように可愛らしく振舞っている。
手招きされ誘導されたジューバンは何も疑う事なく用意された椅子に座る。
「今回は素晴らしい人間を捕らえてきてくれてありがとうございます!どうやら、とても良い品質の人間が入っていたので、大変私は嬉しいです!!」
オセロはアイルゼンが持ってきたお茶を片手に立ち上がり、外を見ながら嬉しそうに言う。
その様子は王という威厳など一切なく、本当に無邪気な少女で、ジューバンはいつの間にか緊張が解けていた。
「きょ、恐縮であります!」
屈託のない笑顔でしかも国のトップ、女王に言われジューバンも気分がこれまでにない過去経験もしたこともないほど高揚する。
「最近、美味しい人間を食べていなかったのでちょっと気分が落ち込んでいたのですよ!」
「そうだったのですか……」
「ええ!なので、しっかり調理の方頼んであるんです!」
フレイス連邦国では、人間を食料とする種族は多くいるが別に人間ではないと生きて行けないという訳ではない。
だが、オセロは人間を食べると言うことに取り憑かれたようにハマり、強制収容所はいわば食料庫となっていた。
そして、強制収容所で行われている試合などは全て人間を痛ぶり、程よく柔らかくなった肉を食すための調理……
肉などは調理前に叩いたりすると柔らかくなるのと同じで、人間も痛ぶり肉を柔らかくする。
品質が低ければ低いほど叩き、高品質と言われる人間は丁寧にご飯を与えられ頃合いになったら叩き食すという行為を行なっていた。
品質は、属性の扱い具合で決まり、固有属性まで使える人間と言うのは天恵の質も良好で、とても美味しくなる。
なので、オセロは収容される人物を品定めし、品質が高いのを食事用、低いのを労働用と檻を使い分けている。
「楽しみです!」
「あ、ありがとうございます」
オセロの気分が絶好調なので、こうやってお茶や椅子にまで座らせてくれるという待遇が用意されジューバンは運が良かったと言える。
「そこで、ジューバン!あなたの位を一つ上げようと思っているの!」
ジューバンはまるで気絶するかのように脳へ何もされていないのに衝撃が走る。
「く、く、く、位をですか!!」
位が上がる、即ち、シュード(中級兵)からヴァイス(上級兵)へ上がる事を意味する。
それは、相当凄い事で滅多にあることではなかった。
位が一つ上がるだけで待遇は倍以上違い、ヴァイスからは様々な特権もついてくる。
「なんという待遇、ありがたき幸せ!今後より一層精進してまいります!!!」
椅子から転げ落ちるように跪いたジューバンは、無い頭をこするように感謝をのべる。
「頑張ってくださいね!」
「は!!」
とてつもないはっきりとした声で涙を流しながら返事をすると、そのまま下がってもいいと言われたジューバンは足早に城を後にする。
部屋の扉が閉まり、オセロとアイルゼンの二人だけになる。
「よろしかったのですか?あれの位を上げてしまって」
「構いません!偶にこう言う事がないと皆のやる気がなくなってしまいますからね!」
「なるほど……」
「それに……使えなくなれば切り捨てれば良い話……ですっ!…………………からね」
嬉しそうにオセロは舌を軽く出しながら言うと、それを合図にアイルゼンは動く。
「こちら、本日のお食事でございます」
アイルゼンが軽く目配せすると、獣人のメイド達が食事を運んでくる。
「はなせぇえ!!ふざけるな!!くそが!!」
そこには、傷だらけの太った中年男性が拘束されていた。
「良い身のつきかたね!」
オセロは、その男が置かれたテーブルに椅子をかけ座り、火をかける。
男が設置されたテーブルは熱を通しやすい素材で出来ており、普段オセロは好みによって焼き加減を調整し食べている。
中でも……
「今日はレアが良いわね!!」
「gyぁうがやあああああああ!!!!!!熱い!!あがlたっあ!!!」
レアは最悪で、焼かれるが完全には死ねないという苦痛を与えられるというもので、永遠に続くかと思えるほどの痛みが全身を駆け巡る。
オセロも新鮮で、焼きたてのものが美味しく、死んでからは劣化が早いという事を熟知しているので火加減も絶妙で、簡単に死なせてはくれない。
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